全長5.3mの新型「“8人乗り”高級ミニバン」どんなクルマ? 巨大スクリーン&冷温庫採用! “巨体を感じさせない走り”も魅力のメルセデス・ベンツ新型「VLE」をスペインで試す!
“バン感”を消した新世代ミニバン
最新のメルセデス・ベンツはモダナイズされ、「洗練さ」を前面にアピールしていますが、その中でも伝統の「質実剛健」の思想を色濃く受け継ぐモデルがミニバンの「Vクラス」です。1998年に初代が登場して以降、欧州のミニバン市場をけん引してきましたが、現行の3代目が登場したのは2014年のこと。
かつてはミニバンといえばファミリーユースもしくはビジネスユースが主でしたが、最近はセダンに変わる「新たなプレステージモデル」という役割が与えられ、日本や中国を中心にそれに見合った高級モデルが数多く登場しています。
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Vクラスもそんなライバル相手に進化を続けてきましたが、商用車派生モデルという枠組みの中で戦うのは限界があったのも事実でしょう。
そこで、すべて刷新して登場したのが今回試乗した「VLE」です。「ミニバンの評価は日本人が一番適任でしょ」ということで、スペイン・ビルバオで行われた国際試乗会に赴き、一足お先にその実力を確かめてきました。
ちなみにVLEは今回の試乗拠点からクルマで約1時間の場所にある「ビトリア工場」で、VクラスやVITOとともに生産されます(ICEとBEVの混流生産)。
2026年はカール・ベンツが自動車を発明してから140周年、実は同氏による動力付き配送バン……つまり商用車の発明から130周年でもあります。商品概要のプレゼンではバン部門の広報責任者・ヤニーナ・クルンツェ氏がこのように語りました。
「VLEはこれまでの商用車派生のVクラスの枠組みを超え、最大8席の広大な空間を持つ『グランド・リムジン』という独自のセグメントを定義して開発されました。顧客の声を反映し、日常生活に寄り添う高い適応性を持たせています」
エクステリアはVクラスのイメージを踏襲しつつも、より流麗なワンモーションシルエットへと生まれ変わりました(商用モデルとは完全に別デザイン)。フロントはクラシカルな大型グリルを構え、サイドは四隅にレイアウトされたタイヤによる踏ん張りの強さを表現。リアは逆U字型のライトを採用するなど、一気にモダナイズされて“バン感”は一切ありません。
仕様は、ベーシックな「スタンダード」、スポーティな「AMGライン/AMGライン・プラス」、そしてゴージャスな「エクスクルーシブ」を用意しています。
パッと見はVクラスよりも凝縮感があるものの、実際のボディサイズは全長5309mm×全幅1999mm×全高1943mm、ホイールベース3342mmとかなりの巨体。特に全長はVクラスのエクストラロング並みとなっています。
驚くべきは、この巨体でありながら、空力特性ではミニバンとして驚異的なCd値0.25を実現している点です。車体全体の空力を徹底的に最適化し、特に車両後方のルーフラインを僅かに下げる設計にすることで、走行時の乱流を最小限に抑えています。
インテリアもVクラスと比べると隔世の感があります。インパネ周りは10.25インチドライバーディスプレイ、14インチセンターディスプレイ、14インチフロントパッセンジャーディスプレイ(グレード別)で構成された「フルデジタルコクピット」を採用。センターにはワイヤレス充電スポット2箇所とカップホルダーを統合したショートセンターコンソールが装着されています。

デジタルコクピットは最新のメルセデス・ベンツではおなじみの光景ですが、水平基調のインパネデザインに合わせたレイアウトも相まって非常にスマートに仕上がっています。
セカンドシートはアルヴェル顔負けの豊富なバリエーションを用意しています。スタンダードは手動シートでベンチシートかキャプテンシートが選択可能。車両からの脱着が容易になったのとシート下部に4つの車輪が組み込まれる(取り外した後の移動が楽)など、利便性を大きく向上させています。
AMGラインは電動調整式キャプテンシートを採用。脱着はできませんが、用途に応じてセンターディスプレイからシートアレンジを行うことができます。
そして、エクスクルーシブはシートの電動操作はいうまでもなく、シートベンチレーション&ヒーター、オットマン、マッサージ機能、カップホルダー&格納式テーブル、ワイヤレス充電まで付く「グランドコンフォートシート」を設定。
加えて、後席用に31.3インチの格納式大型スクリーン(8K解像度、画面の分割表示可能、8メガピクセルカメラ内蔵)や冷温庫などなど、まさに“全部盛り”の内容となっています。
細かい部分では「スライドドアの窓が開閉式になったこと(Vクラスはできなかった)」、「デュアルバックドア(リアウィンドウのみの開閉が可能)」、「ハンズフリーアクセス(スライドドア&バックドア)」など、個人的には日本のミニバンの“当たり前”の便利機能がしっかりと採用された点も、高く評価すべきポイントでしょう。
メカニズムはどうか。パワートレインはBEV(電気自動車)のみの設定です。欧州ではビジネスユースがメインなので「選択と集中」なのかと思いきや、BEVのみだからこそ勝負できる“武器”を数多く用意しています。
その核となるのが、BEV専用プラットフォーム「VAN.EA(Van Electric Architecture)」の採用です。フロント(全モデル共通)/センター(バッテリー容量やサイズで可変)/リア(後輪用モーター有無)の3つのモジュールの構成となっており、高い拡張性を誇ります。
これにより、ひとつのプラットフォームでありながら、今回のVLEのような乗用モデルとVITOをはじめとする商用トランスポーターとの明確な差別化・ポジショニングを可能にしています。
車体はアルミニウム比率50%を誇るマルチマテリアル構造を採用。軽量化に加えてメルセデス・ベンツの同セグメントモデル史上、最も高い安全性も実現しています。
サスペンションは連続可変ダンパーとエアスプリングを組み合わせた「AIRMATICサスペンション」を搭載。車高調整幅80mmを活かし、停車時には車高を40mm下げて乗降性アップ、悪路では40mm上げてロードクリアランスを確保する万能っぷりです。
さらに後輪には最大7度の操舵角を持つリアアクスルステアリングを採用。これにより全長5309mmの巨体でありながら、最小回転半径は約5.5mとコンパクトカー並みの取り回しの良さを実現しています。
4輪駆動の「VLE400」のリアセクションは後輪用モーターを横に寝かせて搭載、エアマティックサスペンションのダンパーも約45度寝かせて配置する超低パッケージ化と、日本車顔負けのアイデアで、室内高を犠牲にすることなく完全フラットフロアを実現しています。タイヤはグレードに応じて19〜22インチまで用意されています。
パワートレインは「VLE300」がフロントにモーターを搭載する前輪駆動(FF)でシステム出力は276ps、VLE400がフロント/リアにモーターを搭載する4輪駆動でシステム出力は407ps。バッテリーはNMC(ニッケル・マンガン・コバルト)で容量112kWh(重量は約640kg!)となっています。ちなみに車両重量は3500〜3700kgとトラック並みです(驚)。
気になる航続距離は欧州測定モードで700km以上。プレゼンでは「東京から岡山までノンストップで走れます」と日本メディアでも分かりやすい説明がありました。
電費向上のために空力向上(Cd値0.25、高速走行時にAIRMATICサスペンションで車高を下げる)、熱マネジメント(最新世代のヒートポンプ)、ディスコネクトユニット(VLE400)など、様々な工夫が盛り込まれています。当然、充電性能も抜かりなしで、800Vテクノロジーの採用により、僅か15分の急速充電で355km分の航続距離を回復できるといいます。
全長5.3mの巨体を感じさせない走り
このように“語る”ことがたくさんあるVLEですが、実際に乗るとどうなのでしょうか。
ビルバオの街中は道幅が狭い上にタイトなコーナーや交差点が多く、巨大なミニバンには不釣り合いな試乗環境です。試乗前は「持て余すのではないか?」と身構えましたが、走り出すと不思議なほど車体は「小さく」、「軽く」感じられます。これはモーター駆動ならではの応答性とトルク、リアアクスルステア、そして視界の良さが大きく貢献しています。
乗り心地は「アジリティ(俊敏性)」を強調したスポーティで硬めな最新メルセデス・ベンツの味付けとは少し異なります。一言で表現するなら「フワフワなのに、なぜか芯はシッカリしている」という感覚です。
試乗車は285/40R22を履く「エクスクルーシブ」でしたが、それを感じさせない快適性です。19インチ(235/60R19)、21インチ(265/45R21)の試乗車にも乗りましたが、インチが下がるほどに入力がより「まろやか」という程度で、どの仕様も大きな差はなく高いレベルにあります。
乗り心地の指標のひとつに、「バネ上をフラットに保つ」がありますが、VLEは路面の凹凸に対してバネ上はそれなりに動きます。人間の波長に合う絶妙な動き方なのと、入力をあえて素早く吸収させずに時間をかけて「溶けて無くなるように」いなしていくので、何ともいえない“心地よさ”です。ただ、ラフなアクセル/ブレーキ操作をしてしまうと、前後方向はちょっと動き過ぎる印象もありました。

街中を抜け、ミニバンには不向きと思えるタイトなワインディングへ。ここでも街中以上にクルマが「小さく」、「軽く」感じられました。さすがに「俊敏」とまではいきませんが、身のこなしのスマートさはミニバンというよりも目線が高い高級セダンに近い印象です。
これは床下にバッテリーを敷き詰めたことで見た目以上に低重心な基本素性に加えて、車両姿勢を緻密にコントロールしているAIRMATICサスペンションとリアステアの相乗効果によるものでしょう。
コーナリングの扱いやすさにはさらに驚かされました。決してスポーティなキャラではありませんが、タイトコーナーでもフロント外輪に荷重が乗りすぎることなく、4輪を上手に使って気持ちよく曲がっていきます。一般的なミニバンはコーナリング中に前のめりの挙動が出やすく「これ以上は無理だな」と感じる限界が早く訪れがちですが、VLEはセダン系と変わらない見事なボディコントロールを披露。
かなりのコーナリングGがかかる場面でも車体は極めて安定しており、さらにそこから切り増しができるほどの“懐の深さ”を備えています。もちろん超重量級なので無理は禁物ですが、タイヤのグリップも高いので超重量級であることを忘れて走れてしまうことこそが、ある意味最大のウィークポイントなのかもしれません。

しかし、逆をいえばそれだけのポテンシャルがあるからこそ、この余裕がドライバーにとっては意のままに操れる「安心感」、リアシートのゲストは加減速やコーナリングのGをほとんど意識しない「極めて上質な移動空間」に繋がっているのだと確信しました。
一方で、高速道路のようなクルージング区間では逆に重さがプラスに働きます。ミニバンにありがちな横風によるフラつきや、わだちに足元をすくわれるような不安定さはほとんど無く、どっしりと大地を掴む優れた直進安定性を見せてくれました。
パワートレインに関しては「劇的に速いか」と問われれば、決してそうではありません。しかし、Vクラス(ディーゼル)と比べると電動車ならではの優れた応答性や、瞬時に立ち上がるトルクにより、動力性能は確実にレベルアップしています。
ただ、ミニバンが多く使われる常用域ではVLE300とVLE400の差が意外と小さく感じられました。ダイナミックセレクト「コンフォート」は過渡領域のトルク感が非常に扱いやすく好印象なものの、アクセル開度が大きい領域ではスペックの差を考えると少し物足りなさを覚えたのも事実です。
逆にダイナミックセレクト「スポーツ」に切り替えると元気すぎる(0-100km/h加速6.5秒は伊達ではない)ため、その中間くらいの味付けがあるといいな……と思いました。
総じていうと「ミニバン」ではなくコンセプトの「グランド・リムジン」にふさわしい仕上がりです。加えて、最新のメルセデス・ベンツの「先進性」と、かつてのメルセデス・ベンツの「極上の走りと乗り心地」が心地よく融合しており、次世代メルセデス・ベンツの方向性を示す重要なモデルのように感じました。メルセデス・ベンツはこのVLEをセダンに変わる新たなショーファーカーに育てようとしているのでしょう。
今回のモデルはVLEですが、その上に上級の「VLS」がスタンバイ(2026年後半)、さらには極上の「マイバッハ」仕様も計画されているそうです。つまり、今まで以上に“本気”だということです。
日本導入は現時点では未定ですが、間違いなく日本・中国をはじめとしたアジア地域を意識しているのは間違いないでしょう。
唯一の課題は、3500〜3700kgという車両重量です。日本では2017年3月12日以降に普通免許を取得した場合、車両総重量3.5トン以上のクルマは運転できない(準中型免許が必要になる)ため、一部のユーザーが免許の制約に引っかかる可能性があります。
日本法人はどのようなスペックを検討しているのか気になるところですが、個人的にはミニバン大国で“勝負”をするならば、廉価バージョンではなく、最上級の「エクスクルーシブ」とスポーティな「AMGライン」の導入はマストでしょう。

