記事のポイント 2026年ワールドカップは3カ国16都市で開催され、移動や高額チケットがファン参加の壁になっている。 ブランドは現地施策だけに頼らず、自宅観戦やソーシャル上の熱狂を生むインフルエンサー活用を強めている。 2画面視聴が広がるなか、テレビCMだけでなく、ターゲットを絞ったクリエイター主導施策が重要になっている。


サッカー・ワールドカップ北中米大会は6月11日に開幕した。この世界的なサッカーイベントは、その周辺でアクティベーションを展開しようとするブランドに、厄介な課題を突きつけている。試合は米国、メキシコ、カナダにまたがって開催され、交通面の難しさや、不透明なチケット転売をめぐる噂もある。イベントの規模の大きさと、ファンにとって実際にどれほどアクセスしやすいものに感じられるかとのあいだで、緊張感が高まっているのだ。

そこに、米国の巨大なクリエイターエコノミー(今年371億ドル、約5兆9360億円に達すると予測されている)と、サッカーが米国の主要スポーツに大きく後れを取っている現実が重なる。その結果、マーケティング環境は異例なほど難しいものになっている。ブランドは、スタジアム周辺でのアクティベーションを中心に据えたり、ファンがテレビ中継を視聴することに頼ったりするだけではなく、開幕前からクリエイターに投資している。遠く離れた場所からワールドカップへの熱気を高めるため、特注のスポンサードコンテンツ、ブランド主導の長尺シリーズなどを依頼しているのだ。

デジタルメディアパブリッシャーのナウディス(NowThis)でシニアバイスプレジデント兼収益責任者を務めるマット・グランシャン氏は、「ファンダムをどう築くかという点で、クリエイターは成功の鍵になる」と語る。「ニューヨークとニュージャージーで開催されるワールドカップは、ロジスティクス上の悪夢だ。ブランドに何ができるのか、という話である」。

スタジアムの外で熱狂をつくる



1カ月にわたり、地理的に分散して開催されるトーナメントである以上、ブランドはF1やスーパーボウル(Super Bowl)のように、開催都市でスポンサードイベントを仕掛け、クリエイターが現地で文化的瞬間を捉えてくれることに期待するだけでは不十分だ。開催都市から離れた場所でも、ワールドカップへの期待感をつくれるクリエイターが必要なのである。

クリエイターマネジメントエージェンシーのカレンツ(Currents)CEO兼創業者であるキャメロン・アジャリ氏によれば、ブランドはすでに大会に向けて、サッカー文化を取り込もうとしてきたという。

「我々のクリエイターは、メジャーリーグサッカー(Major League Soccer)や、米国内の下位リーグに関連するサッカーイベントにも参加してきた。そうしたリーグのプロモーションは強化されてきた。人々はサッカーについてもっと語り、ワールドカップへの機運を高めようとしていた。いまブランドが問い始めているのは、『試合当日に現地でアクティベーションをしなくても、ワールドカップをめぐって文化的に起きていることにどう関われるのか』ということだ」と同氏は語る。

カレンツに所属するクリエイターのうち、ジュリー・ソウザ氏とケンジー・ウィリアムズ氏の2人は、まさにその役割を担うために起用された。つまり、スポーツ色の薄いオーディエンスを、自宅からワールドカップに向けて盛り上げることだ。インスタグラムで240万人のフォロワーを持つソウザ氏は、ホームイベントの企画や装飾で支持を集めてきた人物で、最近ではスポーツをテーマにしたパーティーへと領域を広げている。これまでNFLをテーマにしたコンテンツを制作し、キングス・ハワイアン(King's Hawaiian)やディレクTV(DirecTV)といったブランドから、スーパーボウル、全米オープン(U.S. Open)、MLBの試合に合わせたパーティー装飾の制作を依頼されてきた。

現地に行けないファンに向けた体験づくり



ソウザ氏が手がけるテーマ型パーティーは、大きなスポーツイベントに参加できないことによるFOMOを和らげることを狙っている。人々に集まって自宅で観戦することを促すものであり、参加のハードルがますます高くなっている今回のワールドカップにおいては、極めて重要な意味を持つ。

ソウザ氏のマネジャーであるエマ・クラーク氏はこう語る。「高額なフットボールの試合、特にいまのワールドカップに行く余裕がない人は多い。チケットは1000ドル(約16万円)を超えている。では、実際にフィールドやスタジアムに行かなくても、どうすればそれを体験にできるのか。まさにそこで、いまジュリー氏は力を発揮している」。

ジ・アスレチック(The Athletic)によると、2026年ワールドカップのチケットの大半は数百ドルで、アッパーデッキ席は数千ドルに達する。グループステージのチケットは1枚60ドル(約9600円)から620ドル(約9万9200円)の範囲だったが、60ドルのチケットについては、ファンが入手に苦戦したと報じられている。大会を控えた数カ月間、チケットをめぐるスキャンダルが議論に影を落としており、ニューヨーク州とニュージャージー州の司法長官は、チケット販売プロセスに関する共同調査の一環として、FIFAに召喚状を出している。

ソウザ氏にはフェレロ(Ferrero)から、自宅で撮影するワールドカップをテーマにしたパーティー動画2本の制作依頼があった。1本は大会前に公開され、もう1本は大会開催後に公開された。クラーク氏はDigidayに対し、これはソウザ氏にとって高額案件のひとつだと語ったが、金額の詳細は明かさなかった。ソウザ氏はまた、サター・ホーム・ワインズ(Sutter Home Wines)からも、ワールドカップ前にブランド投稿を公開する依頼を受けている。成功を判断するために使う指標については明かしていない。

一方、FIFAの公式スポンサーであるクエーカー・オーツ(Quaker Oats)は、家族向けのライフスタイルコンテンツを制作するウィリアムズ氏に、自身の一日をどう「燃料補給」しているかを見せるコンテンツを依頼した。ウィリアムズ氏はまた、ベスト・バイ(Best Buy)と電子機器メーカーのハイセンス(Hisense)から、新しいテレビ製品ラインのプロモーションを打診されている。

ウィリアムズ氏は自身のパートナーシップについて、「試合会場で楽しむ必要はない。家にいてテレビで観戦しても楽しめる」と語る。

この考え方は、より大きな規模で権利保有者にも広がっている。スポーツストリーミングプラットフォームのダゾーン(DAZN)は、史上初めて48チームで開催されるワールドカップを活用するため、数カ月にわたり世界中でクリエイター施策を展開してきた。4月には、サッカークリエイターを世界中から募集し、ダゾーン48(DAZN48)という取り組みのために、各国から1名ずつ「特派員」を選んだ。

同社の最高収益責任者兼プレジデントであるウォーカー・ジェイコブス氏はDigidayに対し、「これはすべて、ワールドカップの物語をファンの目を通してどう伝えるかということだ。ピッチ上で起きていることだけではない」と語る。「誰もが試合を観ることはできる。だが、ワールドカップという文化的現象のようなものを理解することこそ、このプログラムの本質である」。

2画面で観るワールドカップを制する



インフルエンサーマーケティングプラットフォームのレイター(Later)CEOであるスコット・サットン氏によれば、自宅のテレビでワールドカップを観戦することは、ブランドにとって大きな機会になる。同氏は、ワールドカップの序盤、つまり数週間にわたって1日に複数試合が行われる段階は、「2画面の視聴体験」になると見ている。視聴者は試合を受動的に観ながら、同時にスマートフォンも見るということだ。こうしたデュアルスクリーン行動自体は新しいものではない。だが、それは従来型の大型テレビCMだけをマーケティング手段にすることはできない、という現実を改めて示している。

サットン氏はこう語る。「ワールドカップ序盤に広告を出すブランドの立場なら、ユーザーの多くは2画面の世界に生きている。彼らは観ているものに半分しか入り込んでおらず、こちらは極めて精密なターゲティングができず、十分な注意も得られない。そこでソーシャルメディアとクリエイターエコノミーが入ってくる。多くの企業は、この2画面の世界で、特定のオーディエンスに届く、よりターゲットを絞ったパーソナライズコンテンツに本格的に取り組んでいる」。

コパ90(COPA90)のエグゼクティブクリエイティブディレクターであるショーン・フランシス氏も同様の見方を示し、今回の大会は「クリエイターのワールドカップ」になると示唆する。より多くの人が、従来型の放送局ではなく、クリエイターから最新情報やハイライトを得るようになるというのだ。

フランシス氏は、「平均的な人は、この大会にテレビで接する時間よりも、ソーシャルメディア上で接する時間のほうが長くなるだろう」と述べた。

この2画面体験を踏まえて動いているのが、レイズ(Lay's)だ。同ブランドは、ワールドカップ期間中にリオネル・メッシ、アレクシア・プテジャス、スティーブ・カレル、デビッド・ベッカムといったセレブリティが参加するワッツアップ(WhatsApp)チャットを通じ、友人同士のグループチャットのような独自施策を展開している。ファーストパーティデータはマーケティング上の金鉱である。同時に、このスナックブランドはリーチをテレビの外へ、そして試合そのものの周辺や、試合から離れた場所で生まれる会話のなかへと広げることができる。

ユビキタスでないブランドの勝ち筋



今年のワールドカップは3カ国16都市にまたがって開催されるため、対面でのアクティベーションはなおさら難しい。サットン氏は、試合を観に行く人々はサッカーの熱狂的ファンというより、より「一般的な」オーディエンスになるとも指摘する。しかし、サッカーに対して概して無関心な国で中継される、2画面視聴が主流のスポーツの最中に注目を集めるのは、また別の難しさがある。

「地理的に分散しているため、あらゆる場所で試合がある。特定の種類のオーディエンスに到達しようとするのは難しい。人口は非常に異質だ。主要スポンサーは、地球上のすべての人が潜在的に買いたいと思えるような、ユビキタスなブランドでなければならない」とサットン氏は語る。

同氏によると、そうしたユビキタスな存在ではないブランドは、デジタルやソーシャルで「ターゲットを絞らない大量投下」を避け、代わりにクリエイターを活用して、より狙いを定めた広告を行っている。

Digidayが話を聞いた3人のマーケティング幹部によると、ワールドカップ関連のブリーフは、いまも彼らのデスクに届き続けているという。これはFIFA公式スポンサーと非スポンサーの双方が、ロジスティクス上は難しいが、世界的には重要なイベントをめぐって、クリエイター主導の多層的な戦略が必要であることに気づき始めていることを示している。ひとつの層は、大会前や大会期間中に自宅から関心を高められるクリエイターとの提携であり、もうひとつの層は、現地でのアクティベーションや試合そのものにクリエイターを連れていくことだ。

フューズ・クリエイト(FUSE Create)の戦略担当バイスプレジデントであるジャッキー・コスタック氏はこう語る。「クリエイターは単にリーチを広げているだけではない。ファンとワールドカップの距離を縮めている。今年、その役割はかつてないほど必要に感じられる」。

[原文:Brands turn to creators to build World Cup buzz amid a logistics nightmare]

Alyssa Mercante(翻訳・編集:的野裕子)