宮城明弘(撮影=玉置正義)

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 「AIクリエイティブディレクター」として、ドラマや映画などの映像制作の現場で活躍の場を広げている宮城明弘。春ドラマだけでも『月夜行路 ―答えは名作の中に―』(日本テレビ系/以下『月夜行路』)や『サバ缶、宇宙へ行く』(フジテレビ系)と、複数の作品を同時並行で担当する気鋭のクリエイターだ。

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 映像業界歴15年のキャリアを持ちながら、AIを独学で始めてわずか1年半という驚異的なスピードで引っ張りだことなった彼に、AI映像制作の裏話、地上波ドラマならではの厳格なルール、そしてAIとの共存の未来まで、たっぷりと語ってもらった。

『サバ缶』『月夜行路』で活用された“AI映像”

ーーお恥ずかしながら「AIクリエイティブディレクター」という肩書きを『サバ缶、宇宙へ行く』のエンドクレジットで初めて拝見しました。具体的にはどのようなお仕事をされているのでしょうか?

宮城明弘(以下、宮城):簡単に言うと、「予算の都合などでこれまで作れなかったものを、AIで作り込んでしまおう」というお仕事です。よく「CGの置き換え」だと思われがちなのですが、CGだとどうしても膨大な予算と時間がかかってしまいます。これまでエンタメの現場でやりたくてもできなかった部分を、AIで補うというイメージですね。

ーー具体的にはどのようなシーンを担当されているのですか?

宮城:『サバ缶、宇宙へ行く』に関していえば、主に宇宙空間のシーンですね。探査機のはやぶさが宇宙空間を飛んでいくカットなど、通常の予算やスケジュールでは撮影が難しい、あるいはCGでは時間が回りきらない部分をAIで補うという役割です。ただ、すべてをAIで作っているわけではなくて、例えば劇中に出てきた「宇宙空間に浮かぶたこ焼き」はCGなんです。制作の全体ミーティングで意見を出し合いながら、「ここはAIでいきましょう」「ここはCGの方がいいですね」と、その都度振り分けを行っていました。

ーーはやぶさの映像などは、かなりリアリティがありますね。

宮城:私の想像で自由に宇宙の映像を生成しているわけではなく、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の仕様に則って作られており、さらに専門の宇宙関連監修の方が入っています。そのため、一度監督からOKが出たカットでも、宇宙関連監修の方から「本当はここはこうなんです」とご指摘をいただき、モデルの形状から作り直すということもありました。ただプロンプト(指示文)を入れて終わりではなく、そうした緻密な修正に追われる日々です。

ーーAIでの映像生成は微調整が難しそうですね。

宮城:そうなんです。例えば「はやぶさが地球からスイングアウトしていく映像を、完全に消えて見えなくなるまで小さくしていってくれ」というオーダーがあったとします。この消え方ひとつをとっても、私のほうで何パターンも違った消え方のテイクを作るんです。「消えてから何秒間、宇宙空間の余韻を残すか」といった微細な演出も、プロンプトの調整にかかっています。一つのカットに対して、24パターンくらい作成し、テレビ局側にセレクトしてもらうことも珍しくありません。

ーー『月夜行路』でもAIクリエイティブディレクターとして参加されていますが、こちらではどのような映像を担当されているのですか?

宮城:『月夜行路』では、まず番組の顔となるタイトルバックの絵をAIで作っています。それから、劇中に出てくる文学紹介のパートのアニメーションもすべてAIです。さらに、劇中で展開される謎解きのシーンに現れる文字やテロップ、ちょっとした差し込みのアニメーションなども私が担当しています。基本的にはアニメーション専門の担当という形で入っていますね。

ーーアニメーション表現をAIで出力するというのは、実写とはまた違った難しさがありそうですね。

宮城:そうですね。『月夜行路』の監督たちからは「文学作品のあらすじに沿って、こういうアニメーションにしてほしい」というオーダーが来ます。それを受けて私がプロンプトを入力して作り出していくわけですが、既存の文学作品がベースにあるものなので、原作のキャラクターデザインをそのまま使うことは許諾の関係などもあり難しいんです。そのため、「原作の要素を含みつつ、少しアレンジを加えたキャラクターデザイン」として新しく落とし込んでいく必要があり、そういった調整の難しさもあります。

独学わずか1年半。プロの現場でAIを操るためのノウハウ

宮城:実は、独学で勉強し始めてからまだ1年半くらいなんです。もともと私の周りに売れていない役者や映画監督がたくさんいて。彼らが作品を作ろうとしてもなかなか予算が集まらない現状を見て、「映像制作のプラスアルファとして、AIで何かできないかな」と思い、個人的に勉強を始めたのがきっかけでした。それが今や、自分でもここまでいろんな話がくるとは思っていませんでした(笑)。

ーーたった1年半で地上波ドラマを任されるまでになるとは驚きました。SNSなどでの個人制作とは違い、プロのドラマ制作の現場においては、映像表現そのものの知識が必要不可欠な世界だと感じます。

宮城:私は独立するまで、15年ほど映像畑でCMやショートドラマのプロデューサーをしてきました。その経験があるからこそ「ここはこういうアングルにしたほうがいい」といったカメラワークや映像の流れ、リハーサルでの演出の意図を汲み取ることができます。SNSなどで「AIで何でも作れます」と発信している人は多いですが、プロンプトだけで映像を思い通りに動かすのは想像以上に大変です。映像作りの基礎がない方が実際の現場に来ても、なかなか通用しないと思います。

ーーテレビ局ならではの厳しいルールや縛りもあるのでしょうか?

宮城:縛りは非常に多いです。生成AIによってはネット上のデータを学習してしまう懸念があるため、基本的にはテレビ局やプラットフォーム側から使用可能なツールが厳格に定められています。情報漏洩や著作権の観点から、海外の不透明なツールなどは一切使いません。「AIが勝手に想定して作ってくれる便利な機能」は、プロの現場ではほぼ使えないのが現状です。

ーー使用するツールだけでなく、AIへの指示の出し方についても決まりがあるのですか?

宮城:プロンプトを打ち込む際にも、テレビ局ごとに厳しいルールがあり、カットごとのプロンプトはすべて保管して、「固有名詞やタレント名、『〇〇風』といった言葉は一切入れていません」といつでも提出できるようにしています。

AIは人の仕事を奪うのか?

ーー現在、キー局からのオファーが殺到しているそうですね。

宮城:殺到しています(笑)。昨年の秋頃からいろんな局で「AIでどんな映像が作れるのか」というお問い合わせをいただくようになりまして、実は今、同時進行で10本ほど作品を抱えている状態です。

ーー10本同時進行ですか(笑)。宮城さんお一人で回されているのですか?

宮城:基本的には私一人で対応していたのですが、さすがに手が足りなくなってきたため、今はアシスタントを一人入れて現場を分担し始めています。もともと動画編集の知識がある子だったので、現場で直接育てながら一緒に回しているような状況ですね。

ーー業界内外で「AIに仕事が奪われる」という懸念も聞かれますが、宮城さんはどうお考えですか?

宮城:倫理的な部分は私自身が一番気にしているところです。私は俳優さんやクリエイターさんの仕事を奪うのではなく、「俳優をさらに良い演出で見せるための一つの手段」としてAIを使いたいと考えています。例えば以前担当した全編AIドラマ『サヨナラ港区』(読売テレビ)でも、声優さんや音響さんの仕事は奪わず、「アニメと実写の中間のような新しいコンテンツ」を作るためにやりました。実写ドラマにおいて、生身の俳優が持つ独特な「間」や、繊細な感情の機微を伴う表情の変化といった、人間ならではの表現をAIで代替しようとは思っていません。

ーーAIをあくまで表現を拡張するためのツールとして捉えているのですね。最後に、今後の展望をお聞かせください。

宮城:現在、さまざまな場所で著作権などの倫理に問題があるAI作品が溢れてしまっていますが、クリエイターと名乗るならそこは絶対に守るべきです。それをやってしまうと、業界全体の信頼を損ない、結果的に自分たちの仕事の首を絞めることになってしまいますから。便利な技術だからこそ、使い方を間違えれば現場そのものを崩壊させかねません。映像業界でもAIを使いこなせる人は今後増えてくると思いますが、限界を探りながら、人間のクリエイターとAIのベストな妥協点・共存点を見つけていくことが、今の私の役目なのかなと思っています。(文=玉置正義)