AI特需に沸くサムスン電子の従業員が勝ち取った「驚愕のボーナス」…日本と韓国の半導体人材の間に生まれてしまった「あまりに大きな待遇差」
サムスン電子の従業員に異変
1〜3月期、韓国最大企業のサムスン電子の業績は、AI向けの広帯域メモリー(HBM)などの需要増加で急拡大した。売上高は、前年同期比69.2%増の133兆9000億ウォン(約14兆4000億円)だった。営業利益は同8.6倍の57兆2000億ウォン(約6兆2000億円)、いずれも四半期で過去最高を記録した。
通常、業績拡大は企業の利害関係者に大きなプラスになるはずだ。ところが、同社についてはやや状況が異なるようだ。同社では、成果給を巡る労使の対立が一時、かなり深刻な状況に陥った。
労働組合はストライキを辞さない構えを示した。事態を重く見た革新派の李在明(イ・ジェミョン)政権は、歴代の左派政権と異なり、経営陣を支援したようだ。政府の介入もあり、労使交渉は20日夜に暫定合意に達し、21日からのストライキは回避された。
今回のサムスン電子の労使対立は、韓国の経済発展のステージを見る上で重要な機会だったといえるかもしれない。第2次世界大戦後、日米欧では労働争議が激化した時期があった。
ところが、1975年頃から、わが国の労働組合は経営陣と厳しく対立するより、協調を重視するようになった。米欧でも、経済の高成長期を経て社会が成熟するにつれ、労使対立は減少した。それに対して、韓国の状況は主要先進国と好対照に見える。
韓国の労働組合は、収益の伸びの余地はまだ大きく、ストライキを武器に組合構成員のメリットを増やすことを考えているようだ。ある意味、働き手の経済に対する成長期待は高いといえる。その背景の一つに、SKハイニックスやサムスン電子が急速に高めてきたAIチップ分野の競争力がある。
つまり、企業が成長し儲かるようになったことで、利益の分配について、労働側から強い要求が出ているのである。逆に言えば、企業が成長できているからこそ、労働争議が活発化しているともいえる。韓国企業が競争力を高めている点については、わが国の企業が学ぶべき点はありそうだ。
半導体企業の凄まじいボーナス
近年、韓国の半導体業界はAI向けのDRAM、NAND型フラッシュメモリー分野で世界をけん引している。その中で、サムスンは一時、HBMの量産で世界に先行したSKハイニックスにトップの座を渡したが、ここへ来てその座を奪い返した。同社は、フラッシュメモリー市場でも世界トップだ。
韓国では、伝統的に労働組合の影響力が強い。SKハイニックス経営陣は、労使対立を避けるために、早めに労働組合の理解を取り付けた。
昨年後半、同社は労働組合に対して、従来のボーナス上限を廃止することを提案した。その代わりに、10年間、年間営業利益の10%をボーナスとして配分する。
今年2月、同社は、基本給の2964%相当のボーナスを支給し、平均で1億4820万ウォン程度(約1574万円)を支払ったと報じられた。今年の収益予想に基づくと、最大で7500万円のボーナス支給が見込まれているようだ。
一方、サムスン電子は、業績連動賞与の上限を年俸の50%にしていたようだ。また、半導体以外の事業部門も持つため、ボーナス算定の基準が分かりにくいとの指摘もあった。
自社のボーナス制度は時代遅れで不透明との労働組合側の批判も報じられた。SKハイニックスの賞与上限撤廃により、5月までの3ヵ月程度の間で100人の組合員が転職。業績に見合ったボーナス支給を求め、組合に加入する従業員も増えた。
サムスン電子の経営陣は2026年限定で営業利益の約13%を支給する案を提示した。組合はSKハイニックスとの格差解消を求め、この提案を拒否。ストライキも示唆した。
万が一ストライキが起きて半導体工場の稼働が停止した場合、韓国政府は1日、1兆ウォン(約1065億円)の損失が生じると懸念を表明した。政府内には、最悪100兆ウォンの経済損失が発生するとの危機感もあったようだ。イ・ジェヨン会長が労使対立に関して、公式謝罪を行うなど騒動は韓国の経済社会に重大な衝撃を与えた。
そして5月下旬、サムスン電子の労使は半導体部門の従業員に最大6億ウォン(約6400万円)の自社株によるボーナスを支給することで合意した。こうした破格の待遇は、日本の半導体企業ではまず見られない。
労組が強硬姿勢のワケ
結果的に、サムスン電子のストライキはいったん回避されたが、5月下旬、韓国で人気のメッセンジャーアプリ、“カカオトーク”のカカオグループの労働組合でもストライキの懸念が浮上した。造船、航空、鉄鋼など他の分野でも、業績連動賞与の支給を求める労働組合は増えていると聞く。中小の労働組合でも、ストライキを示唆するケースはあるようだ。
現在の日米欧では、労働組合がストライキを経営陣に突き付けるケースはあまり見られなくなった。業績が良い場合はなおさらだ。韓国の労働組合の動きは、主要先進国のそれとは対照的に映る。
今回のサムスン電子のストライキ危機は、1960〜70年代のわが国の労使対立に似ているとの経済専門家の指摘もある。その背景の一つは、従業員の認識だろう。韓国の労働組合構成員は、企業業績の拡大余地は大きく、強く求めれば待遇改善は可能と考えているとみられる。
朝鮮戦争が休戦した後、韓国政府は内需より、外需を重視した。政府は、相応の経営・事業運営体制が整っていた財閥系の大企業を優先して事業の許認可を与え、輸出競争力の向上を支援した。
現代、サムスンなどの財閥は、主にわが国から製鉄、造船、自動車、テレビなどの家電、液晶パネル、そして半導体の製造技術を移転した。世界全体で需要が高まる分野にヒト、モノ、カネを迅速に配分し、大量生産を行う経済体制が構築された。
足許では、AIチップの成長期待は高い。
SKハイニックスとサムスン電子は、HBMに続き、AIに対応したNAND型フラッシュメモリー分野でもシェアが高い。その状況下、かつてのわが国の労働組合のように、労使の協調よりも、強硬姿勢をとることで組合構成員の待遇を引き上げる価値観は優勢とみられる。言い換えれば、韓国経済はまだ成熟しておらず、成長期待は高いともいえる。
では、日本はここから何を学ぶべきなのか。
つづく記事〈日本の国力低下を食い止めるには「国内半導体メーカー」の成長支援しかない…高市政権が舵取りを誤れば日本はさらに沈んでいく〉で、詳しく解説する。
【つづきを読む】日本の国力低下を食い止めるには「国内半導体メーカー」の成長支援しかない…高市政権が舵取りを誤れば日本はさらに沈んでいく
