「故郷の虐殺で覚醒した」中東の戦争が生む“分断”大越が見たミシガン州 米大統領選

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来月5日に行われるアメリカの大統領選挙。最終盤に突入し、トランプ前大統領がハリス副大統領をわずかにリードする展開となっています。

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勝敗を分けるのが“激戦州”と呼ばれる7つの州。このうち、中西部ミシガン州はかつて民主党の地盤と言われましたが、今回の選挙では、イスラエルをめぐる問題が選挙戦を左右しかねない状況になっています。

中東情勢が混迷を極めるなか、新たに生まれつつある“分断”の現場を大越健介キャスターが取材しました。

■激戦州“多数派”の届かぬ声

アラブ系住民の比率が全米で最も高いミシガン州。特にディアボーンは人口の半分以上がアラブ系です。もともとミシガン州は民主党の牙城でした。それが今、人々が持つ意見は以前とは異なります。

スーパー店主 モハメド・ムナサーさん(35)                    「トランプ氏が大統領の時には戦争はありませんでした。(Q.ここの人たちは“トランプ氏なら戦争を止められる”と信じたい?)多くの人が信じたいと思っています。何も信じないよりはましですから」エジプト出身 ハニ・マフムードさん(41)                   「私自身はトランプ氏に投票します。100%そうします」

アラブ系住民に共通するのは、イスラエル情勢から来る政治への不満です。

モスクに来た人                                 「(Q.誰に投票するか決めましたか?)今の国際情勢を変えてほしい。議論だけでなく行動を求めていますが、両候補にその気がなさそうです」「今回は誰にも投票しません。良い候補がいないからです」■希望奪う“イスラエル支援”

イスラエル支持を覆すことのない、ハリス氏。

民主党 ハリス候補                               「私はイスラエルが常に自らを守れるようにして、世界中のユダヤ人に安全と安心を確保するよう絶えず努力します」

家族・親族を現地にもつアラブ系住民の不満は高まるばかりです。モスクに来ていたチャディ・アブドゥルラゼックさん(41)。数日前にも、故郷レバノンの町がイスラエルの攻撃を受けました。前回はバイデン氏に投票しましたが、破壊されていく故郷を目の当たりにし、気持ちに変化が…。

チャディ・アブドゥルラゼックさん                         「裏切られ、オークションで売り飛ばされたような気持ち。今の政権はリップサービスばかりで、停戦や人道支援、ニ国家解決、パレスチナ人の尊厳を訴えますが、行動が伴わねば意味がありません。(Q.あなたと同じく、多くの方々に悲しい家族の歴史や生い立ちがあります。イスラエル支援をやめないアメリカ政府をどう思いますか?)このコミュニティーの大多数は現政権の継続を望んでいないはず。アラブ系住民の多くが、パレスチナ人へのジェノサイドの罰としてトランプ氏に投票するでしょう」■中東の戦争が生む“歪み”

揺らぐアラブ系住民の票の行方。トランプ陣営は「ハリスは親イスラエル」とあらわす看板を設置し、引きはがしに躍起になっています。両者の支持率は拮抗し、最新の世論調査でも0.5ポイント差の大接戦です。ハリス氏は連日、ミシガン州に入り支持を訴えます。

民主党 ハリス候補                                「知っての通り最後まで接戦になるでしょう。勝つのは私たちです」

この日、集会に参加していたアラブ系住民のなかからは、武器輸出停止を求める声がありました。アラブ票を失いかねないのに、なぜ武器輸出やイスラエル支持の姿勢をやめられないのか。それは、ユダヤ系の声を無視するわけにはいかないからです。集会に参加した民主党ユダヤ系団体の地区代表のトロイ・ズーカウスキーさん(60)。アラブ系住民が抗議の声を上げる気持ちはよく分かるとしながらも、民主党がイスラエル支持をやめることはできないと考えています。

民主党ユダヤ系団体 トロイ・ズーカウスキーさん                  「ユダヤ系有権者の圧倒的多数6〜7割がハリス氏に投票するとみています。(Q.現政権がイスラエル支援をやめたらハリス氏は?)それは政治的な自殺行為です。支援物資や軍備品の用途に条件をつけることはできても、イスラエル支援そのものを打ち切ることは政治的に不可能だと思います」■“対立”深まる果てに

中東での戦争は、アメリカ社会に新たな分断を引き起こしています。全米にイスラエルへの抗議デモが広がるなかで、名門ミシガン大学の学生たちも声を上げていました。しかし、批判の高まりは時に感情的な対立を生みます。不安を感じずにはいられない学生がいます。

ユダヤ系学生 ジェームズ・フォーマンさん(19)                「夜間に外出する時は周囲をよく確認します。標的にされている感覚があるからです。ユダヤ人が狙われる事件が続き、怖さが増しました」ユダヤ系学生 レビー・スタインさん(21)                   「(Q.この1年で交友関係に変化は?)アラブ系とユダヤ系の交友関係が、この1年で変わってしまったとよく聞きます。アラブ系でなくても、私たちの信仰に抵抗を持つ人もいます。残念ながらユダヤ人同士の軋轢(あつれき)もあります」

ユダヤ系の大学理事の事務所は荒らされ、学生もターゲットとなっています。

ユダヤ系学生警護団体 ミシガン大学大学院生 リオ・ガバロンさん(22)  「最初の攻撃は夜でした。ダビデの星を身に着けていた学生が数人に『ユダヤ人か』と問い詰められ『そうだ』と答えると追い掛けられ殴られました。『何かしないと』と思いました」

ユダヤ人学生への嫌がらせは加速し、ガバロンさんは警護団体を設立しました。

ユダヤ系学生警護団体 ミシガン大学大学院生 リオ・ガバロンさん       「(Q.有名大学に通う一人として、この国の分断をどう受け止めていますか?)アメリカの政治不安と、大学構内の暴力行為の増加には関連があると思います。今の政治の混乱は、ユダヤ人社会と対立する勢力との分断を深めているように感じます。『時代が違えばもっと良かったかも』と考えることはできますが、実際は分からないので現状を受け入れるしかありません」■大越が見たミシガンの“分断”

(Q.大越さん、ハリス氏もトランプ氏も同じ親イスラエルでありながら、アラブ系有権者が『トランプ氏だったらもっと上手くやってくれる』と期待していることに驚きました。取材をしていてどう感じましたか)

大越健介キャスター                                「アラブ系アメリカ人10人ほどにインタビューできましたが、そのなかに『ハリス氏に投票する』という人は1人もいなかったことに驚きました。レバノンから来た41歳のチャディさんが印象深い言葉を話していました。チャディさんが繰り返したのは『ジェノサイド(大量虐殺)』という言葉でした。自分の故郷レバノンがイスラエルの攻撃を受けることは、それが仮に自分が慣れ親しんだ家であっても驚かないと話す一方で『ガザでの大量虐殺が我々を覚醒させた。それを事実上、認めたバイデン・ハリス政権には裏切られた思いがします』と怒りをあらわにしていました。一方で、アラブ系コミュニティーでは、トランプ氏に強い支持が集まっているわけでもないように思いました。『消極的選択です』と語る人もいました。ただ、それが積極的選択であれ消極的選択であれ、接戦州のミシガン州でどちらの候補が勝利するかは、こうした小さなコミュニティーでも人々の心の振れ幅が、大きくものを言うと実感しました。結果を左右するのだということを実感しました」

(Q.ユダヤ系学生も不安を口にしていましたが、どう受け止めましたか)

大越健介キャスター                               「襲撃事件に話が及ぶと、ユダヤ系学生たちは深刻に身の危険を感じている様子でした。そうした学生たちのなかには、信仰を表すためのキッパーという小さな帽子を付けている人たちもいますが、それが標的になりやすい。例えば『20分かけて図書館まで歩いていく間に襲われないか不安です』と話す学生もいました。彼らと雑談をしていると、スポーツが大好きで、他愛のない冗談で大笑いする、どこにでもいる学生さんたちでした。ただ、イスラエルとアラブとの複雑な関係をどう乗り越えていくべきですかと質問すると『違いを強調するのではなく、互いの共通点を探ること。それが大事なのではないでしょうか。自分たちの世代が切り開いていきたいです』と表情を引き締めて話す姿が印象的でした。彼らは『どちらが大統領になっても、正直大きな期待はしません』と言いますが、彼らが背負った分断の現実を半分は受け入れながら、半分は何とか改善したいという使命感を持っている。そんな彼らに対して、国際社会は絶望ではなく、少しでも希望の持てるバトンを引き継いでいかなければならないと強く思いました」