香港警察が摘発「ディープフェイク詐欺団」の手口
香港警察はAI技術を悪用した「ディープフェイク詐欺」の手口を公表し、市民に注意を喚起した(写真は香港警察の発表会のオンライン中継動画より)
AI(人工知能)技術の急速な進歩とともに、偽の画像や動画などの「ディープフェイク」を悪用した詐欺事件が増加している。その最新事例の1つが、香港警察が10月14日に摘発を発表した組織的な越境詐欺事件だ。
摘発された詐欺グループは、生成AIで架空の人物を捏造し、SNS(交流サイト)などを通じて「ロマンス詐欺」を繰り返していた。香港警察によれば、被害総額は3億6000万香港ドル(約69億円)を超えるという。
彼らの手口は次のようなものだった。まずSNS上でターゲットを探してコンタクトし、AIで生成した人物のフェイク画像を送信してやりとりを重ねる。この偽物の人物は、外見はもちろん性格や経歴などについても極めて魅力的に装っていた。
有名大学卒業者も一味に
その後、ターゲットが恋愛感情を抱いたのを見計らい、偽物の人物(詐欺グループ)は「自分には仮想通貨の投資スキルがある」とささやく。さらに、かつて大儲けしたように見せかけた偽造の取引記録を見せ、ターゲットに共同投資を持ちかけるのだ。
香港警察によれば、被害者たちは投資から利益を得るどころか、元本さえ取り戻せないと気づく段階に至るまで、自分が騙されていることをまったく認識していなかったという。
10月9日、香港警察は詐欺グループのアジトに踏み込み、中心メンバーを含む27名を逮捕した。その中には、香港の有名大学の卒業者が6名含まれていた。さらに41台のパソコンおよびサーバー、137台のスマートフォン、20万香港ドル(約385万円)超の現金など多数の証拠品も押収した。
詐欺グループのアジトは香港の工業ビルの一室にあり、香港マフィアを背景に持つ中心メンバーの統率下で、まるで会社組織のように運営されていた。例えばグループの“人事研修部門”は、新入りのメンバーに専門的な研修や訓練を施し、中国語版と英語版のマニュアルも作成していた。
香港警察の発表会では、サイバー犯罪局の男性捜査官が架空の女性になりすます実演をした(写真は香港警察の発表会のオンライン中継動画より)
越境詐欺の実行にあたっては、(香港で一般的に使われている広東語ではなく)中国語や英語でターゲットとやりとりするコミュニケーション能力が求められる。さらに、複数のSNSプラットフォームを使い分けるスキルや、仮想通貨の専門知識も不可欠だ。そのため、“人事研修部門”はSNS上に虚偽の求人広告を出し、高学歴の若者を中心に募集していた。
取り分4割の誘惑に勝てず
そこに応じた新人たちは、グループに加わった後に初めて(仕事の内容がロマンス詐欺であるという)真実を知ることになった。しかし騙し取った金額の4割が自分の取り分になるという誘惑に負け、グループから抜けることなく犯罪に手を染め続けた。
10月14日の香港警察の発表会では、サイバー犯罪局の陳智穎(チャン・チーイン)警視正が、ビデオ通話の画面上で自分の顔と声を若い女性のものに変える実演を行い、ディープフェイク詐欺への注意を喚起した。
陳警視正のアドバイスによれば、ビデオ通話で不信感を抱いた場合には、相手に対してカメラの前で首を左右に振ったり、顔の前で指を振ったりするように求めると、(動きの不自然さなどから)フェイク画像かどうかを見抜きやすいという。
(財新 駐香港記者:文思敏)
※原文の配信は10月15日
(財新 Biz&Tech)