患者の健康に被害を及ぼす医療ミスや事故を短期間に繰り返した医師が、今も医療に携わり続けています。なぜ医師を続けられるのか?取材班がその背景に迫りました。

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福永よし子さん(79・仮名)は2020年1月、腰痛の検査のため、兵庫県赤穂市の赤穂市民病院に入院しました。主治医となった40代の脳神経外科医・A医師の診断は『重度の腰部脊柱管狭窄症』。「早急に手術が必要」と告げられ、5日後に手術を受けました。ところが術後、家族は思いもよらぬ説明を受けます。腰の骨をドリルで削っているとき、誤って神経を巻き込み、切断したというのです。

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福永さんの体には重い障害が残りました。1年前には杖もつかずに動けていましたが、ほとんど歩くことができなくなり、絶えず襲ってくる痛みに悲鳴をあげるように。もがき苦しむ姿は「見ていて耐えられない」と家族は悲痛な思いを打ち明けます。

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A医師の手術で後遺症を負ったのは福永さんだけではありません。赤穂市民病院は、A医師を採用してからおよそ8か月の間に8件の医療事故があったと公表。そのうち福永さんの件を「医療ミス」と認めたことから、福永さんと家族はA医師と赤穂市に損害賠償を求め提訴。その5日後にA医師は病院を依願退職しました。

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ところがその後、家族は耳を疑う事実を知ります。A医師は別の病院に移り、医師を続けていたのです。

2023年1月に90歳で亡くなった山田進さん。腎臓が悪く、以前から透析を受けていた山田さんは1月7日に新型コロナに感染。無症状だったものの透析を受けるために大阪市内の病院に入院しましたが、容体が急変して4日後に死亡しました。

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入院から2日間透析が受けられず、体調を悪化させていた山田さん。カルテを取り寄せた家族は、山田さんに透析が必要なことを担当医が把握していなかったと知ります。その医師こそがA医師だったのです。

A医師はミスを認めないままこの病院も退職。その直後、また別の病院に移りました。遺族は疑問を抱いています。8件もの医療事故にかかわったA医師を「なぜ病院は雇ったのか?」と。

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その理由を探った取材班は、それぞれの病院に勤務していた医師やスタッフに接触。すると、医療の現場を取り巻く複雑な背景が見えてきました。

赤穂市民病院でA医師とは別の科に勤務していた病理医の榎木英介さんは、当時の病院の「経営難」をあげ、手術を増やして業績を上げるためには、ひとりでも多くの医師を「雇うことにメリットがあったのでは」と指摘。

大阪市内の病院のスタッフもあげるのは「人手不足」。A医師の噂を知っていても、経営改善を迫られた病院は雇わざるを得なかったのではないかというのです。

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A医師は、福永さんへの医療ミスや、別の患者への手術で虚偽の報告書を提出した疑いなどで書類送検されていて、今後起訴され、刑事裁判になる可能性もあります。有罪判決が確定し、厚生労働省の審議会で免許の取り消しが相当と議決されれば、医師免許は取り消しに。しかし不起訴、あるいは審議会で免許の取り消しが認められなければ、医師を続けられるのです。

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先月4日、神戸地裁姫路支部にA医師が現れ、赤穂市民病院での医療ミスをめぐる訴訟で尋問を受けました。後遺症を負わせた福永さんに謝罪の意を示したものの、ミスを招いた原因の多くは自分ではなく、手術の助手を務めていた上司の指示にあったと主張。さらに8件の医療事故のうち7件は「自分だけが原因ではない」と述べました。

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「外科医としてメスは置いた」というA医師は、現在、大阪府内の病院に救急医として勤務しています。A医師が関わった手術で一生消えない傷を負った人たち。家族が納得する答えは、今後、司法の場で得られるのでしょうか。

医療ミス事件の背景は10月15日(火)放送の『newsおかえり』(毎週月曜~金曜午後3:40~)の特集コーナーで紹介しました。