「上皇さまのために生きていらっしゃる」90歳の上皇后美智子さま ピアノの深い音色とご夫妻の絆

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90歳=卒寿の誕生日を迎えられた上皇后美智子さま。

初めて民間から皇太子妃として皇室に入り65年。重い務めを果たす日々には常に音楽の喜びがありました。

「上皇さまのために生きていらっしゃる」美智子さまのピアノの深い音色とご夫妻の温かく揺るぎない絆について、「音楽のご友人」に伺いました。

転倒前日のコンサート 温かい空気で会場がひとつに

お住まいの仙洞御所で転倒し骨折される前日の10月5日。ご夫妻はピアニストの小山実稚恵さんのコンサートに足を運ばれました。

ピアノを通じて美智子さまと20年来の親交がある小山さん。ご夫妻はコンサートの後半を鑑賞し、観客と共に何度も拍手を送られていたそうです。

その時のことを小山さんはこう振り返ります。

「ホールの扉が開いて入場されると、全てがほどけるような本当に温かい空気になって会場がひとつになるんです。幸せな気持ちで演奏に集中できました」

音楽家と観客が、ご夫妻と一緒に音色に集中した特別な空間。そうした温かさは、今年7月に皇居で行われ、小山さんも出演したご夫妻の卒寿を祝う音楽会を取材した際にも感じました。

「音楽のご友人」から音楽の贈り物

チェリストの堤剛さん、世界の”ナベサダ”ことサックス奏者の渡辺貞夫さんなど、ご夫妻と交流が続く「音楽のご友人」たちがそれぞれ、心を込めて曲を選び、演奏しました。小山さんは「ピアノの詩人」とも言われるショパンの『ノクターン』を柔らかい音色で奏でました。

重い務めを果たしながら長い年月を歩んでこられたご夫妻の90歳を、両陛下や愛子さまなどご家族や職員たちが心から祝福し、小さなホールは温かい空気に包まれました。

美智子さまが大切そうにプログラムを抱えて退席されたお姿からは、本当に音楽がお好きであることが伝わってきました。心に残る音楽の贈り物を受け取り、ご夫妻は「良い演奏を聴かせていただいてありがとう」とお礼を伝えられました。

「最初の一音が心に残る」美智子さまのピアノの深い音色

結婚前からピアノをたしなんでいた美智子さまは、結婚後も忙しい日々の中で、時間を見つけてピアノの前に座り、ご家族や友人たちとアンサンブルや室内楽を楽しんで来られました。

小山さんによると、美智子さまのピアノは「最初の一音がものすごく心に残る」のだそうです。

小山さん「鍵盤の奥までタッチを入れられ音の深さや密度が濃い。美しいだけでは無く厚みがあり、ピアノを弾かれている時は本当に純粋にひたむきに音楽に向き合われていると感じます」

「弾きましょうか」「そうね」上皇さまとの演奏は「音楽の対話」

美智子さまは今回の入院の前までは、上皇さまがチェロのレッスンを受けられた後などに、時折お二人で演奏されていたといいます。

そんな時のお二人は本当に幸せそうなんだそうです。

小山さんは、「美智子さまが『では弾きましょうか』と仰ると上皇さまが優しく『そうね』と。あり得ないような温かい雰囲気で、寄り添われるように演奏されている姿が印象的です」と話します。

上皇さまの『そうね』は記者も取材中に何度も耳にしていますが、少し語尾が上がる『そうね』の響きは本当に優しく、記憶やアイデア、知識、様々な面で美智子さまに全幅の信頼を寄せられていることが伝わってきます。

そんなふうに毎日、様々な話題や思い出を語り合われているご夫妻にとって、言葉を交えず一緒に演奏する「音楽の対話」もまた、幸せなひとときとなっているようです。

「一緒に居たい」 お二人の信念がスピード退院に

お住まいで転倒して右大腿骨を骨折し、10月8日に手術を受けられた美智子さま。翌日にはリハビリを始め、手術からわずか5日後、13日に退院されました。

スピード退院の背景を、小山さんは「上皇さまをお支えするという美智子さまの強いお心と思い。あとはお互いにお二人で一緒にいらっしゃりたいと思っていらして、お二人の信念で1週間で退院されたのかしらと想像します」と推し量りました。

退院の日、お住まいの玄関で待たれていた上皇さま。無事に戻られた美智子さまの背中に手を添えられ、お二人ともとてもうれしそうだったそうです。

ある側近は「ご入院中と退院後ではお二人のご表情が全然違う。そばに居られることがお互いの安心感であり元気の源なのではないか」と話していました。

美智子さまは退院後、毎日午前と午後にリハビリを続けられています。

早く以前のように歩けるようになって上皇さまをお支えしたいという思いが、決して楽では無いリハビリの原動力になり、美智子さまは歩くための訓練にとても集中して取り組まれているそうです。

「上皇さまのために生きていらっしゃる」信頼と敬愛

お代替わり後の静かな生活に潤いをもたらしている「音楽のご友人」たちとの変わらぬ交流。小山さんはご夫妻の穏やかな会話から堅い絆を感じています。

「上皇さまは美智子さまを心から信頼され、美智子さまは上皇さまのことを敬愛、尊敬されている。『陛下いかがでしょう』『そうね』と穏やかに会話し見つめ合われているのは信じられないくらい素晴らしいことだと感じます」

美智子さまのピアノの深い音色から、芯の強さや「上皇さまのために生きていらっしゃるのかなと思う瞬間」が何度もあるそうです。「美智子さまの幸せは上皇さまの幸せのためにあるような瞬間を何度も拝見しました」。

以前、10年半にわたり在位中の上皇さまに仕えた渡辺允侍従長に、陛下(上皇さま)が一番うれしそうなのはどんなときか尋ねると、「皇后さま(美智子さま)がうれしそうな時」という答えが返ってきました。

その後葉山御用邸の前の浜辺で、美智子さまが地元の人たちと楽しく会話を弾ませられている後ろで、微笑みながら見守られている上皇さまを拝見し、まさにこのお姿のことだと感じた経験があります。

お互いの喜びが我が喜び 音楽が築いた揺るぎない絆

誕生日にあたり公開された映像は、骨折の2日前に撮影されたもの。

美智子さまは深いブルーグレーのジャケット姿で上皇さまとしっかり手を繋がれています。

10年以上美智子さまの洋服を手がけるファッションデザイナーの滝沢直己さんによりますと、ジャケットの素材は軽くてしわになりづらく、髪の色などともよく合う日本の伝統的な「青磁色」。最近よくお召しになる色味だそうです。「ジャケットもゆったりとしたボトムも、車椅子やリハビリのご生活にさほどご不自由は無いのでは無いかと思います」と滝沢さんは話していました。

胸元に留められているブローチは、上皇さまがエリザベス女王の戴冠式に出席するための初めての外国訪問中、未来の后のためにスペインで買い求め、婚約発表の日に美智子さまに贈られたもの。思い出深いブローチを、美智子さまは今もよく節目や大切な場面で身につけられています。

初めて民間から皇太子妃として皇室に入られてから65年。想像もつかないような様々な困難に向き合いながら、お二人で支え合って一つの道を歩んでこられました。

幼い頃から親しまれているピアノや児童文学などを通して、美智子さまは豊かな交流の輪や上皇さまとの揺るぎない絆を築き上げられ、お互いの喜びが我が喜びとなり、揃って90歳を迎えられました。

今回の骨折・手術もお二人で乗り越え、しっかりと手を繋いで歩き、ご一緒に音楽を楽しまれる日常が一日も早く戻るよう願っています。