土ドラ10『潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官』©日本テレビ

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 ドラマ『潜入兄妹 特殊詐欺特命捜査官』(日本テレビ系)で、八木莉可子とW主演を務める竜星涼。2024年度は『ACMA:GAME アクマゲーム』(日本テレビ系)でのお調子者の天才ギャンブラーや、大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)での荒くれ者の藤原隆家役など立て続けに話題作に出演し、今作では正義感溢れる妹思いの兄・貴一役で激しいアクションシーンも見せるなど、『占拠』シリーズの櫻井翔に次ぐ新たなヒーローとして期待に応えた演技を見せている。俳優・竜星涼の魅力と、本作の世界観の交わりについて掘り下げてみたい。

参考:『潜入兄妹』を『占拠』シリーズと絡めて考察 兄妹のどちらかが鳳凰の可能性も?

 竜星涼は、180cm超えのスタイルの良さと端整な顔立ちからクールなキレ者キャラが似合う一方で、男らしいけど明るかったり茶目っ気のある役を演じることが多い。頼れる兄ちゃん役も、逆にダメな人だけど憎めない愛され役も、ひょうきん者からミステリアスな役まで幅広く演じるが、根底にあるのが“真っ直ぐで熱い性格”というのがハマり役に共通している。そういった意味でも現在31歳だがどこか昭和の香りもする魅力ある役者だ。その熱さを活かしつつ、どんな役でも清々しさを感じさせるところが唯一無二だと言える。

 竜星の名を世間に轟かせたのは、2013~14年に放送された『獣電戦隊キョウリュウジャー』(テレビ朝日系)の桐生ダイゴ/キョウリュウレッド役だ。史上最強のレッドと言われることも多く、とにかく強く、そして素直で真っ直ぐな楽天的な性格で、同時に仲間を惹きつけるカリスマ性と器の大きさで仲間を引っ張っていくリーダー的存在。そうした頼れる兄貴分的な役を完璧に演じ、激しいアクションシーンも見せた竜星。自身はこの役を「ブレイブで気持ちのいい男」と評していたが、まさにこのイメージが俳優・竜星涼を確立したと言っても過言ではない。(※)

 その後は多くの作品で活躍していく中、役者として風向きが変わったのは2019年の主演ドラマ『都立水商! ~令和~』(MBS)での、水商売を教える高校教師役だ。これまでのクールな役柄とは違い、頼りがいがないけれど一生懸命で、隙だらけで生徒たちにつっこまれまくりだけど、みんなのお兄ちゃん的存在として生徒に愛される教師を好演。演技が上手な若手俳優は数多くいるが、視聴者が感情移入できる役者となったのは本作がきっかけだったように思う。

 そして2022年に“朝ドラ史上最低のクズ兄”と世間の注目を浴びたのが『ちむどんどん』(NHK総合)でのニーニーこと主人公の兄・比嘉賢秀役。家族思いだけど、とにかく自由奔放なダメ兄貴で、当時はニーニーが登場する度に視聴者からも非難の声が上がったほど。ただそんなダメ兄貴を活き活きと竜星が演じ切り、ニーニーの根底にあるピュアで真っ直ぐさを感じさせ、どうしようもない人特有の愛らしさを見事に表現した。役に対してクレームがくるというのは、それだけ演技が上手い証拠だ。

 一方で2023年の『VIVANT』(TBS系)では、主人公たちをマークする公安の部下役を演じた。クールな役だが尾行に度々失敗するなどポンコツキャラのイメージを植え付け視聴者を油断させておいて……と曲者役者ぶりを見事に発揮。『光る君へ』の藤原隆家役では、生まれながらの陽キャでありつつ計算高く、みやびな世界の中でとにかく異端児なキャラを竜星は活き活きと演じ、視聴者の目を釘付けにしている。元々キョウリュウジャーの頃から竜星が持つ真っ直ぐな熱血漢というブレない軸があり、それをどうカモフラージュしていくかで様々な役柄が演じられ、役によって体温を変えてすらいそうなほど、幅広く役を演じ分けられるのが竜星の強み。その強みが『潜入兄妹』で遺憾無く発揮されている。

 『潜入兄妹』で演じる渡良瀬/円山貴一役は、元神奈川県警・巡査で、正義感と行動力を併せ持ち、何よりも妹のことを第一に考えているという役柄。初回では父親が殺害される前の闇のない優しいお兄ちゃんの演技から始まり、潜入捜査官になる前に独自で犯罪組織に立ち向かう際は殺戮マシンと化したような冷徹な表情を見せた。もはや感情のない闇堕ちした人間になったのかと思いきや、闇組織に入る説明会で意図しない妹が参加しているのに気づいた時の動揺ぶりは、実に人間味溢れる心配性のお兄ちゃんの表情だった。この演技があることで視聴者は感情移入をすることができる。

 今作はアジアンテイストな多国籍の世界観と、犯罪組織のアングラ感が色濃いノワール作品で、竜星が持つ“熱さ”が世界観に負けず、むしろ絶妙なバランスで溶け込んでいる。また、八木演じる妹・優貴がいることで貴一の人間味と竜星の演技の魅力がどんどん引き出され、愛されキャラに育っていくはずだ。ただ今作は騙し合いのドラマなので、これまでのキャラはいったいどこまでが本音なのか。もしかしたら、潜入捜査官になる前の無感情なキャラが真の正体の可能性もある。静かな演技も得意だが、大袈裟な世界観だと尚更光る役者でもあるので、どちらにも展開できるところが竜星の強みであり、今作がハマる理由だろう。

 また、今作は『大病院占拠』(日本テレビ系)『新空港占拠』(日本テレビ系)のチームが結集したオリジナル作品。特に『占拠』シリーズのフォーマットを引き継いでいるだけに、大人気となった櫻井翔演じる武蔵三郎刑事の後釜を担えるのかが心配されたが、武蔵は熱血漢で天然とも言える真っ直ぐさが視聴者に愛されたように、今作の兄妹も完璧に見えてけっこう隙のあるキャラだ。簡単に縛られてはピンチを迎え、妹の「兄ちゃん!」からの「最悪だ!」のコンボが定番になりつつあり、ツッコミどころはしっかりと引き継ぎ視聴者の期待に応えている。

 また、個人的にはアクションシーンはもちろんのこと、今作では長い廊下を歩いたり、毎回妹と並んで歩くシーンがあり、パリコレ経験のある竜星だけにランウェイのように歩く姿が実にカッコよく、見どころの一つとして楽しみにしている。そういった意味でも竜星涼の魅力が詰まりまくった今作でみんなから愛される国民的お兄ちゃんになれるのか、今後の演技に注目したい。

参考※ https://www.tv-asahi.co.jp/kyouryu/interview/02/(文=本 手)