「異教徒の息子」というだけで地獄のイラン刑務所で”禁固5年”...「嘘の自白」をさせられ最後には「死刑」が待ち受ける”最悪の拷問”

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イランでは「好きなことを言って、好きな服を着たい!」と言うだけで思想犯・政治犯として逮捕され、脅迫、鞭打ち、性的虐待、自由を奪う過酷な拷問が浴びせられる。2023年にイランの獄中でノーベル平和賞を受賞したナルゲス・モハンマディがその実態を赤裸々に告発した。

上司の反対を押し切って担当編集者が日本での刊行を目指したのは、自由への闘いを「他人事」にしないため。ジェンダーギャップ指数が先進国最下位、宗教にも疎い日本人だからこそ、世界はつながっていて、いまなお闘っている人がいることを実感してほしい。

世界16カ国で緊急出版が予定されている話題作『白い拷問』の日本語版刊行にあたって、内容を一部抜粋、紹介する。

『白い拷問』連載第51回

「服をびりびりに破かれた」「“電流棒”で何度も突かれて、感覚がなくなった」...イランの刑務所で女性に対して行われた「地獄の拷問」』より続く

頭を殴られて傷が化膿

語り手:ナジラ・ヌリ、ショコウフェ・ヤドラヒ

ナジラ・ヌリ(1968年生まれ)とショコウフェ・ヤドラヒ(1967年生まれ)はニーマチュラヒー教団の神秘主義者(踊りなどを通じて神との一体感を追求する宗派の信者)である。2018年2月20日、ふたりは神秘主義者の集会に参加していたときに、第7ゴレスタン通りで逮捕された。第7ゴレスタン通りにはドクター・ヌール・アリ・タバンデー(イラン最大の神秘主義教団であるニーマチュラヒー・ゴナバディ教団の精神的指導者)が住んでおり、治安当局がそこに検問所を設置し、彼を逮捕するかもしれないという噂があったため、教団員が抗議のために集まっていた。およそ100人の教団員が治安当局に逮捕され、暴行され、血を流し大怪我を負った状態で独房に移送された。

--ショコウフェ、独房と隔離房でどう感じたのか、話してもらえますか?

ショコウフェ:私は逮捕時に頭を殴られて、そのせいで困ったことになりました。まず、嗅覚がなくなってしまったんです。それに頭の傷は化膿し、熱が出ました。夜は特に苦しかったです。

ある夜、眠れなかったので起き上がり、真夜中でしたが、温めた水で頭の傷を洗いました。少しはマシになるかと思って。苦しかったです。しかし善い人間であろうとしました。実際、独房のなかで心の内は平穏でした。

ドクター・ヌール・アリ・タバンデーがどうなっているのか分からなかったので、それが心配でした。自分の3人の息子の置かれた状況も不明で、それも心配でした。カスラとポリアは神秘主義者だったので逮捕されました。アミールは神秘主義者ではないのに、やはり逮捕されました。あの子が私とふたりの兄弟のせいで逮捕されたのだと思うと、やるせなかったです。

子どもたちはこの苦境を生き抜いていけるだろうかと気を揉みました。カスラは12年の禁固刑を科され、アミールは5年、ポリアは8ヵ月の刑期でした。カスラとアミールはまだ刑務所にいます。

流血している息子

ナジラ:私も、独房では常に誰かに見守られている感覚があったわ。実際には自分と2枚の毛布しかなかったのだけど。衛生状態は劣悪で清潔さなどかけらもなかったのに、気分は良かったの。ただ息子のキアラシュのことが心配で。息子がテヘラン中央刑務所に連れて行かれて、そこからまたどこかへ移送されたと聞き、いても立ってもいられない気持ちになったわ。

息子は嘘の自白をするよう、かなりの重圧にさらされているという話だった。夫と電話で話したとき、あの子を見つけて、サッター・ベヘシティ(サイード・サッター・ベヘシティは2012年にサイバー警察に逮捕され、拘禁中の拷問に抗議したのち死亡した)みたいに拷問されて独房で殺されたりしないように助けて、と懇願したの。嘘の自白をしてしまったら、そのまま死刑になるのではないかと思って。

キアラシュがどうなっているのか分からない間は、私の人生最悪の、悲惨な時間だった。3ヵ月後、あの子の居場所が分かって、やっと息をつくことができたわ。逮捕の夜、私は息子が血を流しているのにその場から引き剥がされてしまったのよ!

息子はあれほどの怪我をしているうえに、さらなる暴力と虐待が待ち受けている……あの瞬間、あの子の運命が見えたの。

振り返るとあの頃は、刑務所に入る前までは大事だと思っていた物事が、どうでも良いことになったみたい。逆に当たり前で気にも留めなかった、たとえばパスダラン通り(テヘラン中心部の大通り)を歩くことなどが新しい意味を持って自分に迫ってきたわ。キアラシュは16年半の刑を科されたので、もちろんまだ刑務所にいるの。それが最大の心配事よ。

翻訳:星薫子

「そこの女、黙れ!」囚人を発狂に至らせる“イラン刑務所”の《完全無音》の独房』へ続く

「服をびりびりに破かれた」「”電流棒”で何度も突かれて、感覚がなくなった」...イランの刑務所で女性に対して行われた「地獄の拷問」