能力が高い人は「分け方」がうまい…状況に応じて”わかりやすさ”の程度を変える納得の理由
数ある中からどれかを選んで買いたいけど、どうにもわかりにくい。そんな状態に陥らないようにするには、「分ける」ことが必要です。
暮らしにせよ、仕事にせよ、日常生活には、さまざまな「しにくい」があふれています。ちょっとしたコツを知れば、それを「しやすい」に変えることができます。
コクヨのワークライフコンサルタント・下地寛也さんの著書で、「分ける技術」を駆使してありそうでなかった「しにくい」の解決を探った本『「しやすい」の作りかた』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けします。
3つに分けると「選びやすい」
「わかりやすい」「選びやすい」「買いやすい」などを実現するために有効なのが「ざっくり3つに分ける」というやり方だ。ざっくりと言うと少々乱暴に聞こえるかもしれないが極めて効果的なやり方だと思う。
洋服や飲み物のサイズはたいてい「S・M・L」の3つに分けられている。本来であれば洋服も靴のように自分に合ったサイズが細かく用意されているといいのだが、それだとメーカー側も店側も非効率で扱いにくい。
最低限3つの選択肢があることで、店側は在庫を大量に置くロスを減らせて「仕入れやすい」し、買う側も「選びやすい」という、両者にとってのメリットを実現している。
これは服のサイズだけではない。
商品を「松・竹・梅」に分ける。
ジャンルを「衣・食・住」に分ける。
購買者を「富裕層・中間層・低所得者層」に分ける。
視聴者を「F1層、F2層、F3層」に分ける。
野球選手は「走・攻・守」の3要素を見られるし、野家は「うまい、やすい、はやい」の3つを提示している。
「2つ」だと物足りないし、「4つ」だと多すぎて難しく感じる。飲み物のサイズは「SとLです」と言われると物足りないし、「SとMとLとLLです」と言われると(そういったものも、最近はあるが)一瞬、迷ってしまう。
やはり「3つ」が「わかりやすい」のだ。
大切なのは「ざっくり」分けること
そうは言っても、3つに分けるのは難しいと思うことがあるだろう。大切なことは「ざっくり」分けることだ。「世の中の情報を得る方法」をざっくり分類すると、今なら「ネット」「テレビ」「紙媒体」となる。
「紙媒体」をざっくり分類すると、「新聞」「雑誌」「書籍」となる。
さらに「書籍」をざっくり分類すると、「単行本」「新書」「文庫」に分けられる。
「世の中の情報を得る方法」は、実際には「ラジオ」もあるし「人から直接聞く」というのもあるだろう。「紙媒体」には「ムック」「フリーペーパー」があるし、「書籍」の「単行本」には「四六判」や「A5判」などがある。
しかし、紙媒体は「新聞」「雑誌」「ムック」「書籍」「フリーペーパー」があるなどと分けても、なんだか頭に入らない。
几帳面な方はそういったことが気になると思う。その場合は、雑多なものは「その他」という4つ目の箱を用意して、ひとまずこちらへざっくりと入れてみよう。ただし、「その他」の箱に入れたものは、その後はあまり気にしないようにしよう。
大切なのは主要の3つだ。目をつぶりたい情報は「その他」の箱に入れたことは認識しつつ、視界の外に出してしまう。それが「わかりやすい」につながるのだ。
悪用厳禁! あえて3つに分けないテクニック
3つに分けると、相手に「わかりやすい」。優れたコンサルタントの常套句は「大切なことは3つあります」だ。
しかし、わかりやすいがゆえのデメリットもある。
私もお客様にオフィス空間のコンセプトを提案するとき、ポイントを3つにすることが多かった。たとえば‥‥
1、自律的に働く環境を選択して行動できる
2、部門を超えた気軽な意見交換が行われる
3、経営方針が現場に、現場の声が経営に届く
こんな具合だ。お客様にとっては、ポイントが整理されているのでわかりやすい。
しかし、ときおり、わかりやすいがゆえに、「それくらいのことなら、君に頼まなくても自分たちで考えられるよ」と言われることがあった。つまり、「わかりやすすぎた」わけだ。
ポイントを3つにしぼったと言っても、実際にやらなければいけないことはたくさんあるので簡単ではない。しかし、説明が簡潔になりすぎて、わざわざお金を出して頼まなくても自分たちでできるのでは、と思われてしまう。これまでに、こういうことが何度かあった。
そこである商談のとき、ポイントを「3つ」ではなく、あえて「5つ」にして提案してみた。
1、自律的に働く環境を選択して行動できる
2、部門を超えた気軽な意見交換が行われる
3、経営方針が現場に、現場の声が経営に届く
4、デジタルとアナログの適切なバランスを取る
5、アイデアを誘発する情報や素材が目に留まる
「わかりにくい」がいいこともある
このようにすると、最初の2つくらいまでは真剣に聞いてくださっていたお客様が、4つ目あたりになると「だいたい雰囲気はわかりました。あなたに任せますよ」と言ってくれたのだ。たぶん、5つとも大切そうだけど、自分たちで考えるには面倒だと思ったのだろう。
仕事をこちらに任せてほしいときには、あえて3つにしぼらず、5つや7つにして複雑化させる。「わかりやすい」より「わかりにくい」がいいこともある。
スティーブン・R・コヴィーの世界的ベストセラーのタイトルは『7つの習慣』だ。もしも、あれが『3つの習慣』だったとしたら、読者は書店で立ち読みして覚えてしまおうとするかもしれない。7つもあるから購入して、じっくり読もうという動機づけになったのではないか。
「わかりやすい」分け方をせず、あえて「覚えきれないけど、何か大切そうだな」と思わせる、ちょっと複雑な分け方にすることが有効な場合もあるわけだ。
『人によって給料に差がある理由を説明できますか?…賢い人は知っている“3つの視点”』では、限られた資源を複数人に分配するときに、考える必要がある“3つの視点”を紹介する。これは、日常生活や会社などで必須のものである。