「なんで...なんでしか出てこなかった」生後5か月のわが子 認可外保育施設へ預けた数時間後に「うつぶせ死」 保育従事者不足で繰り返された『ずさんな保育』の実態
去年7月、生後5か月の女児が保育施設でうつぶせの状態で死亡しているのが見つかった事故。MBSの独自取材で、ずさんな保育体制が浮き彫りに。さらに、行政が行う施設への指導のあり方についても問題点が浮かび上がってきた。
すくすくと成長していた中、突然失われた命
元気に遊ぶ女の子、柴尾心都ちゃん。両親と兄3人に見守られながらすくすくと成長していた。初めての離乳食を食べた生後5か月の心都ちゃん。この3日後、短い生涯を終えた。
大阪府泉大津市に住む柴尾さん家族。去年7月、夫が出張で不在となり、和歌山県田辺市に住む姉の家に子どもたちと滞在していた。息子たちから川に行きたいとせがまれたため、姉の知人が利用したことがある田辺市内の認可外保育施設に心都ちゃんを預けることにした。
(心都ちゃんの母 柴尾心さん)「私のお兄ちゃんが小さい時に川に連れていかれて火傷したと聞いたから、(心都ちゃんを)川に連れて行く方が危険かなと思って。ちゃんとした保育園で預かってくれるところがあったら、そっちの方が安全かなって」
託児所からのメッセージに「絶望の淵に落とされた」
しかし、心都ちゃんを預けて約1時間半後。託児所の代表を務める女性からメッセージが届いた。
『ことちゃん、意識なく病院に行きます 心肺停止の状態なんです』
(柴尾心さん)「絶望の淵に落とされた感じ。なんで、なんでという言葉しか出てこなかったです」
連絡を受け、心都ちゃんが搬送された病院へ急いだが、到着してすぐ、心都ちゃんの死亡が確認された。夫も出張先から駆けつけた。
(心都ちゃんの父 柴尾隆幸さん)「全身の力が抜けてしまって、膝から崩れ落ちて。子どもらの前では見せたことないような姿になっていたんじゃないかな」
(柴尾心さん)「急すぎて息子たちもよくわかっていなかった。次の日とかも死んだっていうのがわかっていなくて、『あれ、心都ちゃんは』『心都ちゃんなんで帰ってこうへんの』って言われてましたね。ママが預けてしまったから亡くなっちゃったっていうのを伝えていて」
心都ちゃんが成長したら着せようと楽しみにしていた洋服は今も大切にしまわれている。
(柴尾心さん)「どうしても着せたかったですね。女の子の服を選べるようになった時はめっちゃ楽しかったよな?」
(柴尾隆幸さん)「うん」
心都ちゃんが預けられていた時の状況
なぜ心都ちゃんは死亡したのか。司法解剖の結果は「ベビーベッドの上でうつ伏せで発見」、死因は「窒息の疑い」とされている。
心都ちゃんが預けられた認可外保育施設「託児所めぐみ」。代表を務める女性が遺族にしたという説明によると、この日、施設にいた保育士は代表の1人だけ。一方で、子どもは心都ちゃんを含む0歳〜6歳の4人がいた。代表と子ども3人は同じ部屋にいたが、心都ちゃんは別の部屋のベビーベッドで寝かされていた。
心都ちゃんがベッドに置かれてから約30分後、代表がうつぶせで呼吸が止まっている心都ちゃんを発見したという。
国の指導監督基準によると、この規模の認可外保育施設では保育従事者が最低でも2人以上必要とされている。
「なぜ保育士が足りていなかったか?」の問いに代表は…
なぜ当時、基準に違反して1人で保育していたのか。代表の女性を直撃した。
(記者)「保育士が当日足りていなかった理由は?」
(託児所めぐみ 代表)「すべて今捜査中なので、本当にすみません」
代表は「警察の捜査を受けているため何も言えない」と話した。
警察は業務上過失致死容疑を視野に、代表の女性から話を聞くなどして捜査を進めている。
事故の真相を知るべく施設を訪ねた母
9月、母の心さんは事故の真相が知りたい、と託児所を訪れた。心都ちゃんが寝ていたベビーベッドに花を供える。
そして、代表の女性に国の基準に反して1人だけで保育をしていた理由を尋ねた。
(柴尾心さん)「代表が1人で見るといつ分かったんですか?」
(託児所めぐみ 代表)「ごめんなさい。記憶がとても曖昧です」
さらに今回が初めてだったのかを質問すると…
(柴尾心さん)「本当は保育士が2人いないといけないけど、1人で見られていることがあった?」
(代表)「うん、うん、はい」
(柴尾心さん)「何回かあったってことですね?」
(代表)「別の保育士の子どもが体調不良でどうしても休まないといけない時は、(預かりの)キャンセルをどうしても言えなくて。そういうこと(1人で見る)は正直ありました」
(柴尾心さん)「今まであったということですよね?」
(代表)「そう、たくさんはなくても…」
代表はこれまでに何度か1人で保育をしていたことがあったと話した。
3回違反が続いていたのに…なぜ市は重い処分を下さなかった?
田辺市も2013年からの3年連続で、保育士の数が足りていない状況を把握し改善するよう指導していたという。
(田辺市子育て推進課・保育係 宇代夏樹係長)「いずれの年度も同様の指導をして、それに基づいて改善の報告をいただいている。(Q改善の報告とは?)『できる限り常に保育従事者が2人を下回らないように改善していきます』という改善の報告をいただいています」
託児所側は「できる限り改善する」と書面で回答しただけだったという。違反が改善されない場合、田辺市は「指導」よりも重い「勧告」や「施設名の公表」といった処分も行えた。なぜ、そうした処分を下さなかったのか。
(田辺市子育て推進課 吹揚恒夫課長)「(Q3回違反が続いていて、どの様な対応を取るべきだった?)どういった形であれば次の改善勧告にいくっていうのが全くないので。今回については、今から思えば確かに改善勧告だったのかなと思うところがございます」
実は保育施設に対する国の指導監督基準には「指導を繰り返し行っているにもかかわらず、改善の見通しがない場合には勧告を行うこと」としか書かれていない。
田辺市は指導を何回行った場合に勧告に進むべきか、基準が曖昧なため、当時の担当者は判断ができなかったのではないかと話す。
実際、民間のシンクタンクが行った調査によると、国の指導監督基準の解釈について自治体の約4割が「悩んだことがある」と答えている(認可外保育施設に対する指導監督の実施における標準化に向けた調査研究(野村総合研究所)より)。
心都ちゃんの事故を受け、指導監督基準を定めているこども家庭庁は…
(子ども家庭庁 加藤鮎子大臣※9月20日当時)「直ちに国の指導監督基準等に瑕疵があったとは考えておりません。他方、今後こうした事案が発生しないよう、必要な対策を講じていくことが重要であると考えており、国として地方自治体に対し、必要な改善勧告を含む指導・勧告の徹底、これを依頼する」
自治体に対し「必要な改善勧告」を行うよう呼びかけるに留めている。
「心都ちゃんとの時間がなくなったのが悔しい」
生後5か月の娘・心都ちゃんを失った柴尾さん夫婦。過去に3度に渡って違反が確認されていたのに、改善がされていなかったことに憤りを感じている。
(柴尾隆幸さん)「改善していなくて営業できていなかったら僕らも預けることはなかったやろうし。せめて直してから営業を再開してほしかった。市の方も、できているのがわかってから許可を出してほしかった」
(柴尾心さん)「心都ちゃんで2人でゆっくり家にいて遊ぶ時間が楽しかったので、その時間がなくなったのが…悔しいですね」