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画廊と美術館での学芸員経験をもち、現在は美術エッセイストとして活躍中の小笠原洋子さんは、高齢者向けの3DK団地でひとり暮らし。お金を極力使わないケチな生き方=「ケチカロジー」という言葉を生み出し著書も上梓している小笠原さんは、極力ものを持たないように暮らしています。そんな生き方が、人間関係にも反映されていると言います。

※ 記事の初出は2023年10月。年齢など内容は執筆時の状況です。

友達は要らない?もの以外に私が手放してきたもの

所有物を減らすことと、ものを買わないこと。また今持っているものをフル活用して不足を補うこと。これが長年の節約生活のなかで、私が到達した「ケチカロジー」です。

減らす、つまり捨てることと、所有物は捨てないで活かすことには矛盾するようですが、要るか要らないかを判断して、「捨てる」と「活かす」を分けるという違いがあります。
今回は、もの以外に私が手放したことについて紹介します。

●45歳で仕事と友人関係を手放した

その捨てるものは、品物だけではありません。見えないものにも捨てるものはあります。まず45歳にして、私は正規雇用の仕事を捨てました。それから友達との交流を捨てました。ともに私にとってストレスだったからです。

これを「第二のケチカロジー」と呼んでいます。

職に関しては、年金の受給年までは食べていくために働いたつもりです。また、友達はまったくいないわけではなく、心が通じ合う数少ない人はいます。でも定期的に会ったり、一緒に外食するような友達はいません。むしろそこまでべったりする相手はいらないと思っているからです。

私の場合は、交際費をゼロにするというを日々のルールにしているので、自然とひとり行動をするようになっています。これは我慢ではなく、ひとり行動が好きだからやっていることです。

●友達を減らすことは「究極の節約術」

私は、友達を減らすことは、究極の節約術だと思っています。ひとりで自分の生活をつくり上げていく、この孤独のケチカロジーこそ、交際費のゼロ化を目指す最強の方策です。

もちろん私も「友達のありがたさ」を知っています。ケチカロジーなどよりずっと勝った宝物は、友達なのです。災害時には国際規模による“トモダチ作戦”というのもありました。そんな特殊な例でなくても、ご近所や親しい人の助けによって命を救われた例は山ほどあります。でも、その目的のために友達を大事にするというのは、本末転倒ではないでしょうか?

●ひとりのメリットは「自由」にあり

ひとりはさみしいと感じる人も多いと思いますが、ひとり身ほどの自由はないでしょう。

65歳のとき、二度と働かないぞと決意した私は、わずかな年金ともっとわずかな貯蓄を切り崩しで生計をつないできました。そして孤独な時間を得て、自由をフル活用し続けています。なお友達づき合いを減らした後は、ひとりで遊ぶことのおもしろさや、ひとりで生きるための、少なくとも精神的な力を得たように思っています。

一方で、ひとりで災害時などに備えるには、どうしたらいいかということもよく考えています。非常食やラジオや懐中電灯は必要だし、備蓄用の水がたりないのではないか、常備薬も補っておかなければなどなど…非常時に協力者のない単身者であればこそ、十分すぎるほどの備えが必要になってきます。でも、考えてみると、ひとり分だけそろえればいいので、自分に必要なものも準備しやすいはずです。

先日のこと、テレビのチャンネルをあちこち変えていたとき、画面に『おひとりさま天国』という文字が飛び込んできて、思わずリモコンの指を止めました。乃木坂46がそんな曲を歌っていたのです。

「外食はひとりデビューして、ゆっくり自分のペースを楽しもう」とか、「恋は苦しいから…パートナーはいなくて問題ない」といった意の歌詞があり、作詞された秋元康さん、よくぞ若い女性に歌わせてくれましたね。もう世の中の流れなのかもしれません。彼女たちと同世代の方々が、ここからご自身の世界観を深めるのが楽しみです。

それでもおひとりさまは、ひとり合点になりやすいので、適度な運動や食事にも十分すぎるほど、気を遣う必要はあります。だれかを助けられるときは率先して手助けし、いざ自分が不安やストレスを感じたときは、身近な人の中に飛び込む勇気ももっておきたいものです。