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 もう6年も前になる。「三次の熱投」。そのピッチングは今も記者の記憶に深く刻みこまれている。西武の守護神・増田達至が2/3回を投げてシーズン8セーブ目。疲れと気合と、高揚感と――。試合後の表情が忘れられない。

 18年5月29日、広島・三次での広島との交流戦。4点リードの9回に6番手・松本航が1死一、二塁のピンチをつくると、当時の辻発彦監督は増田をマウンドに送った。移動日を挟んで3連投。26、27日の日本ハム戦では2試合連続で2イニングを投げ、ともに負け投手になっていた。

 それでも、投げる。増田は代打・丸(現巨人)、田中を連続三振に仕留めて試合を締めた。しびれた。取材では真っ先に話を聞きにいった。「疲れとか言ってられない。ポジションを全うするだけ」。守護神のプライドがにじむコメントだった。実は試合終了直後、増田はトイレで辻監督と顔を合わせていた。「明日は休みだぞ!」と声をかけたという指揮官は「増田は背中も張っている。使うつもりはなかった。申し訳ない」と、最敬礼だった。

 同年は14セーブ止まりで防御率5・17。増田自身も苦しんだシーズンだった。翌19年に30セーブを挙げ、森友哉とのコンビで最優秀バッテリー賞を受賞。20年には33セーブで最多セーブのタイトルに輝いた。通算559試合のうち、先発登板はプロ1年目だった13年の2試合のみ。残り557試合は中継ぎ、抑えとして西武のブルペンを支えてきた。

 照れたような表情で話す増田は普段から穏やかで、人当たりも柔らかい。喜怒哀楽を出さず、マウンド上でもあまり表情は変えない。それこそが抑え役の極意なのかもしれない。数年前から2月の春季キャンプを取材で訪れた際、その年の「スポニチプロ野球選手名鑑」を差し入れていた。現役引退。来年はユニホーム姿の増田に手渡すことができないと思うと、寂しい。

 24日、ベルーナドームでのイースタン・リーグ、ヤクルト戦で家族らが見守る前で2軍ラスト登板。8回にマウンドに上がり、5球全て直球で浜口を空振り三振に仕留めた。試合後は「やっぱり寂しいですね…」。引退試合、引退セレモニーは28日のロッテ戦(ベルーナドーム)。通算560試合目、最後の「熱投」を目に焼き付けたい。(記者コラム・鈴木 勝巳)