イスラエルのネタニヤフ首相=4日、エルサレム(EPA時事)

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 【エルサレム時事】イスラエルが隣国レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラへの攻撃強化に踏み切った。

 昨年10月以降、イスラエルに越境攻撃を繰り返すヒズボラの攻撃能力を低下させ、戦意喪失を図る狙いだ。だが、イスラム組織ハマスをしのぐ軍事力を持つヒズボラとの戦闘が長引けば、中東全体の対立激化につながりかねない。

 ◇北部住民の帰還優先

 「脅威が来るのを待たず、先手を打って防いでいる」。イスラエルのネタニヤフ首相は23日、大規模空爆をこう正当化した。戦闘激化を懸念する米国や国際社会の声を振り切り、レバノン側で民間人を含む多数の犠牲者を出してでも「イスラエル北部住民の安全な帰還」という政権の重要目標を優先させた。

 パレスチナ自治区ガザでの戦闘は開始から間もなく1年を迎えるが、停戦や人質解放を巡るハマスとの交渉は妥結の見通しが立たない。ネタニヤフ氏としては、世論の支持や政権の求心力低下を食い止めるため、局面打開を図る必要があったとの見方もある。

 今回のレバノンでの犠牲者は、イスラエルとヒズボラが交戦した2006年以降では1日の数として最多とされる。レバノンは空爆を「絶滅戦争」(ミカティ首相)と批判するが、ネタニヤフ氏は「戦争相手はレバノン市民ではなくヒズボラだ」と主張し、攻撃継続の構えを崩していない。

 ◇「壊滅」は不可能

 イスラエル軍によれば、23日の空爆対象は約1600カ所に上り、長距離ミサイル、100キロの爆発物を搭載可能なロケット弾などを破壊した。だが、約15万発のロケット弾やミサイル、予備役を含め5万人超の戦闘員を擁するヒズボラの打倒は容易でなく、対ハマスで掲げた「壊滅」はほぼ不可能だ。

 23日にはイスラエルの北部ハイファやヨルダン川西岸でも空襲警報が鳴るなど、長距離弾を放つヒズボラの脅威は弱まっていない。ただ、通信機器の一斉爆発や今回の空爆で打撃を受けたヒズボラの継戦能力は不明で、ガラント国防相は「ヒズボラが過去20年超で蓄積した数万発のロケット弾や弾薬を排除した」と誇示した。

 ヒズボラを支援するイランや親イラン勢力の出方も見通せない。シンクタンク「イラン研究センター」(トルコ)のセルハン・アファジャン副所長は、取材に「イランはヒズボラを軍事、財政面で支援するが、対イスラエル戦争に巻き込まれたくないのが本音」と指摘する。一方、イラクの親イラン武装組織の連合体「イラクのイスラム抵抗運動」はイスラエルへドローン攻撃を仕掛けており、紛争拡大への懸念が高まっている。