「『エイリアン』の映画としては105点でした」[Alexandros]川上洋平、『エイリアン』シリーズの原点回帰作『エイリアン:ロムルス』を語る【映画連載:ポップコーン、バター多めで PART2】

写真拡大 (全5枚)

大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回取り上げるのは、1979年に誕生した傑作『エイリアン』のその後を舞台に、エイリアンの恐怖に遭遇した若者たちの運命を描いたSFサバイバルスリラー『エイリアン:ロムルス』。『エイリアン: コヴェナント』以来約7年ぶりに公開される『エイリアン』シリーズを語ります。

『エイリアン:ロムルス』

──どうでしたか?

おもしろかったですね! 多くのファンが待ち望んでいた『エイリアン』シリーズの新作だと感じました。「こういうのでいいんだよ!」っていう声が聞こえてきそうなSFホラーの金字塔復活といった感じでしょうか。そこに徹していたのでは。個人的には『エイリアン』の前日譚として公開された前2作の『プロメテウス』と『エイリアン:コヴェナント』も大好きなんですが、小難しい内容でかなり賛否両論があったんですよね。

──あの2作はエイリアンの起源を掘り下げていましたが、割と哲学的な要素が強かったですよね。

そう。前2作は「人間とは?」とか「エイリアンとは?」ということを問う内容でした。1作目を監督したリドリー・スコットは『エイリアン』に対して愛着があったんでしょうね。パニックムービーとしての『エイリアン』に留めず、「エイリアンはこういう風に誕生したのか」とか「人類はここから来たのか」ということを突き詰めるために作ったのが『プロメテウス』と『コヴェナント』。でも、「『エイリアン』に求めてるのはそこじゃない」って思っていたファンが多かったのは事実で。「もっとシンプルに怖がらせてくれよ!」という『エイリアン』ファンの気持ちもとてもわかる。ただ、ずっと同じ路線でやっていても焼き回しになるから、『プロメテウス』と『コヴェナント』は『エイリアン』シリーズにとって必要だったと思う。そこから何年か経って、「ここでちょっと本領発揮せなあかんな」っていう感じで『ロムルス』が作られたんだろうね。元々の優良なパニックホラームービーとして帰ってきた。原点回帰作と言われているのにも納得です。

──『ロムルス』の監督は『ドント・ブリーズ』シリーズで知られるフェデ・アルバレスですが、フェデ・アルバレスがリドリー・スコットのプロダクションに新たな『エイリアン』のストーリーを持ち込んだところから話が始まったそうなので、フェデ・アルバレスは『エイリアン』に相当愛があるんだろうなと。

ところどころに『ドント・ブリーズ』感がありましたよね(笑)。「腕の見せどころやで!」という監督の気合いが感じられました。1~4作目は監督が全員違うのでそれぞれに色がありますよね。でも、今回はリドリー・スコット製作だし、リドリー・スコットのお墨付きということもあって1作目に近いところがあった。間違いないという点とさらに新鮮味を加味して、『エイリアン』の映画としては105点でした。

──かなり高得点ですね! でも本当思った以上におもしろかったです。

ですよね。1作目が好きな人には是非見てほしいし、まだ見てない人は1作目を見てから挑んでほしいです。時代設定も1と2の間だし。特に良かったのは、宇宙ステーションのコントロールパネルとかが1と2の雰囲気に寄せてるところ。1は1979年に公開された映画なので機械のデザインが今からすると古臭いんです。でも『プロメテウス』や『コヴェナント』は1より前の時代の話のはずなのに、最新の雰囲気なんですよね。そこに違和感を感じたんだけど、『ロムルス』はちゃんと1と2の間ぐらいのレトロ感があって没入できました。こういうギミックは本当に大事。

『エイリアン:ロムルス』より

■新たな『エイリアン』サーガの第一歩

──『ロムルス』の主人公は『プリシラ』のケイリー・スピーニーが演じる若い女性・レインですが、1~4の主人公のリプリーが最初に出てきた時のようなまっさらな感じがありますよね。これは当たり前のことではありますが、リプリーは時を追うごとにどんどん強くなっていくわけで。

最初は一乗組員でしかなかったリプリーが、仲間がどんどん殺されていく度に逞しくなっていく。そういうところは今回のレインに通じますよね。

──レインは弟的な存在であるアンドロイドのアンディやかつて交際していたタイラーと一緒に、劣悪な環境から抜け出すために、上空に漂流している宇宙ステーションに向かうわけですが、何も知らない若者6人がエイリアンに恐怖していく流れにも懐かしさを感じました。

ただ、見るまでは登場人物たちにティーン感があり過ぎて、よくあるディストピア系の若者の群像劇みたいになってないかなと思って不安だったんですよ。『ハンガー・ゲーム』みたいな。「ああいう風にティーンムービーにありがちな恋愛要素が入ってきたら興醒めだなあ……」って。結果、全く心配なかったですね。

──多少恋愛要素はあるけれど、それが邪魔じゃないというか。

そう。むしろそれが良い要素として機能してましたよね。あと、1作目に出てきたアンドロイドのアッシュを演じたイアン・ホルムが新たなルークっていうアンドロイドとして出てきたけど、あのキャラはレインたちからしたらいろんな意味で老害でしかないのが良かった(笑)。

──確かに(笑)。

あのアッシュというキャラクターは僕も好きだったな。演じたイアン・ホルムは亡くなってしまっているので、『ロムルス』ではディープフェイクAIやCGの技術を使って復活させているんだけど、それに対して不満を持った観客はいるみたいで。確かに「演技とはなんぞ」みたいなことになってしまうのはわかるけどね。でも僕としては、あれぐらいならサービスとして全然アリだったし、むしろとてもアガったポイントでした。イアン・ホルムの遺族にちゃんと許可を得た上でやったことらしいし、そもそもキャラクターがアンドロイドということでウィットに富んでいておもしろかった。

──去年ハリウッドで起きたストライキの要因のひとつであるAIを巡る問題とは全然違うケースで、リスペクトを感じましたけど。

そうでしょ? しかも、劇中のルークの展開からは「AIとは?」っていうメッセージも感じたし。とにかく全体として余計なことが描かれずにシンプルだったのが良かったです。それに対して、「新しさがない」とか「深みがない」っていう批判が上がっていたりするんだけど、そういう部分は『プロメテウス』と『コヴェナント』で描いているからいいんじゃないかって思いました。1作目から40年以上の時を経て、「リブートではない『エイリアン』の興奮をどうやったら生み出せるんだろう?」っていうことを真剣に考え抜いた結果が『ロムルス』だと思うんですよね。新たな『エイリアン』サーガの第一歩だと思いますし、これまで『エイリアン』シリーズを見たことがない人でも楽しめるところが良い。実は『プロメテウス』と『コヴェナント』からの流れを意識して作られているらしいから、ここからまたその世界線と繋がる展開もあり得るかもしれない。あと、『プロメテウス』と『コヴェナント』でまだ描き切られていない部分もあるから、そこはリドリー・スコットに期待です。

『エイリアン:ロムルス』より

■『エイリアン』はモンスターパニックムービーの傑作であると同時に画期的な映画

『エイリアン』はモンスターパニックムービーの傑作であると同時に画期的な映画でもあったよね。主人公が女性。しかもいかにも強い女性じゃなくて、ごくごく普通の女性。1979年にその設定にするのはとても勇気がいっただろうなって、『ロムルス』を見ると思いますよね。しかもフェミニスト映画とかにもなっていないのが良い。単純にかっこいい主人公を描いたらリプリーだった、みたいなところが良いし、だからこそ性別関係なく移入できる。あと、なんといってもH・R・ギーガーが生み出したエイリアンゼノモーフの造形の美しさは唯一無二で誰も真似できないですよね。1作目が誕生してから現代までいろんな宇宙人映画が誕生してるけど、あのゼノモーフを超える造形は生まれてない。

──あの造形は本当美しいです。

あと、僕『ロムルス』をOasis再結成で気持ちが盛り上がってる流れで見たんですけど、若者6人のうちのひとりの男の子がめっちゃイギリス訛りの英語で、「Fuckin'hell!」ってノエル(・ギャラガー)の口癖を口にしていたのがなんか良かったです。

取材・文=小松香里

※本連載や取り上げている作品についての感想等を是非spice_info@eplus.co.jp へお送りください。川上洋平さん共々お待ちしています!