「政治とカネ」に対する姿勢が総裁選の焦点になるのは間違いない。しかし、「もう処分は済んでいる」という党内の声と、厳しい対応を求める国民感情とのバランスに、総裁候補たちは苦慮するかもしれない。


党員票の行方

「麻生対菅」という底流があっても、派閥色の強い有力幹部たちは批判を恐れて総裁選の前面に出ようとしない。迫る衆院選で生き残りがかかる中堅・若手たちは、勝ち馬の手がかりを求めてあちらの陣営、こちらの陣営と右往左往した。

 候補者が多くなれば推薦人になる国会議員が増え、党所属367人の議員票も分散せざるを得ない。このため「同じ367票がドント配分される党員・党友からの支持が決め手になる」(中堅議員)。8月下旬の各種世論調査で「次の総裁にふさわしい人」として、出馬が取り沙汰されて露出を増やしていた小泉が急浮上し、それまでトップだった石破と支持が拮抗して話題になった。

 候補乱立で票が割れるため、1回目の投票で誰も過半数を獲得できず、1位、2位による決選投票へもつれ込む流れが有力とみられている。その際、特にポイントになるのが3位の陣営の動向だ。「2、3位連合」が決選で1位を逆転したケースは過去にもある。形勢不利とみて途中から自力の勝ちを諦め、次期政権で存在感を保つための「連携」にかじを切る陣営も出てくるだろう。

 世論調査で注意すべき点として、野党支持者・無党派層を含めた全体の傾向と、自民党支持層における傾向にはズレが生じる可能性が高い。同じ自民党支持層でも、党費を支払って入党している熱心な党員の意見はさらに「政治の玄人」的になり得るだろう。ある陣営幹部は「党員の大半は業界団体だ。ただの人気投票だと思っていたら読み違える」と話す。「政策面など総裁としての資質」と「選挙の顔としての国民的人気」のはざまで揺れ動きながら、9月27日の投開票まで党内情勢は刻々と変化するはずだ。

 新総裁が岸田政権から何を継承し、何を変えていくのかも問われるだろう。過去のうみが一気に噴き出した政治資金問題を除けば、経済・外交・安全保障などの政策分野で「岸田政権の実績」を評価する向きは、党内だけでなく霞が関や経済界にも根強い。

 また、政権奪取を狙う野党第1党・立憲民主党の代表選が、9月23日に投開票される。次期衆院選と来夏の参院選に向けて、国民目線の論戦を交せるリーダーを与野党双方が選ばなければならない。11月には米大統領選が控えており、激動する国際社会と渡り合う能力も日本のトップに必須の条件だ。自民党はポピュリズムに堕すことなく、真の意味で変わらなければならないのだ。(敬称略)

【政界】9月の総裁選は群雄割拠の乱戦模様 問われる自民党議員1人ひとりの覚悟