リアル・トラウム、Bunkamuraオーチャードホールへの道【Vol.3】杉浦奎介インタビュー
IL DIVOに始まり、日本でもLE VELVETSやTHE LEGENDなど多くのフォロワーを生んできたクラシカル・クロスオーヴァーの男性ヴォーカル・ユニット。メルビッシュ湖上音楽祭やドイツ44カ所のオペレッタツアーに参加するなど国際的なキャリアを歩むテノールの高島健一郎をリーダーとして、東京芸術大学を卒業した同門の声楽家たち4人が集まって結成されたのが、REAL TRAUM(リアル・トラウム)である。デビュー1周年記念の浜離宮朝日ホールの完売公演において、彼らは次なる夢の舞台としてBunkamuraオーチャードホールでの公演を発表した。
ドイツ語で「正夢・夢を実現する」といった意味のグループ名通りに着実にグループの実績を積んでファンを魅了してきた彼らの今Bunkamuraオーチャードホールへの道程について、メンバー各人にシリーズインタビューし、最後に3大テノールから始まった男性ヴォーカルのクラシカル・クロスオーヴァーの歴史を纏める特別寄稿を、9月21日に発表したい。
3番バッターは、先日『ナイン』という作品でまさしく打席(もちろん舞台のですが)にも立たれたばかりで、いよいよあのミュージカルの名作『レ・ミゼラブル』の帝劇クロージング公演にも出演する、ミュージカルを軸に幅広い活動を繰り広げるテノールの杉浦奎介である。
――『レ・ミゼラブル』、なんと4回目のご出演ですね。それだけ、この作品にはなくてはならないキャストということですよね?
いえいえ!そう思ってもらえていたら、最高ですが(笑)。本当に素晴らしい作品、魅力的なカンパニーなので、毎回違う景色が見られますし、学ぶこともとても多いです。そこで吸収したことを少しでも自分自身やリアル・トラウムにも活かせたらと、いつも全力で取り組ませてもらっています。
――秋から、オーチャード・ガラまでは、『レミゼ』にどっぷりという感じですね。
そうなりますね。稽古の時間もかなりたっぷりと取って仕上げていく作品ですからねえ。ちょうど、リーダーの高島がドイツのオペレッタツアーのためにウィーンへ戻っている期間は、僕としてはこのお仕事を丁寧にやらせていただければと思います。
――その直前には、ソロ・ライブも予定されていますが。
そうですね。ライブハウスで、バンドの編成で、グループともミュージカルとも一味違うコンサートを毎年させていただいていますね。
――こうしたメンバー各々のキャラクターの違いが、リアル・トラウムのユニークなところですね。
そうかもしれませんね。同じ東京芸術大学声楽科の同門ですが、各々のキャラクターに合わせて普段異なる活動をしているわけですが、集まると、不思議なくらいに同じ感覚で、それでも新しくて、自分たちでもワクワクするような表現がこれまでやれてきている気がしますね。
――先日のコンサートでシューベルトの「魔王」を4人で役を分けて歌われていた時も、杉浦さんの語り部の演技というか、ステージングの動きの切れの良さが印象的に感じましたが。
嬉しいです。ひとつの楽曲の中で異なる登場人物が歌い継いでいくってなかなか珍しいですし、演劇的に魅せたら面白いんじゃないかなと思いました。
――語り部役の杉浦さんが、本を開いて昔話を読むように歌い始め、高く掲げた本を閉じて暗転する、クラシックのジャンルではあまり見ない見事な演出だったと思いますが、あのアイデアなどはどんなところから。
たまたま4人いるので、「魔王」の役の数とぴったりだったので、これはこんな風にできると面白そうだねって、みんなで自然とそうなって、配役もなんか鳥尾は子供だろ、堺くんお父さんだろ、けんちゃんはやはり魔王だなみたいな(笑)。本を掲げたりみたいな振付は自分ですが、元から決めていた訳ではなく、本番で自然とやってみました。たしかにミュージカルでの経験は活きているかもしれませんね。でも、あの本は実は僕のドイツ語のカンペなんですよ(笑)。
――やはりそういう演出面のことは、グループの中でも、杉浦さんに負うところが大きいのでしょうか?ミュージカルのご経験もさることながら、学生時代には脚本や演出を担当された公演もてがけらていましたよね?
たしかに自分でも好きなことですし、判断やアイデアをみんなから求められることは多いかもしれません。そこは奎介よろしく、みたいな。
――リアル・トラウムでは、ミュージカル・ナンバーもさることながら、オペラやクラシックの曲でも、いつも杉浦さんの張りのある声に感動しながら、聴かせていただいています。特に「誰も寝てはならぬ」で杉浦さんがソロでハイトーンで歌われると、なんか強制的に涙腺を絞られてしまうような気持ちになってしまいます。
そうですか、そう言ってもらえて嬉しいです。僕自身、クラシックの曲を歌う機会が少なかったのですごく不安もあったのですが、リアル・トラウムをやるようになって、聴いていただいた方からよくそういう声をかけてもらうことが増えて、自分自身でも自信が持てるようになってきました。
――そして、いよいよオーチャード・ガラですが。
堺さんや鳥尾くんも言っていましたけど、やはり、しっかりと成長した姿をまた見せたいと思いますね。ストリングスがいるといった新しさももちろんですが、そのストリングスも僕自身が以前一緒に仕事してすごく相性も良かった大槻桃斗さんをトップとしてやれることになったので、そこも自分でも楽しみです。僕も、堺さんや鳥尾くんと同じで、プロデューサーから最初オーチャードトライしてみないかと言われた時は、「いや~絶対無理無理」と思いましたけど、7月のツアーを経て、去年とはちがう、グループとしての手ごたえを感じることができて、立つべくしてこの場に立たせてもらえたのかなと思えるように変化してきたのも事実です。ミュージカルでの経験も含めて、全力投球でオーチャード・ガラ臨みたいですし、新しくて楽しいコンサートにしたいと思います。
文=神山薫