朝ドラ「おむすび」公式Instagramより

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 9月30日から放送開始予定のNHK連続テレビ小説『おむすび』の主題歌「イルミネーション」をB'zが担当する。

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 今年でデビュー37年目を迎えるB'zは、これまでも数え切れないほどのドラマ主題歌を担当し、その世界観を彩ってきた。2000年に放送されたドラマ『Beautiful Life ~ふたりでいた日々~』(TBS系)の主題歌となった「今夜月の見える丘に」では、木村拓哉演じる美容師の青年と常盤貴子演じる難病を抱えた図書館司書の心の距離が近づいていく姿を描いた。2008年に放送されたドラマ『ブザー・ビート~崖っぷちのヒーロー~』(フジテレビ系)の主題歌となった「イチブトゼンブ」では、山下智久演じるバスケットボールプレイヤーと北川景子演じるバイオリニストの瑞々しい恋愛模様を爽やかに歌っている。ドラマ主題歌とともに90年代以降の音楽シーンを牽引し続けてきたのがB'zというロックユニットだと言えるだろう。

 そんなB'zが朝ドラの主題歌を担当するのは初めて。『おむすび』は、平成元年生まれのヒロインが栄養士として人の心と未来を結んでいく“平成青春グラフィティ”だ。B'zがメジャーデビューを果たしたのは1988年。翌年の1989年1月に昭和天皇が崩御し、時代が平成になったことを踏まえると、B'zとヒロインの米田結は“ほぼ”同い年と言っていいだろう。平成、そして令和の時代を音楽という武器を持って駆け抜けてきたB'zが、同じく平成、そして令和を描く『おむすび』の主題歌を務めるというところに強い必然性を感じてしまう。

 そして、これまでもベテランのアーティストたちが朝ドラを音楽で彩ってきた。朝ドラの記念すべき100作目となった『なつぞら』の主題歌を務めたのはスピッツ。スピッツらしいあたたかみのある穏やかなサウンドが印象的な「優しいあの子」は、『なつぞら』の舞台となった北海道の大地を想起させる。主人公である奥原なつが戦災孤児という過去を背負いながらも、たくましくアニメーターを志す姿を〈口にする度に泣けるほど 憧れて砕かれて/消えかけた火を胸に抱き たどり着いたコタン〉と、ボーカルの草野マサムネは瑞々しく歌う。歌詞に登場する〈コタン〉とはアイヌ語で“集落”を意味する言葉で、歌詞にも『なつぞら』における北海道の文脈が息づいている。「優しいあの子」は『なつぞら』の主題歌だからこそ生まれた楽曲なのだ。

 2018年10月から翌年3月まで放送された『まんぷく』は、インスタントラーメンの生みの親であり、カップヌードルやチキンラーメンでお馴染みである日清食品の創業者、安藤百福とその妻である仁子の半生をモデルにした作品だ。戦争の経験を経て食品開発に取り組み、即席ラーメン、そしてカップラーメンを開発した、その激動の人生を描いている。そんな『まんぷく』の主題歌はDREAMS COME TRUEの「あなたとトゥラッタッタ♪」。〈恥じだって一緒に あなたとならトゥラッタッタ♪〉〈あなたの情熱は あたしの誇りで自慢で覚悟なの〉というフレーズは、百福をモデルとした立花萬平と、妻の仁子をモデルとした福子という夫婦の関係性そのもの。喜びだけでなく、悲しみも怒りも、そして恥や情熱すらも2人で共有するパートナーとしての覚悟を軽やかに歌う「あなたとトゥラッタッタ♪」の歌詞は、ボーカルの吉田美和とベースの中村正人からなるDREAMS COME TRUEというバンドの姿とも重なる。萬平と仁子、吉田と中村。夫婦とバンド、形は違えどともに絶対的なパートナーであるという意味において、ドリカムと『まんぷく』の共鳴を感じられる。

 2017年4月から9月まで放送された『ひよっこ』の主題歌は桑田佳祐の「若い広場」。1964年の高度経済成長期における日本の姿を、有村架純演じるみね子を中心とした様々なキャラクターたちの姿によって映し出す『ひよっこ』では、劇中に様々な形で“音楽”の要素が表出する。たとえば、銀杏BOYZ・峯田和伸演じる小祝宗男がThe Beatlesの初来日に喜ぶエピソードや、みね子の家族が『家族みんなで歌自慢』というテレビ番組に出演するエピソードなどは、まさしく音楽がストーリーの重要な要素を担っている点だと言える。

 なによりも『ひよっこ』における音楽の要素と言えば、劇中でみね子をはじめとした各キャラクターたちが歌う昭和歌謡だろう。みね子の同僚である愛子がザ・ピーナッツの「恋のバカンス」を口ずさんでいたり、みね子が和田弘とマヒナスターズ&田代美代子による「愛して愛して愛しちゃったのよ」を歌っていたりと、数え切れないほどの昭和歌謡ソングが劇中に登場する。そしてそれらの楽曲は、他でもない桑田佳祐にとっても音楽的なルーツのひとつだ。サザンオールスターズのデビュー曲である「勝手にシンドバッド」は「恋のバカンス」に影響を受けて制作されたとされており、「愛して愛して愛しちゃったのよ」はサザンオールスターズとしてカバーし、映画『稲村ジェーン』のサウンドトラックも収録されたアルバムに収録されている。桑田にとっても『ひよっこ』に登場する昭和歌謡の数々は自身の音楽的なルーツであるとともに、みね子にとっても青春時代のピースだった。そんな昭和歌謡に対して大いなるリスペクトを込めて制作されたのが、正しく歌謡ライクなサウンドが心地よく響く「若い広場」なのだ。

 ここまで挙げた3つのドラマとその主題歌に共通しているのは、作品の舞台やテーマ、そして時代背景など、それぞれ様々な切り口でありながらどれも作品と共鳴して生まれていることだ。先述したベテランアーティストたちはもちろん、現在放送中の『虎に翼』の主題歌である米津玄師の「さよーならまたいつか!」が初の女性弁護士をモデルとした本作品で描かれるフェミニズムというテーマと真摯に向き合って制作されたように、作品のどの部分を切り取り、いかに自身を重ね合わせるのか、ということが主題歌制作の上でいっそう重要となる。特に朝ドラは、ひとりの人間の半生や生涯が描かれることが多い。刹那的な享楽や感情ではない、“人生そのもの”を描く朝ドラという作品を深く理解し、共鳴し、鮮やかに描くことができるアーティストこそ、その主題歌をまっとうできると言っても良いだろう。B'zが担当する『おむすび』の主題歌タイトルは「イルミネーション」。果たしてB'zは、『おむすび』とどんな形で共鳴し、どのような楽曲で作品を彩るのだろうか。

※記事初出時、本文に誤りがありました。以下訂正の上、お詫び申し上げます。(2024年7月13日19:00、リアルサウンド編集部)誤:行動経済成長期正:高度経済成長期

(文=ふじもと)