『虎に翼』写真提供=NHK

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 『虎に翼』(NHK総合)第118話では、女性法曹の会の集まりに始まり、久しぶりに星家を訪れた朋一(井上祐貴)が不満を口にした最高裁が出した判決、必要であれば司法人事に意見するという政権与党と最高裁長官・桂場(松山ケンイチ)の対立、安田講堂事件、尊属殺人の裁判など、法の下に全ての判断をすべき立場にいる裁判官の苦悩がありありと感じられる出来事や事件が凝縮された回となった。

参考:『虎に翼』が描く安田講堂事件を解説 寅子らに問われる家庭裁判所の“存在意義”

「裁判所は自らを律し、秩序を保たねばならん」

 桂場の言葉は重要だが、劇中で朋一が航一(岡田将生)に反論して言った「裁判官だって人間だよ? 何も物申してはいけないなんておかしいでしょ!」という言葉も無視することはできない。

 もちろん、航一が言うように「裁判官は政治的に偏ってはいけない」。朋一が憤った判決も、政権与党が表明した委員会の設置に抗議する桂場の言葉、「裁判所は憲法に従い、不偏不党、中立な立場で司法の独立を厳守する」に基づいたものともいえよう。それでも、判決をくだすのは裁判官という“一人の人間”であり、第118話で取り扱われる議題はすべて、彼らが下さなければならない判断の難しさをひしひしと感じさせるものばかりだった。

 役者の演技においては、美位子を演じている石橋菜津美の表情が心に強く残った。寅子(伊藤沙莉)にお茶を出す場面での穏やかな佇まいの美位子を見ていると、彼女は元来、物柔らかで優しい女性なのだと感じられる。けれど寅子に微笑みかけるその表情の奥に、彼女が受けてきた凄絶な苦しみが感じられ、心が苦しくなった。

 母・寛子(宮田早苗)に対して「一人で逃げたのは、お母さんでしょ?」と言った時の冷淡なまなざしには、恨みや憤り、虚しさや失望など複雑な心境が渦巻いており、胸をつく。そして美位子が殺人を犯した瞬間も映し出された。はっきりとした表情を見ることは叶わない。だが、暗がりに映し出された横顔と、あの瞬間を思い出したのか顔をこわばらせる美位子の姿を見れば、想像を絶する苦しみは十分理解できる。

 劇中、最高裁人事局の会議で行われたとされる発言を聞き、早々に泣き出した中山(安藤輪子)に「先輩、早いです」とツッコミを入れるよね(土居志央梨)(よねもまた寅子から「よねさんも早い」とツッコミを入れられていた)や、のどか(尾𥔎真花)が結婚するかもしれないと知り、動揺を隠し切れない航一など、コミカルな場面もあり、シリアスな話題だけではなかった第118話。とはいえ、難しい議題は続いている。第24週はどのような結末を迎えるのだろうか。(文=片山香帆)