ご存知ですか?動物園のパンダと飼育員さんの「絶妙な距離感」

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ちょっと短めのおみ足にまるいボディ。唯一無二のフォルムを持つ、神戸市立王子動物園のメスのジャイアントパンダ「タンタン(旦旦)」。そのかわいい姿と優雅な所作から、親しみを込めて、“神戸のお嬢様”とも呼ばれています。

2021年に心臓疾患が見つかり、治療を続けていたタンタンですが、2024年3月31日に虹の橋を渡りました。国内最高齢の28歳でした。いつでも笑顔をくれた神戸のお嬢様・タンタンをしのび、在りし日の日常を振り返りながらお伝えします。

お嬢様の反省

「お手手出してごめんちゃい」とお嬢様が謝ったのは、連載57回目(https://gendai.media/articles/-/90396)。前あしを頭に置き、反省したような写真は公式ツイッターに投稿されたもの。エコー検査中に、ご褒美の柿欲しさに思わず前あしをオリの外に出してしまったんですね。「柿をロックオンした目をしていたので、たぶん早く欲しくて思わず手が出ちゃったんでしょうね」と、話すのは飼育員の梅元良次さん。

忘れがちですが、パンダは爪も牙も鋭い猛獣。普段、タンタンと接するときに気をつけていることを伺うと、「一番気をつけているのは、タンタンとの“距離感”です。言葉では伝えにくいのですが、近すぎず遠すぎず、お互いが安全な距離を取るということを、いつも心がけています」と教えてくれました。

適切な距離を取ることで、動物のストレスを減らし、人間側もケガをするリスクを回避することができるのだそう。「ハズバンダリトレーニングでもそうですし、通常の飼育をするときでも、自分と動物の距離感を意識することは、とても大事なことだと思っています」と、梅元さん。人も動物も、距離感が大事なのですね。

一番気を使う場面に関しては「ハズバンダリートレーニングや健診の時ですね。この時は、獣医など飼育担当以外の人がタンタンに触れることが多くなりますから、タンタンがなるべくストレスを感じないように気をつけています」と、話す梅元さん。お互いに慣れてもらうために、獣医師さんからタンタンにリンゴをあげてもらったりするのだそうです。

「他の人は、いつも世話をしている僕たち飼育員ほどには、タンタンとの距離感を作れていません。両方がケガをしないように、僕たちが注意しながらトレーニングや健診を行わなければなりませんので、そこに一番気を使いますね」(梅元さん)。タンタンのトレーニングがうまくいっているのは、やはり長年の信頼関係があってこそ。飼育員さんと獣医さんが協力することによって、トレーニングや健診がスムーズに行われているのです。

さて、最初に出てきたかわいい反省のポーズ。一体どういうシチュエーションで出たものなのでしょうか。「トレーニングが終わった後にしたポーズだったので、本人からしたら『やっと終わった〜』という感じの、リラックスしたポーズなのかも知れませんね。僕には反省のポーズのように見えたので、あのツイートを出しました」と、笑います。

動画の最後には、オリに向かってぐいーっと前のめりに「もっとください」の圧をかける姿も写っていました。本当に柿がお好きなのですね、お嬢様。

お嬢様との距離感

今でこそ、ちょうどいい距離感が取れているような梅元さんとタンタン。出会った頃はどうだったのかうかがうと「今でも、毎回苦労の連続ですよ」と梅元さん。繊細な乙女心を受け止めるためには、やはりいろいろ気を使うようです。

「いくら慣れてきたからと言っても、お互いの気持ちをすべて理解することは、とても難しいことですから。それでも最初の頃に比べると、何となくですが自分の中で、タンタンの今の状態というか、気持ちを察することが出来るようになったと思います」(梅元さん)。最初は、その辺りがわからなかったそうで。「僕のやり方のせいで、お互いが危うくケガをしそうになったこともありましたからね」と話します。

何か危ないことがあった時には、タンタンを叱ることもあるのでしょうか。「よっぽどのことでない限り、叱らないようにしています。叱ることで、動物がトレーニングを、嫌なことと認識してしまう可能性がありますから。叱ることは、ハズバンダリトレーニングにとってあまり良いことではないんです。ただ『それはいけないよ』と、注意はしますよ」(梅元さん)。

動物のトレーニングで人間がケガをしてしまう原因は、人間側の不注意によるものが多いのだそうです。「自分がケガをしないように、あらかじめこちらがキチンと準備して考えることが、重要な事だと僕は考えています。なので、そこで動物を叱るのは少し違うと思うんです。まぁそれでも、少し厳しめに注意しちゃいますけどね」と、笑いながら話してくれました。

例えば、お気に入りのあご置きと前あし置きは、人間側の安全性も考慮して作られたものですが、健診のやりやすさも上がったようです。「(あご置きは)かなり役立っていますよ。タンタン自身も、確実に楽になった感じですね」と、梅元さん。

なんというか、すべては優しさでできている。このやりとりを、お嬢様にも聞かせてあげたいと思いましたが、きっと一番よくご存じなのですよね、お嬢様。

待ちに待った観覧再開

お嬢様との再会に心踊ったのは、連載58回目(https://gendai.media/articles/-/90699)。休止になっていたタンタンの観覧が、2021年12月14日に再開したのです。観覧受付時間は以前より少し短縮されて、午前11時から13時までとなりましたか、13時までに列に並べば、土日祝日でも予約なしでタンタンに会うことができるようになりました。

今回の観覧再開について、広報の木下博明さんにうかがうと「健康管理がしやすいように観覧時間をさらに短縮するなどの工夫をし、タンタンの負担にならない範囲で観覧を行っています。今後も健康管理の状況に応じて、再度観覧を中止する場合がありますので、ご理解いただければ幸いです」とのこと。久々にお会い出来てうれしいです、お嬢様。

観覧再開にあたっては、観覧方式も時間ごとの入れ替えから、歩きながらに変わりました。そして、もうひとつ。通常、観覧中には閉じていた寝室の扉が開放されました。寝室には獣医師さんからの提案で、酸素供給装置が導入されたのです。装置について、梅元さんにうかがうと、「部屋の中の酸素濃度を高める機械で、タンタンの心臓疾患の影響による負担を減らすために導入しました」とのこと。タンタンが寝室内に入ってしまった場合は、パンダ館出口にあるモニターで、中の様子を確認することができます。

「タンタンの状態が、悪くなったからこの装置をいれたわけではありません。より良い状態にしようと考えて導入したのです」と、梅元さん。広報の木下さんも、「この装置の導入は、今後、タンタンの体調が悪化した場合に備えるためでもあります」と、話してくれました。

扉を開放しているので、密室にはなりませんが、少しでも中の酸素濃度が維持できるように、オリの網部分をビニールシートでふさぐ工夫もしています。そしてこの状態でもお嬢様の圧タンにも応えられるように、シートにマジックテープで取り外しができる小窓を付ける心遣いも。そんなところがチームタンタンらしいですね。

「今回の観覧中止を、体調の悪化と思っている人もいるようですが、一番の理由はタンタンのペースに合わせて、トレーニングをする必要があったからです。みなさんあまり心配しすぎて、しんどくならないようにしてくださいね」と、梅元さん。最近は、トレーニングにもやる気を見せているということで、このタイミングでの観覧再開となりました。

食欲の圧タン

食欲も旺盛で、ツイッターでも圧タンをよく見かけるようになりました。「竹も前よりは食べ出しましたよ」と、梅元さん。最近は生のサトウキビもお気に入りで、昼間はリンゴやサトウキビなどの甘いもの。夜は竹やタケノコをメインに食べています。

こうなると糖質が心配になってきますが、そのあたりはどうなのでしょうか。「栄養に関しては、健診で頻繁に採血して、獣医が判断していますので心配ありません。他にも必要な栄養を補えるように、いろいろな食べ物を与えるなど、食事の内容には気を使っていますよ」と、梅元さん。体に必要な栄養もしっかりと計算されているようで安心です。

さらに「好きなものがメインになるのは、薬を飲んでもらうために、ある程度仕方がないことです」と、話してくれました。グルメにいよいよ磨きがかかったこの頃。あまり飼育員さんを困らせないようにしてくださいね、お嬢様。

このころはおなかがすいて起きてくるため、朝が早かったタンタン。夜も活発に過ごしているので、観覧時間は寝台で寝ている事が多かったようです。取材日もタンタンは寝台の上。ときどき目を開けて観覧通路の方を見ています。何周も観覧するファンを見て「あの人、さっきも見た気がするわ」なんて考えているのかもしれませんね。おいしいごはんをたっぷり食べて、適度な睡眠とエクササイズ。お嬢様の健康的な生活を私たちも見習いたいです。

NEXT:次回は2024年9月18日(水)に、お届け予定です!

※今回のおまけ写真は、2022年1月に撮影したものです。

<動物園の基本情報>

神戸市立王子動物園

〒657-0838 兵庫県神戸市灘区王子町3-1

TEL : 078-861-5624(代表)

公式ホームページ:https://www.kobe-ojizoo.jp

公式Twitter(@kobeojizoo):https://twitter.com/kobeojizoo

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