【ライブレポート】宇多田ヒカル、6年ぶりのツアーファイナル。デビューから25年、ライブに対する思いが溢れたステージングを振り返る

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■宇多田にとって過去最大級のツアー

宇多田ヒカルにとって国内ツアーとしては4回目、さらに2018年以来、約6年ぶりのツアーとなった「HIKARU UTADA SCIENCE FICTION 2024」。7月13日の福岡公演を皮切りにスタートした今回のツアーは、日本公演7ヵ所と初のアジア単独公演(台北・香港)の計9ヵ所18公演で約25万8千人を総動員し、宇多田にとって過去最大級のツアーになった。本ツアーのファイナル、9月1日に開催されたKアリーナ(横浜)公演をレポートする。

ステージ上から客席全体が見渡せるような円錐状の会場に入ると、薄暗いステージ上にはセッティングされた楽器以外に、不思議な形をしたいくつものオブジェが目に入ってきた。開演前から場内に鳴り響いていたゴーゴーゴーという効果音が途切れると、場内にピアノの音が響いた。その一音一音がまるで私たちと交信しているかのように思えたその瞬間、スポットライトに照らされた宇多田ヒカルが現れ、客席からは“ヒッキー!”と叫ぶ声、大きな歓声と拍手が沸き起こった。

■一歩一歩大きな歩幅でステージ上を歌いながら歩く宇多田ヒカルの姿はカッコよく、とても頼もしかった

ライブの始まりを告げたのは「time will tell」。四半世紀も前にリリースされた楽曲とは思えないほどの輝きを放っていることに、あらためて驚かされる。続いたのはイントロが鳴った瞬間から観客が大きな反応を見せた「Letters」「Wait&See ~リスク~」。凄腕のミュージシャンたちから生まれるダイナミックなバンドサウンドと観客からの愛にあふれた声援を全身で受け止めながら、一歩一歩大きな歩幅でステージ上を歌いながら歩く宇多田ヒカルの姿はカッコよく、とても頼もしかった。イントロに乗せ「みんな、やっと会えたね。今日はゆっくりしてって!」と挨拶して届けたのはバンドから生まれる心地よいグルーブに心も体も揺れた「In My Room」。

「こんにちは。今日は来てくれて本当にありがとう。“こんばんは”なのか“こんにちは”なのか、ちょっと迷う時間だよね。(開演時間の)4時半って夕方? 午後遅め? たそがれどき。昼と夜の間。そういう瞬間を一緒に楽しめたらいいなと思います」と、彼女は“宇多田ヒカルのライブ”をずっと待ち望んでくれたファンが集結した満員の客席をゆっくりと見まわした。

「みんなと一緒にいることを目いっぱい楽しみたい。今ここにいるってことに集中したい」という言葉に込めた思いは、このMC後に届けた「光(Re-Recording)」の歌詞にある“テレビ消して 私の事だけを見ていてよ”のフレーズと重なった。「For You」「DISTANCE(m-flo remix)」のメドレーを届けると、「traveling(Re-Recording)」では「みんな、一緒に歌って踊ろう!」と、マイクを客席に何度も向けたり、手を左右に大きく振ったり。そんなふうに彼女がみんなとコール&レスポンスをしている姿を見ながら、以前「ライブでみんなを“煽る”ようなパフォーマンスをするのが苦手」と言っていたことを思い出した。ライブ中盤で会場が一体となった光景は、デビューから25年を経た彼女のライブに対する思い、パフォーマンスの変化から生まれたシーンだった。

サブステージでマイクスタンドを前にしっとりと歌い上げた「First Love」を経て「Beautiful World」「COLORS」を。左手をグーにしてクマの耳みたいにしながら歌った「ぼくはくま」。「Keep Tryin’」「Kiss & Cry」「誰かの願いが叶うころ」を立て続けに披露し、彼女とバンドメンバーがいったんステージから去ると、“くまちゃん”が主人公のアニメ映像が流れた。

ライブ後半戦はカラフルな衣装をまとい、サブステージで歌った「BADモード」から始まった。歌い終えると、今日が今回のツアーのファイナル公演だということをふと思い出したようで、「この衣装を着るのも最後ってことか。寂しいな」と、つぶやいた。息子への想いを歌に重ねた「あなた」。亡き母へ贈った「花束を君に」。このセクションでは「何色でもない花」「君に夢中」と、人間活動再開後にリリースした楽曲が続いた。

ライブ後半のMCでは、デビューから25年を経た今の自分から生まれた想いが詰まっていた。

■「私はすごくいい25年だったなと思うから、みんなもそうだといいなって」

「お客さんも私もいろんな都合や体調を調整して、今日この場所にいられる。待ちあわせ、成功だね!」「今回は私の25年間を祝ってもらうんじゃなくて、みんなの25年でもあって。生きていると、25年もあればみんなもいろんなことがあったと思うけど、楽しかったこともイヤだったことも、全部が自分をここに連れてきてくれたんだと思うと、悪くないじゃん!って思えるようになった」「望んだものが必ずしも自分にとって良いこととは限らない。望まなかったことが自分を成長させてくれたり、何かを失っても、失ったってことは与えられてたんだなと気づかされたり。与えられなかったものも自分を豊かにしてくれたり。失ったものもずっと自分の心の一部になってると知ったり。いろいろあっても、私はすごくいい25年だったなと思うから、みんなもそうだといいなって。だから、今は最高!ってこと。みんな、おめでとう~!」。

ひとりひとりに話しかけるように語った思いは優しい温度を持ち、ファンとの距離を一気に近づけてくれるナチュラルな言葉が並んでいた。

■ファイナル公演のサプライズとして「Stay Gold」を披露

アンコールではKアリーナ公演のみのスペシャルゲストとして、アオイヤマダと高村月のダンスユニット「アオイツキ」、最新曲「Electricity」では、この曲のレコーディングに参加したMELRAWが登場し、ファイナル公演に華を添えた。さらにファイナル公演のサプライズとして「Stay Gold」を披露。歌詞にある“大好きだから ずっと なんにも心配いらないわ”のフレーズは、宇多田ヒカルとまたライブで逢える日が必ず来るんだ!と思えるような、彼女と大切な約束を交わしたような歌に聞こえた。

ライブの最後に彼女が選んだのはデビュー曲「Automatic」。黄色いソファに腰かけてから歌い始めたその姿は、25年前にリリースしたこの曲のMVを彷彿とさせた。

■5年間の集大成を見せただけではなく、新しい一歩を踏み出したツアー

みんなと共に歌い終えると、鳴りやまない拍手と歓声が彼女を包み込みこんだ。彼女はそれらを全身で受け止め、会場を見まわしながら、何度も「ありがとう~」と手を振り、笑顔でステージをあとにした。今回のツアーは宇多田ヒカルにとって、デビューからの25年間の集大成を見せただけではなく、新しい一歩を踏み出したツアーになったはずだ。彼女がMCの中で言った「これからの25年もいい25年になればいいな」の言葉は、それを証明してくれるのではないだろうか。

TEXT BY 松浦靖恵
PHOTO BY 岸田哲平/TEPPEI KISHIDA

「HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024」
2024年9月1日 Kアリーナ横浜
セットリスト

1. time will tell
2. Letters
3. Wait & See ~リスク~
4. In My Room
5. 光 (Re-Recording)
6. For You ~ DISTANCE(m-flo remix)メドレー
7. traveling(Re-Recording)
8. First Love
9. Beautiful World
10. COLORS
11. ぼくはくま
12. Keep Tryin’
13. Kiss & Cry
14. 誰かの願いが叶うころ
15. BADモード
16. あなた
17. 花束を君に
18. 何色でもない花
19. One Last Kiss
20. 君に夢中
アンコール
21. Electricity
22. Stay Gold
23. Automatic

▼「HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024」after movie

リリース情報

2024.12.11 ON SALE
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宇多田ヒカル OFFICIAL SITE
https://www.utadahikaru.jp/