転職者の3人に1人「やめた会社に戻りたい」...それなら「出戻り」という一石二鳥の妙案があります/マイナビ・朝比奈あかりさん
転職者の3人に1人が「過去やめた会社に戻りたいと思ったことがある」という。
就職情報サイトのマイナビ(東京都千代田区)が2024年7月31日に発表した「中途採用・転職活動の定点調査(2024年4月-6月)」でわかった。やめた後も約6割が元いた会社の人と連絡をとっている。
それならば、退職者も企業もwin-winとなる、「アルムナイ」(出戻り)という採用方法があると、研究員の朝比奈あかりさんはアドバイスをする。
「退職前に気がつかなかった、良い面に気づいた」
調査(2024年7月1日〜6日)は、全国の20〜50代の正社員のうち6月に転職活動をしたか、今後3か月に転職活動を始める予定の1383人が対象。
「退職した会社の人と連絡をとっているか」を聞くと、「頻繁に連絡を取っている」(8.3%)、「定期的に連絡を取っている」(23.5%)を含めて約6割(57.5%)が連絡を取っていた【図表1】。
「退職した会社に戻りたいと思ったことがあるか」を聞くと、約3割(32.9%)が「ある」と答えた。「頻?に連絡をとっている」が65.6%と、退職した会社の人と密に連絡を取っている人ほど、「戻りたい」と思う気持ちが強い傾向がみられた【図表2】。
「戻りたい」という人に、その理由を自由回答で聞くと、「子どもが大きくなるまでは残業が少ない職場にいたかったが、現在は大きくなったので前職くらいの給料がほしい」などライフステージの変化や、「退職前に気がつかなかった良い面に気づいた」など一度職場を離れたことで、前職のよさに気づいたという理由も見られた。
また、「一緒に仕事をした仲間が好きだった」といった人間関係を懐かしむ意見もあった。
「人間関係」を理由に退職する人は少ない
J‐CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめたマイナビのキャリアリサーチラボ研究員の朝比奈あかりさんに話を聞いた。
――退職した会社の人と連絡を取っている人が約6割もおり、約3割の人が「戻りたいと思ったことがある」と答えている結果が、とても興味深いです。人間関係が理由でやめた人は意外に少なく、一度働いたところには愛着があるということでしょうか。
朝比奈あかりさん この調査は、前月(今年6月)に転職活動をした人に対して転職したい理由を聞いています。「給与を高くしたい」というのが圧倒的なトップ。次いで「仕事内容を変えたい」「将来性のある会社、業界で働きたい」「スキルアップがしたい」と続いています。
そうした理由に比べ、「人間関係をリセットしたい」と転職活動を行っている人の割合は多くありません。人間関係には不満がないなかで転職を目指す人がけっこう多いため、退職した会社の人と連絡をとっている人も一定数いると考えられます。
――「戻りたいと思ったことがある」人たちの理由を、詳しく教えてください。
朝比奈あかりさん 戻りたい理由を回答してくれた人は333人いました。その人たちが述べた言葉から、その理由を「共起ネットワーク図」で分析したのが【図表3】です。共起ネットワーク図は、最近、マーケティングの世界などでキャンペーン効果を可視化したりする時などに使われています。
テキストやデータの中で特定の単語やフレーズが一緒に現れる頻度やパターンを分析する手法です。出現回数が高い言葉を大きな丸で描き、出現パターンが類似した言葉と太い線で結び、相関関係(共起関係)のネットワークを作ります。
【図表3】の左側を見てください。「良い」という言葉が一番大きな丸となり、その周辺に「会社」「人間」「関係」「職場」「給料」「気づく」「前」などの言葉が強い線で結ばれていることが見てとれます。
転職を相談された際、企業側の引き留め策は効果がない
――なるほど。一目瞭然の面白いネットワーク図ですね。右のほうに「現在」「好き」「仲間」という言葉も強い線で結ばれていますね。いまだに前の会社の人間関係が続いているわけですか。
また、上のほうには「転職」という大きな丸の周囲に「悪い」「違う」「内容」「仕事」「厚生」「福利」といった言葉があります。どうも、転職先の条件が期待外れだったようですね。
朝比奈あかりさん はい。このデータをもとに自由回答をいくつか紹介すると、こうなります。
「前の会社のほうが、人間関係がよかった」(50代男性/その他の業種)
「人間関係がよかったから、自由に仕事ができた」(30代女性/医療・福祉・介護)
「転職してみて、最初に働いていた会社や仕事内容が自分に合っていたと痛感した。また、転職先の環境が前より悪かった」(40代女性/不動産・建設・設備)
このように、転職後に退職した会社の「人間関係」が良かったことを実感し、戻りたいと感じた人が多数いたことがわかりました。転職したい理由の上位に「人間関係」はあがりませんが、戻りたい理由の上位には「人間関係」があげられそうです。
――転職後に「戻りたい」と思っている人が3割もいるならば、企業側は転職を引き留めるために、どういう対応をとればよいと思いますか。
朝比奈あかりさん じつは転職を引き留めることは難しいです。
調査では、「転職を引き留められても、転職の決意は変わらないか」とも聞いており、「そう思う」が85%となっています。転職を相談された際、企業側の引き留め策は効果がない可能性が高いのです。
実際、戻りたい理由を聞いた自由回答でも、こんなコメントがありました。
「いつでも戻ってきていいと言われたので、好感度が上がった」(30代女性/IT・通信・インターネット)
こうしたことから、企業側は退職希望者や退職者との関係を良好に保つことで、即戦力として活躍できる可能性の高いアルムナイ人材を確保しやすくなるのではないでしょうか。
転職する柔軟性だけでなく、出戻りできる柔軟性も大切
――「アルムナイ」とは「出戻り」「カムバック」「Uターン」という意味ですね。これまで「アルムナイ採用」について調査したことはありますか。
朝比奈あかりさん 2024年1月の「アルムナイ採用」で、企業の中途採用担当者にアルムナイ採用を実施しているかどうかを聞くと、41%が「現在実施している」と回答しました。「即戦力として活躍してくれた」がトップとなり、人材不足が加速する中で評価が高いです。
自社で勤務した経験があり、即戦力になるアルムナイ人材への注目は今後も高まることが予想されます。
――戻りたい気持ちがあるなら、「出戻りオッケー!」ということですか。
朝比奈あかりさん 現在、人材の流動性が高まっています。企業側は人材の流出がある一方で、新たな人材を確保できることに利点を感じているようでした。アルムナイ採用が当たり前になれば、より多くの企業がその利点を感じるようになると考えられます。
転職できる柔軟性だけでなく、元いた会社に戻ることができる柔軟性も高まるように対応していくことで、個人のキャリアの選択肢はさらに広がっていくのではないでしょうか。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
朝比奈 あかり(あさひな・あかり)
株式会社マイナビ社長室 キャリアリサーチ統括部
キャリアリサーチラボ研究員
2016年中途入社、「マイナビ転職」の求人情報や採用支援ツールの制作に携わる経験を経て2020年に現職へ。
専門・研究分野:中途採用領域全般、正社員の働き方、転職と賃金の関わり、キャリア自律など。