しかし、コロナ禍を期に年パスの制度は無くなり、それと相前後するように、ディズニーは入園客の量から質へと転換を図った。今では「運営はDオタの方を向いてくれない」といった言葉もまことしやかに語られている。とはいえ、パークとしても、運営上仕方のない政策だったのかもしれない。

恐らく、「ディズニー高級化」の背景には、客層の“選択”があったと見て良いのだ。

◆ディズニーリゾートは“ニセコ化”している

実は、こうした値段による客層の「選択」は、日本の他の観光地でも顕著になってきている。

その代表的な例が、ニセコだ。「Japow(ジャパウ)」とも称される雪質が売りのスキーリゾートで、近年では、多くのインバウンド観光客を集める観光地にもなっている。冬のシーズンになると、そこで売られる商品の高さが話題になることも多い。実際、エリアではカツカレーが数千円もする、といったエピソードは枚挙に暇がない。一方で日本におけるインバウンド観光客の増加に伴い、ニセコには毎年多くの観光客が詰めかけ、観光地としては成功していると言われている。

マリブジャパン代表取締役の高橋克英氏は『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか 「地方創生」「観光立国」の無残な結末』(講談社)の中で、ニセコが世界的リゾートになった要因として、外国人富裕層客を上手く“選択”する観光地作りができたからだという。ニセコの雪質は多くの外国人観光客、特に富裕層を魅了する。彼らを満足させるため、外資系ホテルや、サービス、あるいは街中の看などを徹底的にチューニングし、客層の選択を進めた。だからこそ、そこで売られるモノの価格も、「外国人富裕層向け値段」だというわけだ。

ある意味、ディズニーリゾートは“ニセコ化”しているといえるのかもしれない。

この流れは、現在の円高が続く状況や、コロナ禍明けでインバウンド需要が伸びているからこそ起きているのかもしれない。とはいえ、実際に、ディズニーリゾートではそのようなニセコ化への動きが強まっている。このままディズニーリゾートは、日本人からすれば「手が届かない」という場所になっていくのか。オリエンタルランドの選択に注目したい。

<TEXT/谷頭和希>

―[テーマパークのB面]―

【谷頭和希】
ライター・作家。チェーンストアやテーマパークをテーマにした原稿を数多く執筆。一見平板に見える現代の都市空間について、独自の切り口で語る。「東洋経済オンライン」などで執筆中、文芸誌などにも多く寄稿をおこなう。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社)『ブックオフから考える』(青弓社)