『海のはじまり』©︎フジテレビ

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 まるで世界を繋ぐ大海原のように、夏(目黒蓮)、弥生(有村架純)、朱音(大竹しのぶ)ら、それぞれの人生を生きていた大人たちを結び付けていく海(泉谷星奈)。『海のはじまり』(フジテレビ系)で静かに進んでいく日々の中、波乱を巻き起こした水季(古川琴音)のように純粋な気持ちで彼らを巻き込んでいく海の存在に救われているのは、視聴者だけでなく、夏も同じではないだろうか。

参考:泉谷星奈、倉田瑛茉、竹澤咲子、永尾柚乃 “次の芦田愛菜”となる天才子役たち

 海は、母である水季がいなくなっても寂しさを見せることなく、明るい様子で夏の元に飛び込んできた。7歳とは思えないほど秀逸な言葉遣いで大人を驚かせ、戸惑っている夏や弥生に対しても警戒を見せることはない。しかし、そんな海を心配した夏は、彼女自身も気が付いていなかった心の蓋を開けた。「水季が死んだってことから 気そらしたってしょうがない」そうしてやっと海の涙が溢れ出したシーンは、本作における一つの山場だったと言える。父親と娘にしかわからないことであり、初めてしっかりと心が通じ合った場面だった。

 一方、朱音もそんな海に対して「ママはね、 嫌なことは嫌って言う子供だったの」「もっと言っていいの」と話すと、祖父母の自宅から小学校が遠いため転校を検討していたのだが「転校やだ」と本音を話すように。転校を一旦保留にすると朱音から言われた時の海の顔は太陽のようにぱっと明るくなったが、転校をしなければ夏と住むことができないということを理解すると表情は曇る。その瞬時に、そして純粋に変化する感情を表現する姿には、役としてではなく等身大の7歳の姿も垣間見ることができた。

 夜中にぬいぐるみを抱いてやってきたり、分からないことを分かるふりするのではなく「わかんない」としっかり言ったり、大人っぽさの中に、自身の持つ子供らしさを上手く共存させて視聴者を魅了する彼女。水季に見せていた子供らしい一面は、水季がいなくなったことで自らを支えるための強さに変わったが、夏や祖父母という「いなくならない」大きな頼りができて、また徐々に子供らしさを取り戻しているのかもしれない。 

 そんな海を演じる泉谷星奈は、本作の海役をオーディションで勝ち取った。100人を越える同世代の子役たちの中から選ばれるほど、ずば抜けた実力を持ち合わせているのだ。7歳でありながら、出演作はすでに20本を超えており、娘役として様々な境遇に直面してきた。

 『厨房のありす』(日本テレビ系)では、レストランを営む自閉スペクトラム症の主人公・ありす(門脇麦)の幼少期を演じた泉谷。難しい役柄ながら、母親を失ったショックや興味があるものへの好奇心など、短い出演時間の中で幼い“ありすらしさ”を体現した。

 また『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系)の第3話では、瞳(奈緒)が勤める助産院に両親とともにやってくる。自分に妹ができるという現実や、母親がお産に苦しんでいる姿を目の当たりにして、初めての感情が渦巻く様子を演じ切った泉谷。筆者はその姿を見て、なにか懐かしさに訴えかけるような、こみ上げるものがあったことを覚えている。

 さらに『海のはじまり』と同じく生方美久が脚本を担当した『いちばんすきな花』(フジテレビ系)では、今田美桜演じる夜々の幼少期を熱演。女の子を望んでいた母親のもとに生まれ、兄たちと遊びたくても、女の子らしさを強要されて育った夜々。人形のように、母親の期待を背負いながら生きてきた彼女の人格を形成する重要な時期を演じた。

 錚々たる先輩俳優たちに囲まれながら、彼らと同じように演じるだけではなく、無垢な幼さを活かしたあどけなさとかわいらしさを含んだ演技が泉谷の持ち味と言えるだろう。ドラマの公式SNSで公開されている動画でも、海そのままのように無邪気に共演者たちに話しかけている様子を見ることができ、ストーリーの中でも、現場でも彼女が明るい雰囲気を作り出している。これから成長するにつれて誰もが経験する人生のあれこれを吸収して、年齢とともにその持ち味を磨いていく姿が楽しみだ。

参照※ https://www.theatre.co.jp/production/talent/1700014550(文=伊藤万弥乃)