最新決算で大赤字のヴィレヴァン。本当に「マズい」ことになっているようだ(写真:ヴィレ全さん提供)

7月12日、「ヴィレッジヴァンガード」を運営する株式会社ヴィレッジヴァンガードコーポレーションが、2024年5月期の決算を発表した。

最新決算で大赤字のヴィレヴァン

売上高は約247.9億円で、前期の約252.8億円から約2%の減少。営業利益は9.15億円の赤字で、11.4億円もの最終赤字となった。その結果、自己資本比率は27.1%まで低下。資産の多くを「商品」が占める業態としては、危険水域……とまではいかないかもしれないが、あと数年でそうなってもおかしくない状況だ。


チチカカ売却後も、業績は右肩下がり(編集部作成)

筆者はかねて、ヴィレヴァンについて、凋落の理由を考察してきた。詳細は過去の記事ヴィレヴァンが知らぬ間にマズいことになってた 『遊べる本屋』はなぜ魅力を失ってしまったのかを見ていただくとして、ここであげた凋落の要因は「サブカルの地位低下」と「世界観を強く訴求することが、現代では通用しにくくなった」の2つだ。

【画像】「POPが書けない、サブカルに疎い店員が増加」…大赤字のヴィレヴァン。店舗の外観やPOPを見る(10枚)

そんな同チェーンだが、全国にはヴィレヴァンを愛し復活してほしいと願う人々がいる。Xで活動する、「ヴィレヴァン全店まわるひと」さん(ヴィレ全さん)も、そんな一人だ。


(出所:ヴィレ全さんのX)

そのアカウント名通り、日本全国にあるヴィレッジヴァンガードを一軒ずつめぐりながら、各店の様子をXで発信。店舗では名刺を渡し、時に酒を飲み交わしながら、現役従業員からも多くの話を聞いてきたという。

今回は、そんなヴィレ全さんから見た、ヴィレヴァンの現在の姿と、リサーチを重ねて気付いた“本質的な問題”についてお伺いした。

「小さなアニメイト」化するヴィレヴァン

ヴィレ全さんは、3年ほど前から、この名前での活動を始めた。

「ヴィレヴァンは現在、300店舗ちょいあるのですが、そのほぼすべてに行きました。足を運べてないのはおそらく、北海道の帯広店、釧路店、そして千葉県の銚子店の3店舗ですね。もともと、仕事が全国を飛び回る仕事なのですが、それに合わせて店舗巡りもしています」(ヴィレ全さん)

そんなヴィレ全さんは、現在のヴィレヴァン店舗をどう見るか。

「すべての店舗に通じる話として、商品ラインナップが“普通”になってきていると感じます。

ヴィレヴァンは店舗パターンが4つあるんですが、それぞれで様子が違います。東京にあるような路面店だと、訪れる人の年齢層はかなり高い。一方、イオンモールなどに入っている店舗は、家族連れが多くて、子供も多い。ただ、こうした店舗は、YouTuberやVTuberのグッズが多くて、ちょっとしたアニメイトみたいな感じなんです」(ヴィレ全さん)


(写真:ヴィレ全さん提供)

ここまでは、ネット上でも多くの人が指摘していること。だが、商品ラインナップ以上に、ヴィレ全さんが憂慮しているのは、その「働き手」の問題だ。

「現在のアルバイト従業員の少なくない人が、『ヴィレヴァンらしさ』を共有できていない現状があるようです。

そもそも、ヴィレヴァンらしさを作っていたのは、創業者の菊地敬一さん。彼が作る店の雰囲気を見て、それを周りの人が真似ることで、自然と、あの『らしさ』が継承されていきました」(ヴィレ全さん)

POPを書けない店員が増加した理由

この「らしさ」が最も現れているのが、ヴィレヴァン特有のあの「黄色いPOP」だと言う。

「ヴィレヴァンにとって、POPはある種の営業ツールです。例えば登山のコーナーを作るとして、まず、登山のガイドブックを置いて、その周りに登山に関するアパレルや道具を置く。それによって、利益率が低くても本が営業ツールになって、周りの利益率の高い商品で採算を取るわけです。


ヴィレヴァンと言えばあのPOPだが…(写真:ヴィレ全さん提供)

しかし今、このPOPを魅力的に書けない従業員が増えているそうなんです。その結果、『ただ単に流行のものを並べた』だけになってしまっている店舗も存在しています」(ヴィレ全さん)

なぜ、POPを魅力的に書けない店員が増えてしまったのか。ヴィレ全さんは、従業員教育の観点から指摘する。

「ある世代までは、『菊地さんだったらこういうふうに書きそうだよね』というノリが理解されて、POPも自然と継承されていったそうなのですが、働く人たちに聞いていると、この流れが途絶えてしまったそうです。

理由は『教育の失敗』です。どうも、1986年の創業から2000年代初頭ぐらいまでに入った第1世代の人たちが、『教えること』をまったくしてこなかったらしいんです。昭和に生まれ育った世代なので、それが自然だったのかもしれませんが……。

その後、時代の空気感をある程度知る第2世代を経て、第3世代(今のZ世代)がメインのアルバイトになった現在では、『菊地さんのノリ』がわからなくなり、『ヴィレヴァンらしさ』という抽象的な概念が途絶えてしまったんです。だから、今の若い働き手たちを見ていると、POPを書ける人が減ってきているんです」(ヴィレ全さん)


(写真:ヴィレ全さん提供)

営業ツールであり、空間の独創性を生んでいたヴィレヴァンのPOP。実際、面白いPOPを見てノリで購入してしまい、帰宅してから「なんでこれを買ったんだろう?」と青ざめた経験は、ヴィレヴァン好きなら一度はあるはずだ。それが今は、起きにくくなっているのだとすれば、右肩下がりの売上高にも納得がいく。

もっとも、時代が経っているので、『菊地らしさ』をそのまま継承するのは難しいだろう。だからこそ、“菊地ミーム”を現代にリブートさせる必要があるわけだが、ヴィレ全さんによると、ここにさらに「賃金」の話が絡んでくるという。


名古屋の本店(写真:ヴィレ全さん提供)

「ヴィレヴァンのバイトは、基本的に最低時給なんです。書店業界では珍しいことではないですし、以前までなら、それでもよかったんだと思います。

かつての本店などで働いていた人は、自分の『サブカル』観を持っていて、なんなら自分の店をやろうか、と思っていたような人たち。そういう人たちに、ヴィレヴァンという店の一角で好きなものを仕入れさせて販売させるのが昔のヴィレヴァンの形で、いわば、『自分の店を持つ前に、好きなものを売るための販売方法を身に付けられるチャンス』だった。だから、最低賃金でも楽しくできていた。

ただ、今ヴィレヴァンで働く人達全員が、そういう強烈な自己を持っているかといえば、そうではない。『なんとなく面白そうだし、働いてみよう』と思ってやって来る人がほとんどです。だから、そこで面白い売り場が作れるかというと作れない。かといって、いろいろ学ぶといっても、最低賃金だと金銭的にも限界がある。だから、『ヴィレヴァン』が継承してきた『サブカル』を学べないんです」(ヴィレ全さん)


現在バイト募集中の、都内の店舗の時給は1113円。現在の東京都の最低時給に相当する(出所:ヴィレヴァン公式サイト)

文化を学ぶにも、余裕が必要である……。映画『花束みたいな恋をした』は、主人公たちの実家の太さと文化への熱量が論じられることがあるが、そういう意味ではヴィレヴァンの労働事情も、とっても現代的な話だ。若者に余裕がない現代では、「専門性は自分で身に付けてね」ではダメだということか……。

正社員登用のハードルの高さも、人材の育成の壁に

取材中、そんなふうに考えていた筆者をよそに、ヴィレ全さんはより本質的な指摘を続ける。

「現場の人たちに話を聞いてると、『この仕事は好きだけど、長く働ける職場ではない』といった声を多く聞きます。背景にあるのは、正社員登用のハードルの高さ。同社ではバイトを経てバイト店長になり、その後、正社員になる人が多いのですが、想像以上に難しいみたいなんですよね。


(写真:ヴィレ全さん提供)

なかなか正社員になれないと、当然ながら自分の生活が成り立ちません。若い人も多いので、『バイト店長のままでは厳しい……』と考えて、職場を離れてしまう人が少なくないそうなんです」(ヴィレ全さん)

もちろん、採用事情は時期によっても異なるはずなので、「私はすぐに正社員になれた」という人もいるだろう。しかし、ハードルの高さは昔からあったようだ。例えば2006年、『商業界』のインタビューで創業者の菊地氏は以下のように語っている。

「うちは幸いヴィレッジヴァンガードを好きな人が支持してくれて、従業員として飛び込んできてくれる。それで、申し訳ないけれども3年半は地域の最低賃金で耐えていただき、じっくり仕事ぶりを見させていただきます。それで受かって正社員になったら、給料はものすごく高くもないけど、安くもないよと」

今は「働く人を大切にできるか」が問われる時代だ


どうやらヴィレヴァン、本当に「マズい」ことになっているようだ。個人的には、業績どうのこうのの話よりも、よっぽどマズい気がする。なぜなら、ヴィレヴァンのような「世界観」をウリにする会社は、働く人こそが一番の財産のはずだからだ。無形資産を軽視し、せっかく育った人が離れるようでは、会社の長期的な成長は考えにくい。

ヴィレヴァンを論ずる時、ネット上では「POS導入により、商品ラインナップが……」といった話が出がちだが、もちろんそういった面でも語れるのだろうが、なんというか“悪い意味での日本企業らしさ”こそが問題なのではと思えてくる。

しかし、ヴィレ全さんの話はまだまだ続く。ということで後編では「品揃えや、出店戦略の失敗」について伺っていこう。

後編記事はこちら:ヴィレヴァン300店巡って見えた「品揃えの失敗」  「遊べる本屋が魅力」を失った本質的な要因


日本中のヴィレヴァンを訪れている立場から、ヴィレヴァンの現状を語ってもらった。人材育成がメインとなった前編に続き、後編では「商品の仕入れ」に焦点を当てる(写真:ヴィレ全さん提供)

(谷頭 和希 : チェーンストア研究家・ライター)