中央の巨大なスピーカーが「KORE」

ペア74,800円の「OBERON 1」から、1台8,250,000円の「KORE」まで、幅広いスピーカーを展開しているDALIが創業40周年を迎えた。取り扱うD&Mのシニアサウンドマスター・澤田龍一氏が、その技術的な特徴を説明すると共に、7月26日から3日間開催される「東京インターナショナルオーディオショウ」で参考出品する新機種「RUBIKORE」(ルビコア)を公開した。

「家庭でリラックスして音楽を楽しむためのスピーカー」

DALIはデンマークのブランド。デンマークは、九州ほどの国土面積に約600万人が暮らす国だが、実はスピーカーと縁が深い国でもある。電流が磁場を形成する電磁気を発見した理学者ハンス・クリスティアン・エルステッドや、1898年に磁気針金録音機を発明したヴォルデマール・ポールセン、1915年に世界で初めて、ムービングコイルスピーカーを開発したピーター・L・ジェンセンらを輩出。

その影響もあってか、DynaudioやBang & Olufsenなどの世界的なスピーカーブランドもあり、DALIもその1つ。DALIのCEO、ラース・ウォーレ氏は、「フランスがワインやチーズの国であるように、デンマーク人がスピーカーをつくるのはとても自然なことなのです」と語る。

DALIのCEO、ラース・ウォーレ氏

そんなDALIが誕生したのは、デンマークのノーアエで1986年のこと。Hi-Fi製品の販売店グループであるハイファイ・クルーベンのスピーカー製造部門としてピーター・リンドルフ氏によって創業。

当初は低価格なスピーカーをメインに開発していたが、BBCモニターのような放送局用モニターが憧れだった時代に、よりエンドユーザーに寄り添った価値観で「家庭でリラックスして音楽を楽しむためのスピーカー」にこだわり、それから十数年、現在では世界中にスピーカーを販売するグローバルカンパニーに成長した(現在はDALIとして独立している)。

創業当初は低価格なスピーカーをメインに開発

バーチカルツインタイプや長いリボンツイーターとウーファーを組み合わせた「DALI SKYLINE」など、これまでに様々な製品を手掛け、グローバルカンパニーに成長した

なお、HiFi Clubbenは欧州でもっともBowers & Willinsを販売している販売店の1つであると共に、DALIも主要なスピーカーとして販売を継続。欧州のユーザーからは「忠実に音を再現するリファレンススピーカーのBowers & Wilkins、音楽を楽しむスピーカーのDALI」と、評価されているという。日本市場でもDALIは、B&Wのシェア38%に対して、DALIが20%と、B&Wに次ぐシェアを持つブランドとなっている(期間:2023年1月~12月/アンプ非内蔵スピーカー店頭シェア/ GFK調べ)。

現行のラインナップ

ソフトドームとウッドファイバーコーンにこだわる

そんなDALIは、スピーカーにソフトドームのツイーターを採用しているのが特徴。ソフトドームは軽くてしなやかで、不快な音を出しにくく、コントロールしやすい。その一方で変形しやすく、超高域再生には限界がある。

1992年の初代MENUET「DALI 150 MENUET」

ハードドームはピストンモーションしている範囲では正確な再生が可能だが、あるところで許容できなくなると共振が盛大に発生。共振ピークは鋭く、15dBにもおよび、それが人の耳に聞こえてしまう。そのため、共振ピークを可聴帯域外に持っていこうとよりハードなツイーターが追求される事になり、例えばB&Wのハイエンドモデルではダイヤモンドを採用。「逆に、ハードドームは追求すると、そこまでやらなければいけない」(澤田氏)という違いがある。

左がハードドーム、右がソフトドームの特製。左の図には鋭い共振ピークがある

ソフトドームや高分子フィルムリボンでは急峻な共振ピークがないため、「可聴高域限界に余裕を持たせるくらいで問題なく、そのためDALIの高域限界は30kHzとなっている。“Musicality”を大切にするDALIにとって、どこまでも不快な音をださず、“世の中にピストンモーションで音を出す楽器はない”というDALIにとって、楽器と同様に多少の揺らぎがあるソフトドームが理想の素材」(澤田氏)なのだという。

一方で、DALIは独自の工夫でソフトドームの長所を活かしつつ、その短所を補う努力を継続。“ソフトドームでありながら、ハードドームのような低損失性”を目指し、薄くて低損失で軽い振動板を実現。軽くて強いシルク素材を使うことで振動板質量を一般的なソフトドームの半分に抑え、磁性流体に可能な限り低粘度のものを使用。

音楽をリラックスして楽しむためのウォームなサウンドを本質としながら、ディテールの再現性と高いトランジェントも追求している。

DALIと言えば、ウーファーやミッドレンジに採用されている、茶色いウッドファイバー・コーンも代名詞。あの振動板は、微粒子パルプに木繊維(ウッドファイバー)を混抄した独自のもので、独クルトミューラーと開発。2002年に「EUPHONIA」で採用し、以降ほとんどのスピーカーに採用している。

この振動板も、やわらかい素材のソフトドームツイーターと同様の方向性を持つ。前述のツイーターは、低損失と軽量化を実現する一方で、低い周波数への対応を高めるために口径アップを実施。それでも2kHz以下のクロスオーバー設定は難しく、比較的センシティブな帯域まで低域ドライバーがカバーする必要があった。

ウッドファイバー・コーンであれば、2kHzというセンシティブな帯域においても、自然なクロスオーバーを構築できる。DALIがウッドファイバー・コーンにこだわる理由だ。

他にも、ユニットのエッジに一般的なブチルゴムなど内部損失の大きな低反発素材は使わず、あえて高反発系のゴムを使用。過剰な振動吸収を抑えることで音楽の躍動感が維持されるそうだ。

D&Mのシニアサウンドマスター・澤田龍一氏が2種類のゴムで実験。低反発なゴムは机に「ゴンッ」と落ちてあまり跳ねないが、DALIが採用している高反発系のゴムはかなり高く跳ね上がる

さらに、振動板だけでなく駆動系の磁気回路も改良。近年の測定技術とシミュレーターの進化により、磁気回路において、これまではわからなかった“渦電流”の問題が注目されるようになった。

これが、2kHz付近までウーファーがカバーするDALIにとっては重要な課題となり、それを克服するために、特許技術「SMCマグネットシステム」を開発した。SMCはソフト・マグネティック・コンパウンドの略で、鉄粉の表面を絶縁被膜で覆い、それを焼結して磁気回路を作っている。こうする事で、鉄部品でありながら、電気の全く流れない鉄部品を実現でき、渦電流の発生しない磁気回路になる。

鉄粉の表面を絶縁被膜で覆い、それを焼結して磁気回路を作る「SMCマグネットシステム」。渦電流の発生しない磁気回路になり、3次元高調波歪が少なくなるという

DALIの進化を聴く

Royal Menuet II

音だけでなく仕上げも美しく、コンパクトで日本のオーディオファンにも人気があるのが「MENUET」シリーズだ。2003年の「Royal Menuet II」から、現行の「MENUET」(ペア220,000円/2024年10月1日から価格改定264,000円)、そしてよりゴージャスな仕上げで、独ムンドルフ製コンデンサーを採用するなど内部のネットワークも進化させた「MENUET SE」(ペア264,000円/2024年10月1日より308,000円)を、新旧3機種を聴いた。

現行の「MENUET」

「MENUET SE」

楽曲は「Lukas Graham/7 Years」。

Royal Menuet II

まずはRoyal Menuet II。小型ブックシェルフらしい、音場の広さは健在。中高域のウォームでホッとする描写は、現代のDALIスピーカーにも受け継がれており、改めて美しいサウンドのスピーカーだと感じる。

エンクロージャーの響きも美しいが、それが付帯音として少し耳につく部分もある。また、音場に定位する音像の立体感にもやや乏しい。このあたりは時代を感じさせる部分だ。

現行のMENUET

現行のMENUETにチェンジすると、S/N比とトランジェントが良くなり、美音でありながらハイスピードなサウンドに進化したと感じる。歪も少なくクリアだ。音場はさらに広大になり、音離れもよく、音像もグッと立体的に厚みが出る。

MENUET SE

MENUET SEになると、サウンドはより高精細になり、全体の解像感もアップ。特に中低域の中の細かな音が見えやすくなる。音場はさらに広く、音像も立体的だが、その音像がグッと前に張り出す力も強くなり、よりエモーショナルなサウンドになる。

より現代的でハイスピード、高分解能なサウンドに進化しているのだが、面白いのはそれでいてホッとするウォームさ、耳あたりの良さは維持されていること。このあたりに、「家庭でリラックスして音楽を楽しむためのスピーカー」というDALIのこだわりを感じる。

OBERON 5

フロア型でもその傾向は同じ。手が届きやすいOBERONシリーズの「OBERON 5」(ペア165,000円)を聴くと、MENUETより音の精細感は減るが、フロア型らしくスケール感豊かなサウンドが展開。ウォームな響きもたっぷり含まれており、ゆったりと身をまかせたくなる気持ちの良い音だ。

「OPTICON 6 Mk2」(1台181,500円)になると高解像度になり、音像や音場にも奥行きが生まれ、気持ちよさがありつつ、よりHi-Fiなサウンドになる。

RUBIKORE 6

最後に、「東京インターナショナルオーディオショウ」で参考出品する新機種「RUBIKORE」も聴いてみる。まだ正式発表前の製品だが、RUBIKOREシリーズには「RUBIKORE 2」「RUBIKORE 6」「RUBIKORE 8」がラインナップ予定で、試聴したのは「RUBIKORE 6」だ。価格も未定だが「100万円はしないイメージ」だという。

ハイエンドモデル「KORE」で培われた技術をふんだんに投入しているそうで、音が出た瞬間から圧倒的な広さの音場に驚かされる。それでいて、描写のシャープさ、情報量の多さを兼ね備えているのも、上位モデルと共通する特徴。また、これだけ現代的なサウンドに進化していながら、リスナーを緊張させない、穏やかさを備えているのが最大の魅力と言えるだろう。

DALIのCEO、ラース・ウォーレ氏

DALIのCEO、ラース・ウォーレ氏は、ビデオレターの中でDALIが日本のオーディオファンに受け入れられた理由を「日本とデンマークでは歴史と文化において、大な違いがありますが、メンタリティの部分で大きな共通点がいくつかあると私は信じています。それは、Hi-Fiサウンドの追求という価値観です」。

「DALIの製品においても、それは同じです。細部へのこだわりをはじめ、すべてのことは表面的なものだけではありません。日本のみなさまは、最先端の機能や流行りソリューションよりも、質が良く、シンプルで、どちらかといえば保守的なものを好む傾向にあると思います。そしてそれは、デンマーク人がもつ、デザインや技術へのアプローチと一致すると私たちは考えています。つまり、いい音についての根本的な考え方が、非常に似ているのです」と分析。

「そういった意味でお伝えしたいのは、新製品発売の際に日本のみなさまからいただくコメントや、ご質問の多くが非常に重要なものだということです。改めて、お礼を申し上げたいと思います」と語った。

創業40周年記念 高音質ケーブルプレゼントキャンペーン

7月12日から「DALI 創業40周年記念 高音質ケーブルプレゼントキャンペーン」が実施される。2024年9月30日までの対象購入期間中に、OPTICON MK2シリーズ、MENUETシリーズのステレオスピーカー(1組)を購入し、応募した全員にAudioQuestの高音質スピーカーケーブル「Q2」(3m/ペア/銀メッキバナナプラグ仕様/26,400円)、またはオーディオケーブル「Red River」(1.5m/ペア/RCA/26,400円)をプレゼントする。

応募締切は2024年10月10日23時59分。なお、センタースピーカー「OPTICON VOKAL MK2」、壁掛け用スピーカー「OPTICON LCR MK2」はキャンペーン対象外。対象モデルや応募方法などの詳細は、キャンペーンページを参照のこと。