激高したヌニェスがパンチを繰り出す。だが一方的にコロンビアサポを非難できない。試合前に時間を戻せば...【コパ・アメリカ戦記】
![大声援でチームを後押ししたコロンビアサポーター。写真:浅田真樹](https://image.news.livedoor.com/newsimage/stf/2/5/2527e_1429_de6f0e9c_3e85e284-m.jpg)
試合自体はよくも悪くも、南米らしい熱い戦いだったと言っていい。球際の争いは激しく、明らかなファウルも少なくなかったが、そこには絶対的な勝利への意欲が感じられ、互いがスピードダウンすることなくゴールへと向かう展開は、見応えがあった。
すると、わずか6分後、試合はさらに動く。
コロンビアのダニエル・ムニョスが小競り合いのなかでヒジ打ちを放ち、この試合2枚目のイエローカードを受けて退場となるのである。
それでもコロンビアは、決して守備に徹することはなく、あくまでカウンターの脅威を示し続ける。
「我々は試合をコントロールしていた」と振り返る、コロンビアのネストル・ロレンソ監督が、「ひとり少なくなった時でさえ、我々は2人のフォワードを残した」と誇らしげに語っているとおりだ。
結局、退場者を出しながら、虎の子の1点を守り切ったコロンビアが1−0で勝利。前回王者アルゼンチンが待つ決勝へと駒を進めた。
だが、この試合で最も大きな話題となったのは、ここから先だ。
センターサークル内で両チームの選手、スタッフがもみ合いになるのと同時に、スタンドでもサポーター同士の乱闘があちこちで発生。スタジアム内には不穏な空気が漂っていた時だった。
ウルグアイのベンチ脇、ピッチに最も近いスタンド最前部に、ホセ・マリア・ヒメネスが駆け上がり、コロンビアサポーターと小競り合いになったのである。
だが、これは会場の警備員らが間に入り、ほどなく両者が引き離された。ウルグアイの選手の家族と思しき一団が、スタンドから降ろされ、ピッチに避難するという事態にはなったが、これで終わっていれば、ここまで“事件”は大きなものにならなかっただろう。
ところが、直後、激高したダルウィン・ヌニェスが多くの人をかき分けてコロンビアサポーターに突進していくと、次々にパンチを繰り出した。どうにかスタッフに抑えられ、ピッチに降りたヌニェスは号泣。収まりのつかないヒメネスはスタンドとにらみ合い。しばらく混乱は続いた。
【動画】まさかの乱闘! ウルグアイ選手がスタンドに乗り込んで敵サポと...
CONMEBOL(南米サッカー連盟)は試合後、「サッカーに影響を与える暴力行為を強く非難する。フィール内外に不寛容と暴力の居場所はない」との声明をすぐさま発表。だが、怒り心頭のヒメネスは、「Desastre(災害)」という言葉を何度も用い、取材陣にこう語っている。
「私たちの家族が、コロンビア(サポーター)の一部から攻撃された。これは私たちの家族に起きた災害だ。愛する家族が危険だったので、彼らを守るためにスタンドに押し入るしかなかった。生まれたばかりの小さな赤ん坊もいたのだから」
ヒメネスが、「彼ら(コロンビアサポーター)は(酒の)飲み方を知らない。まるで何も知らない子どものように振る舞う」とも話していることから察するに、酔ったファンの行為が家族に何らかの危険を及ぼしたのだろう。
だとしても、そもそものきっかけがはっきりしない以上、一方的にコロンビアサポーターを非難はできない。
この試合、数の上ではコロンビアサポーターのほうが圧倒的に多く、ウルグアイサポーターを大勢で取り囲むという状況が生まれやすかった(そう見えやすかった)のは、確かだからだ。
試合前に時間を戻せば、数の違いこそあれ、両チームのサポーター同士が記念撮影をする姿も見受けられた。そこには国際大会ならではの楽しげな雰囲気があった。
サッカーという競技が、両チームのサポーターを物々しい柵で切り離さなければ成立しないのだとしたら、寂しい限りである。
取材・文●浅田真樹(スポーツライター)