住友林業の米国子会社であるDRB Groupの手がけた住宅(画像:住友林業)

国内戸建て住宅市場の縮小が続くなかで、大手ハウスメーカー各社が米国での事業拡大に乗り出している。注目は今年4月に米大手ハウスビルダーのM.D.C.ホールディングス(MDC社)を約49億ドル(当時のドル円レートで約7500億円)で買収完了した積水ハウスだ。日本勢では先行する住友林業を抜いて米国5位に躍り出るとともに、今後の米国戦略では大和ハウス工業など他社との違いも明らかになってきた。

2003年から米国での戸建て事業を開始した住友林業、1980年代に一度撤退し2011年に再進出した大和ハウスとも、米国で広く普及している「2×4(ツーバイフォー)工法」の木造住宅で事業規模を拡大してきた。一方、6月の決算発表会見で積水ハウスの仲井嘉浩社長は「2×4工法」に加えて独自工法の高級住宅「SHAWOOD(シャーウッド)」を米国に輸出する計画を明らかにし、「積水ハウステクノロジーを米国で展開し、米国戸建業界のゲームチェンジャーになる」との決意を示した。

米国のホームビルダー業界はプレハブ化=工業化が遅れており、日本各社は得意とするプレハブ技術を持ち込むことで大幅な工期短縮とコスト削減でシェア拡大を図る戦略だ。加えて積水ハウスは独自商品を米国市場に投入することを決断したわけだが、かつて家電や自動車などで日本製品が米国市場を席巻した歴史を戸建て住宅で果たして再現できるのだろうか。

住宅の供給不足に陥っている米国市場

日本では、2023年度の新設住宅着工戸数が前期比7.0%減の80万0176戸と辛うじて80万戸台を維持した。うち、戸建てが大半を占める「持ち家」と一戸建「分譲」の合計は35.3万戸で前年度に比べて約1割減少。中長期的にも人口減少によって右肩下がり傾向が続くと予想されている。

一方、米国の住宅建設数は年150万戸を超えており、うち戸建て住宅は日本の約2倍となる年60万〜70万戸で推移している。米国の住宅市場は日本とは異なり、中古住宅の売買が活発で市場全体の約8割を占める。

移民の流入などで人口の増加は続いているが、住宅ローン金利が高止まりして、買い替えに伴う中古住宅の売却数が低迷。そのため市場全体では供給不足に陥っており、「新築住宅の建設が追い付いていない」(大和ハウス取締役常務執行役員住宅事業本部長・永瀬俊哉氏)状況だ。

米国では、各州の行政当局が道路や水道などのインフラ整備に合わせて新築戸建ての開発を規制して供給量を制限してきた。米国のホームビルダーは日本の不動産デベロッパー(開発事業者)の役割に近く、新築住宅の供給量を増やすために「開発権利を持ったビルダーを大手が買収する動きが活発化して寡占化が進んでいる」(永瀬氏)という。

そこに日本企業が続々と参入しているのは、米国の住宅建設会社の多くが昔ながらの手作業に近いやり方で工事を行っており、プレハブ技術によって競争力を発揮できると判断したからだ。

4年前から米国での事業拡大に乗り出した旭化成ホームズの川畑文俊社長によると「米国では戸建て住宅の工期が1年かかるというケースも珍しくない」。そこに同社のプレハブ技術を持ち込むことでサブコントラクター(専門建設業者)として現地ホームビルダーからの受注を伸ばしているという。

住宅生産の工業化が進んでいる日本

日本で住宅生産の工業化が始まったのは戦後から。それまでは伝統構法の「軸組工法」で大工などの職人が手作業で住宅を建ててきたが、戦後の住宅不足問題に対応するため通商産業省(現・経済産業省)主導で工業化を推進してきた。プレハブ住宅の最初は、1959年に発売された大和ハウス工業の「ミゼットハウス」だが、翌1960年には積水ハウスが創業した。

ハウスメーカー各社は、それぞれ独自の工法を開発し、大和ハウス、積水ハウスなどは軽量鉄骨造、旭化成ホームズは重量鉄骨造の住宅を主力商品として展開。当初、軸組工法を採用していた住友林業も、現在では独自開発の「ビックフレーム(BF)構法」が大半を占める。ほかにミサワホームの木質パネル接着工法、積水化学工業のユニット工法などもあり、日本ではさまざまな工法が乱立する状態となった。

一方、米国の戸建て住宅市場は、ハリケーンが多いフロリダ州でブロック造の住宅が多い以外、「2×4工法」が標準工法として広く普及してきた。住宅を建設する技能労働者は「2×4工法」の技術を習得すれば、新築だけでなく、市場全体の8割を占める住宅ストックの改修やリノベーションにも対応しやすい。移民など賃金が安い労働力が獲得しやすかったこともあって、住宅生産の工業化が進んでいなかったようだ。

北米産木材を日本に輸出してきた住友林業は環境規制の強化などを見通して、2003年から米国での住宅事業を開始した。これまでに現地企業5社を買収し、現在では16州で事業を展開。2023年12月期の引き渡し戸数は約1万200戸と、日本での販売戸数約8200戸を上回っている。現在は「2×4工法」をパネル化し、製造・配送・施工までを工業化したFITP事業に力を入れており、今年に入ってノースカロライナ州に6番目の工場が完成。2030年には年2万3000戸の供給を目指している。

【2024年7月9日16時00分追記】初出時、住友林業に関する記述に誤りがあったため上記のように修正いたしました。

大和ハウスでは2017年のスタンレー・マーチン社を最初に、3社を買収し、現在は12州で事業を展開。2023年度の戸建て住宅供給戸数は6568戸で、売上高は4721億円となっている。同社では3年後の2026年度に海外事業の売上高1兆円、うち米国事業で73%を目標としており、現状の3社体制で米国の供給戸数を1万戸超に引き上げる計画だ。今後は部材・住宅設備などの資材メーカーとの関係を強化し、グループ購買の取り組みでコスト削減を図る戦略だ。

米国市場に「シャーウッド」を投入する狙い

積水ハウスは、年1万戸弱を手掛けてきたMDC社の買収によって、米国での戸建て住宅の供給戸数は年約1万5000戸となった。2030年には年2万戸の供給体制を目指しているが、うち3000戸は「シャーウッド」を販売する計画だ。

住友林業、大和ハウス、旭化成ホームズも、米国では日本では手掛けていない「2×4工法」で戸建て住宅事業を展開してきた。2×4工法であれば資材も技能労働者も現地で容易に調達できるので参入障壁が低い。積水ハウスでも2×4工法をメーンに事業を展開していくが、日本のプレハブ技術を導入して進化させた「New 2×4工法」へと2030年までに切り替えていく。

では、米国市場に「シャーウッド」を投入する狙いは何か――。2×4工法は、日本でも1974年に「枠組壁工法」の名称で標準工法に認定され、一条工務店や三井ホームなどが採用している。壁や床などの「面」で建物の構造を支える工法で、従来の「軸組工法」と比べて高気密・高断熱を実現しやすいが、窓などの開口部を大きくしたり、間取りを大空間にしたりするのには適していない。

積水ハウスは、国内で3つの価格帯別に商品展開を行っており、米国でも高価格商品として「シャーウッド」を投入する。2×4工法では対応が難しい大開口・大空間を実現した高級住宅として需要が見込めると判断した。ただ、現地では「シャーウッド」を生産できる工場を確保できないので、当面は日本から資材を輸出して施工する。

クローズド工法の住宅がどう評価されるか

筆者が注目するのは「2×4工法」というオープン工法で形成されている米国市場で、メーカー独自のクローズド工法の住宅がどれぐらい売れるのかと言う点だ。先行する住友林業、大和ハウスなどでも挑戦したことがない取り組みだけに、積水ハウスとしても「米国戸建業界のゲームチェンジャーになる」との決意を表明したのだろう。

同社では、米国で技能労働者を育成して施工体制を整えるとともに、中古住宅市場に売却されたあとも維持管理・修繕サービスは積水ハウスが提供していく。中古市場が発達した米国で、修繕やリノベーションを行うのに制約が多いクローズド工法の住宅がどう評価されるのかは興味深いところだ。

日本ではプレハブ住宅が新設住宅着工全体の12%前後を占めているが、シェアは低下傾向にある。最近では日本のオープン工法である「軸組工法」を積水ハウス、大和ハウスでも手掛け始めており、むしろ工法のオープン化が進んでいる。

大手ハウスメーカーにとって戸建て住宅の主戦場は、縮小する国内市場ではなく、米国などの海外市場となりつつある。各社の戦略の違いが、3年後、6年後にどのような結果を生んでいるか。「シャーウッド」の米国投入が成功すれば、今後の海外戦略にも大きな影響を及ぼすだけに注目だ。

(千葉 利宏 : ジャーナリスト)