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大人気車種を育て上げた人物

AUTOCAR英国編集部が毎年開催するAUTOCARアワードで、日産自動車の欧州技術開発部門である日産テクニカルセンター・ヨーロッパのデビッド・モス氏が2023年の偉大なエンジニアとして『Mundy Award for Engineering 2024』に選ばれた。

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同アワードは前年を振り返り、各カテゴリーのベストを称えるもの。モス氏は日産のアフリカ、中東、インド、欧州、オセアニア地域の研究開発担当上級副社長で、人気車種のキャシュカイなどの開発に携わる人物だ。


デビッド・モス氏は、日本を除く数多くの地域で日産の研究開発を担当している。

以下、英国編集部のスティーブ・クロプリー編集長のコメントを紹介する。

Mundy Award for Engineering 2024:Nissan R&D guru David Moss

英ベッドフォードシャー州クランフィールドにある日産テクニカルセンター・ヨーロッパの内部には、いくつもの写真が並ぶ広い廊下があり、フロントオフィスとその奥にある大規模な技術施設をつないでいる。

ここにはエンジンセル、実験室、防音室、さまざまな耐久性テスト用の装置などがあり、クルマづくりに関するあらゆることが行われている。

年月とともに色あせた写真の1枚には、6、7人のフレッシュな顔をした若者が写っている。日産の1990年度新卒エンジニアの入社2週間目の様子だ。

今日、驚くべきことに、彼らのうち4人はまだ日産に在籍しており、全員が高い地位に就いている。

その中で最も達成感に満ちた笑顔を見せているのが、過去5年間、日産の上級副社長として各地域の研究開発を担当してきたデビッド・モス氏だ。

モス氏はチーフ・エンジニアという立場から日本以外の重要な地域のほとんどを率いており、34年のキャリアの中で数多くの功績を残してきた。

しかし、AUTOCARが今年の『Mundy Award for Engineering』で特に称えたいのは、英国生産のキャシュカイの開発と育成におけるモス氏のかけがえのない仕事である。

2007年以降に発売されたキャシュカイは、コンパクトクロスオーバーの先駆けであり、全3世代で生産台数400万台を突破した。そして、2027年に発売されるであろう第4世代は純粋なEVとなる見込みだ。

モス氏は学生時代に航空力学を専攻していたが、キャリアとして選んだのは自動車、とりわけ日産だった。大学在学中、クランフィールドにテクニカルセンターを開設したことが、この地で自動車を生産するという強い意思表示だと考えたからである。

彼は会社とともに成長できると感じていた。そして、多かれ少なかれその通りになった。

日産のサンダーランド工場がマイクラやプリメーラを生産していたころ、モス氏はボディエンジニアリングとしてキャリアをスタートさせる。フォードやフォルクスワーゲン、ヴォグゾールに対抗して、ライバルと同じようなハッチバックを作ることはもはや成功につながらないと認識したという。

「わたし達はアルメーラを開発していましたが、販売台数も利益も見込めませんでした」

「消費者がオフロード車の高いドライビングポジションを好んでいることはよく理解していましたが、そのドライビングポジションとCセグメント・ハッチバックの効率性を組み合わせるにはどうすればよいのだろうか? 実現可能だが、難しい課題だと考えていました」

欧州日産を支える大黒柱

入社10年目、クリエイティブな若手エンジニアでありリーダーでもあったモス氏は、初代キャシュカイの複雑かつ重要な部分、インストゥルメントパネルを含むコックピットモジュールの開発を任された。新しいプロセスで正確に成形しなければならないパーツだった。

7人乗りのSUVがほとんど知られていなかった時代、彼はボディ作りの知識を生かし、ロングボディでルーフをわずかに高くした7人乗りのキャシュカイ+2の開発にも携わった。


第3世代のキャシュカイには、欧州向けの日産車として初めて「eパワー」が導入された。

2014年に7人乗り仕様を備えたエクストレイルが登場するまで、キャシュカイ+2の生産台数は4万台に達した。

同年までにモス氏は車両エンジニアリング担当副社長として、英国製の日産全車種のボディ、インテリア、エクステリアのエンジニアリングを担当していた。

第2世代のキャシュカイはモダンに改良され、ユーザーの好む便利な機能がさらに強化された。しかし、特に韓国車などのライバルが大型化していく中で、日産はサイズアップに抵抗した。「駐車スペースは広くなっていなかった」とモス氏は指摘する。

第2世代の販売台数は再び加速したが、日産の目線はすでに次世代モデルに向けられていた。

2017年、モス氏は欧州のチーフ・ビークル・エンジニアという新たな役職を与えられた。その任務は、日産とルノーのアライアンスで使用される新しいプラットフォームを、すでに出来上がりつつあった新型キャシュカイのデザインに適合させることだった。

第3世代キャシュカイは2021年に発売。日産独自のハイブリッドシステム「eパワー(e-Power)」を欧州向けモデルとして初めて導入し、注目を集めた。超高効率のガソリンエンジンを使って発電機を駆動し、その発電機でバッテリーを充電し、そこから電力だけで車輪を駆動するという斬新なものだ。

2022年、キャシュカイは英国で最も売れたベストセラー車となる。これは特筆すべき成果だが、それでもサンダーランド工場の生産台数の20%強にとどまり、残る3分の2近くは欧州大陸でオーナーを見つけていた。

キャシュカイは最近の改良でリフレッシュされ、2028年までに完全電動車に移行する予定である。

現在58歳のモス氏は、日産で最も長くエンジニア担当上級副社長を務めている。

モス氏の前任者はいつも日本人で、3年程度務めると帰国していた。

勤続が長く続いても、モス氏はこれまでと同じことを繰り返すようなことはないと話す。

「日産の何が好きかというと、同じ日が1日もないんです。前のクルマでやったことが、次のクルマでも繰り返されるという感覚はありません。技術やお客様の要求のスピードが速すぎるのです」

「唯一の欠点は――あえて欠点と呼ぶならですが――、クルマを発表する頃にはすでにかなり進んだ計画があることです。でも、わたし達はそこが好きなんです」