皇室に初めてクルマが導入されたのは、1905(明治38)年のことで、有栖川宮威仁(ありすがわのみやたけひと)親王という「自動車の宮様」と呼ばれた皇族が個人輸入したクルマ「フランス製ダラック号」だった。その後、宮内省に自動車の必要性を説き、正式に導入されたのが1913(大正2)年3月のことだった。古来の輿(こし)にはじまり、馬車、船舶、鉄道に次ぐ5番目の乗り物であった。クルマの話題は、佳子さまの日常(1)の中でも少しだけ紹介したが、天皇、皇后両陛下がお乗りになる「御料自動車」とは、いったいどんなクルマなのか。知られざる御料車の世界へといざなおう。

皇室に初めてクルマが導入されたのは、1905(明治38)年のことで、有栖川宮威仁(ありすがわのみやたけひと)親王という「自動車の宮様」と呼ばれた皇族が個人輸入したクルマ「フランス製ダラック号」だった。その後、宮内省に自動車の必要性を説き、正式に導入されたのが1913(大正2)年3月のことだった。古来の輿(こし)にはじまり、馬車、船舶、鉄道に次ぐ5番目の乗り物であった。クルマの話題は、「佳子さまの日常(1)」(https://otonano-shumatsu.com/articles/381558)の中でも少しだけ紹介したが、天皇、皇后両陛下がお乗りになる「御料自動車」とは、いったいどんなクルマなのか。知られざる御料車の世界へといざなおう。

正式な呼び方は「御料自動車」

天皇の御物(ぎょぶつ)を表す「御料(ごりょう)」という言葉を冠して、御料自動車。すなわち、「天皇陛下のおクルマ」のことだ。正式な呼び方は「御料自動車」だが、通称として「御料車」と呼んでいる。最初に御料車が導入されたのは、1913(大正2)年の「ダイムラー」に始まり、現在までに15車種55台を数える。初代となる英国車「ダイムラー」は、当時すでにクルマを導入していた英王室の影響も大きかったといわれる。昭和天皇の御料車として有名ないわゆる”赤ベンツ”(ドイツ車)の導入も、英国との同盟関係が失われていた時期に関係する。

「御料車」と呼ばれるクルマの一番の特徴は、皇室の紋章である「菊華御紋章(きくかごもんしょう)」が車体に取り付けられていることで、これは大正時代から踏襲されている御料車の証だ。

初代第1号御料車として導入された英国製の「ダイムラー」。購入や輸入に関する手続きは、当時の商社、大倉組倫敦(ロンドン)支店が行なった=写真提供/宮内庁
”赤ベンツ”の愛称で昭和天皇の御料車として活躍したドイツ製「ダイムラーベンツ(グロッサー770)」=写真提供/宮内庁

防弾仕様車は1台9450万円

現在ご使用の御料車には、リムジンタイプとセダンタイプとがあり、前者はトヨタ「センチュリーロイヤル」、後者はトヨタ「センチュリー」。

リムジンタイプは、1967(昭和42)年の昭和天皇から使用していた日産「プリンスロイヤル」の経年により、2006(平成18)年から2008(平成20)年までの間に4台が導入された。このなかには、防弾仕様車2台と、寝台車(病患輸送車)1台が含まれる。防弾仕様車は、主に国賓など外国賓客の送迎に使用されており、寝台車は一般でいうところの霊柩車にあたる。

天皇、皇后両陛下がリムジンタイプの御料車を使用されるケースは、国会開会式をはじめとする国の重要儀式に限られる。このリムジンタイプの御料車は、皇室用として特別に製造されたもので、市販されていない。ゆえに購入費は、1台あたり5250万円〜9450万円と特注車ならではの高価格帯になっている。

リムジンタイプの御料車、トヨタ「センチュリーロイヤル」。後部座席の窓ガラスが2枚になっているのが特徴=2019(令和元)年11月22日、伊勢神宮外宮(三重県伊勢市)
リムジンタイプの御料車に十二単(じゅうにひとえ)姿でご乗車になる皇后雅子さま=2019(令和元)年11月22日、伊勢神宮外宮(三重県伊勢市)

セダンタイプは、平成初期には日産「プレジデント」を使用していたこともあるが、現在ある3台は、すべてトヨタ「センチュリー」で、天皇、皇后両陛下の日常公務に使用されている。いずれも市販車をベースに特注仕様(特製生地張りシート等)で納車されており、価格は3401万円〜3450万円である。

セダンタイプの御料車、トヨタ「センチュリー」=2024年5月26日、岡山県真備町
セダンタイプの御料車にご乗車中の皇后雅子さま=2024年5月25日、岡山空港(岡山市)

期間限定だったオープンカー

ご即位のパレード「祝賀御列の儀」や、伊勢神宮ご参拝で注目を浴びたオープンカー仕様の御料車。このクルマは、内閣府が祝賀御列の儀のために用意したもので、宮内庁が購入したものではなかった。一時期的に、内閣府から宮内庁への“管理換え”という事務手続きを経て“期限付き移籍”したもので、表向きには菊の御紋章を身にまとった「御料車」へと変身したものだった。一連の儀式を終えると、内閣府へ返納された。宮内庁では、「御料車第6号」という管理番号が付与され、皇室用ナンバープレートには「皇10」の文字が輝いていた。

平成のときは、英国・ロールスロイス社製のオープンカーが総理府(当時)によって用意され、式典後には宮内庁へと“移籍”している。1993(平成5)年6月、天皇、皇后両陛下(当時は皇太子ご夫妻)のご成婚パレードで活躍したことも、懐かしい思い出である。

一時期的に御料車へと編入されたトヨタ「センチュリー」特注オープンカー=2019(令和元)年11月23日、伊勢神宮内宮(三重県伊勢市)
儀式に対応するべくゆったりとした座席配置になっており、御料車にふさわしいオープンカーだった=2019(令和元)年11月23日、伊勢神宮内宮(三重県伊勢市)

天皇家のクルマは何台所有?

御料車は、公務で使用するものと、私的行事で使用するものに大別される。これは公私の区別をはっきりさせたいとする上皇陛下が、天皇陛下となられた平成の御代替わりと同時に始めたとされる。平成の時代は、公務=御料車、私的=特別車と区別していたが、令和になってからはすべてを御料車と呼ぶ。

御料車のナンバープレートには、皇室用ナンバー(公務用御料車)と、品川ナンバー(私的行事用御料車)の2種類が存在する。皇室用ナンバープレートは、“皇室用”となってはいるが、実際は皇族方のクルマには適用されない。また、その形状は通常のナンバープレートとは異なり、直径10cmの銀メッキを施した円形プレートに「皇」の文字と「算用数字」を縦に配列したものになっている。ちなみに、自動車税は他の官公庁の公用車と同様に非課税であるが、自動車重量税は課税対象となり宮内庁が納付している。

現在、皇室用ナンバープレートを付けた御料車が7台、品川ナンバーの御料車は6台(うち2台は上皇ご夫妻用)の計13台が登録されている。そのうちの1台には、天皇陛下が私的に使用されるトヨタ「クラウン」もある。なお、このなかに“愛子さま用”のクルマは含まれていない。

中央に写る「銀色の円形プレート」が皇室用ナンバープレート。通常のナンバープレートの位置には、菊華御紋章が取り付けられる=2019(令和元)年11月23日、三重県伊勢市
品川ナンバーの御料車、トヨタ「センチュリー」=2022(令和4)年1月1日、東京都港区伊皿子坂付近
上皇ご夫妻へ新年ご挨拶のため高輪仙洞御所(当時)を訪れた時の天皇ご一家=2022(令和4)年1月1日、東京都港区伊皿子坂付近

文・写真/工藤直通

くどう・なおみち。日本地方新聞協会皇室担当写真記者。1970年、東京都生まれ。10歳から始めた鉄道写真をきっかけに、中学生の頃より特別列車(お召列車)の撮影を通じて皇室に関心をもつようになる。高校在学中から出版業に携わり、以降、乗り物を通じた皇室取材を重ねる。著書に「天皇陛下と皇族方と乗り物と」(講談社ビーシー/講談社)、「天皇陛下と鉄道」(交通新聞社)など。