池袋は銘柄選びのヒントを探すのに「ちょうどいい都会」だという(写真:Ryuji/PIXTA)

毎月5万円の積み立て投資から15年で1億円を貯め、この春にはついに運用資産が7億円を突破したというwww9945氏には、値上がりを見込める優良銘柄を発掘するために欠かさずウォッチしている街があるといいます。なぜ「その街」でなければいけないのか、そしてそこでは「何を」見ているのか。コロナ禍での体験を交えて解説します。

※本稿はwww9945氏の著書『年収300万円、掃除夫だった僕が7億円貯めた方法』から、一部を抜粋・編集してお届けします。

隠れた優良銘柄を発掘できる場所

この10年の間に起きた大きな変化といえば新型コロナウイルスによるものだろう。パンデミックの発生は街角に、そして私の投資にも凄まじい影響を与えた。

私が銘柄を発掘するうえで「気づき」を与えてくれるのは街並みの変化だ。とりわけ池袋の街は30年以上も継続してウォッチしている。池袋の変化は日本全体の変化を先取りして教えてくれる格好の投資材料だ。

なぜ池袋なのか─。それは池袋が「ちょうどいい」都会だからだ。渋谷だとトレンドを先取りしすぎることがあるのでうまく投資のピントが合わない。

というのも、企業が新たに先進的な展開を行うとき、渋谷に実験店を出すことがある。渋谷での消費者の反応を見ながら今後の展開を試すわけだ。そんな実験店を見て投資を考えると、判断を誤ることがある。あくまでも実験店だからだ。

その実験店が成功して、本格展開しようとなったとき、次に出店する候補地として挙がるのが池袋や新宿だろう。

そうであれば新宿を定点観測してもいいのだが、私にとって新宿は広すぎる。数時間で回りきれないし、新宿という街は懐が深い。西新宿はビジネス街や電気街があるし、歌舞伎町は風俗街、3丁目は伊勢丹をはじめとした大型店が集積し、2丁目には独特な嗜好を持った人が集まり……エリアによって個性や集う人が違う。

街の広さ、人の集まり具合、集まる人の感度、街のごった煮感、企業が出店する早さなど、さまざまな面でちょうどいいのが池袋だと思う。

コロナショックの驚異的な「速さと深さ」

そんな池袋から人を消し去ったのがコロナ禍だった。

コロナショックで株式市場が大暴落した20年3月、私は京都・龍安寺にいた。石庭で有名な日本を代表する禅寺だ。しかし、暴落する株価を見ながら私はスマホで株アプリを操作していた。

「このままでは死んじゃう……!」

暴落により信用維持率が70%台まで低下していたからだ。信用維持率が30%を割り込むと「追証(追加証拠金)」の入金が必要になる。私のキャッシュ(現金)比率はいつもほぼゼロ。追証を求められても入金できる現金はない。

追証を入れられないと保有株を切られてしまうが、追証が発生するほどの暴落の底で売らされるのはたまらない。絶対に避けたい事態だ。

「信用維持率をせめて90%台に戻さなければ」

そう思い、信用取引で買ったポジションを処分していった。かのスティーブ・ジョブズも眺めながら思索にふけった石庭だというのに、私は煩悩と邪念に心を支配されていた。

だがその投資行動は結果的に大間違いだった。龍安寺で処分した平和不動産は底値から2.8倍へ、スシローはコロナ禍でのテイクアウト需要にうまく対応したことから4.3倍へと急騰していった。そのまま握っていれば、今頃、資産は10億円へと達していただろう。

なぜ慌てて処分せざるを得なかったのか、信用維持率が70%台へ低下する前に対応できなかったのか? 原因はコロナショックの「速さと深さ」だ。

2000年以降の3大ショック(ITバブル崩壊、リーマン・ショック、チャイナショック)はいずれも半年前後の時間をかけて30〜50%ほど下げていった。その半年の間にはいずれもリバウンド局面があり、逃げることができていたのだ。

ところが、コロナショックでは30%下落するのに要した時間はわずか25日しかない。しかもリバウンドらしいリバウンドもない直線的な下落だ。

逃げ場のないままに下げていったために起きた「龍安寺の惨劇」だった。

東京へ戻ると、非常事態宣言が発出された。それから3年間、街角ウォッチがいかに有効だったかを思い知らされることになる。

コロナ禍で消えてしまった「銘柄のヒント」

コロナ禍では池袋から人が消えた。街角ウォッチといっても人がいるのは「焼肉ライク」と「銀だこ」くらいのもの。「1人焼肉」と「テイクアウト」だ。それはそれでコロナ禍での街並みの変化を象徴しているとはいえるが、投資のヒントにはなりそうもない。新たな銘柄のヒントを与えてくれていた人波は街から消えてしまった。

経済は止まっても投資を止めるわけにはいかないのが専業投資家だ。

「あの会社のトラック、よく街で見かけるな」と着目したのが物流企業のSBSホールディングスだった。巣ごもり消費によりインターネット通販が活性化し、SBSホールディングスの倉庫などへの需要も高まるだろうと見込んでいた。

確かに業績は拡大し株価も上昇したのだが、ピーク付近で大きく買い増ししてしまい、成長の鈍化が明らかになった2022年8月に最後の1000株を処分した。収支トントンでの撤退だ。

同じようなことはサイバーエージェントでも起きた。メディア事業の「AbemaTV(現ABEMA)」は年200億円の赤字を出していたものの2年後には黒字化する勢いがあり、ネット広告事業の成長も期待できたため、ポートフォリオをサイバーエージェントに傾けていった。

モバイルゲーム『ウマ娘』の大ヒットもあり株価は上がってくれたのだが、その後は反落。欲張った結果、売りどきを逃したまま現在に至っている。

SBSホールディングスやサイバーエージェントなど「ポートフォリオは傾けてなんぼ」を実践しても、資金を集中的に投下した銘柄がうまくいかない状況が続いていた。街角ウォッチが実践できなくなり、ネットや四季報頼みになっていたことの影響がじわじわと私の資産を蝕んでいった。

新型コロナウイルスは日本屈指の繁華街を日々、侵食していった。

私は変わらず街角ウォッチを続けていたが1軒、また1軒と店がたたまれていく様子に胸が痛んだ。

普段ならば「空いた店舗を次に埋めるのはどんな業態か」は重大なヒントになる。コロナ禍ではテナントが埋まらず空いたままの店舗も多かったのだが、埋まった店舗には気になる変化があった。

「中間層向け」の店から、「利益率」の高い業態に

ひとつは業態ががらっと変わり、テイクアウトや立ち食いなど、安価な飲食店への交代だ。駅前のコンビニエンスストアは「おいしい! 早い! 新しい!」をうたう餃子の王将の新店舗となり、雑貨店だった場所には立ち飲みバーが入った。

それまで多かった中間層を狙ったようなお店が激減したのも印象的だった。とんかつの「松のや」は高級ジュエリー店へ、「吉野家」は漢方薬局へ、定食の「松屋」は高級ブランドの買い取りに特化したリサイクルショップの「ブランディア」へ、チョコクロがウリの「サンマルクカフェ」は1時間5500円の整骨院へ、格安焼き鳥屋は楽器店へと変わった。

後に入ったのは利益率の高そうなお店ばかりだ。調べてみると、7店舗のうち5店舗がより利益率の高い業態へと変わっていた。

「多くのお客さんに・薄い利幅で」の商売から、「少ないお客さんに・厚い利幅で」の商売への変化だ。

コロナ禍で街をそぞろ歩く人が減ったことで、「どうしてもそこへ行きたい」という人を相手にした業態でないと成り立たなくなったのだろう。そんな変化に気づいてはいたものの、投資のヒントになるかというと、まだ私にはピンときていなかった。

池袋の中でも私がとくに注目していた場所がある。

池袋駅北口から徒歩30秒という超好立地にある店舗だ。ここは1990年代には和光証券があった。個人的には平日に池袋へ寄ったときに株価をチェックできる便利な店舗でもあったが、株といえばバブルの象徴だ。

バブルが崩壊し株式市場が低迷した2000年代にはクレジットカードのATMが密集することになった。銀行の不良債権問題の処理が長引き、日本人の金回りが悪くなったため消費者金融や信販会社からキャッシングする人が増えたのだろう。しかし、それもグレーゾーン金利の撤廃など法規制の強化により徐々に廃れていった。

その後に入ったのが「おかしのまちおか」だ。背景にあったのはインバウンド消費。安価で安全だし、美味しい日本のお菓子は外国人観光客にとって格好のお土産だ。それを調達するためのお店として「おかしのまちおか」は支持された。

コロナ禍で観光客が途絶したことは「おかしのまちおか」にとって特大のダメージだったのだろう。2021年に閉店してしまった。

バブルとその崩壊、不良債権問題、インバウンドと社会情勢を映す鏡となってきた店舗を次に埋めるのは、どんなテナントなのか─-。

「リユース」の成長に抱いた複雑な思い

そこに投資のチャンスがあるはずだと待ち構えていたが、一向に埋まる気配がない。繰り返しになるが、池袋駅北口から徒歩30秒の超絶好立地だ。

それにもかかわらず埋まらないままの景色。コロナ禍のダメージがいかに凄まじいかを実感した。


今の時代を映す投資対象が現れるのはいつなのか……。そんな思いでイライラしながら「おかしのまちおか」跡地を見ていたのは、おそらく自分1人だけだろう。

やっと埋まったのは1年後。埋めたのはブランド古着のリサイクルショップだった。運営するのは東京を中心に展開する非上場の企業だ。

「なるほど、リユースか!」

長引く不況にコロナ禍が追い打ちをかけ、消費者の購買力は低下している。一方でリユース店が定着し、古着への抵抗感は薄れているのだろう。

そんな時代を象徴していると感じて、同業の「セカンドストリート」を運営するゲオホールディングスや「格安スーパー」の大黒天物産、ディスカウントストアを展開するトライアルホールディングスをポートフォリオに加えていった。

やっと見えてきたアフターコロナの変化の兆しに満足感を覚える一方、「リユースであれば私たちの暮らしはよくならなそうだ」と複雑な思いも抱いていた。

(www9945 : 個人投資家)