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「会社は返してほしい」

「百円均一ショップ」という業態を開拓し、その覇者となった「ダイソー」。栄光を一代で築き上げた名物創業社長は2月に亡くなったが、折も折、同社が縁の深い関係者に「会社乗っ取り」トラブルで訴えられていた。訴訟の中で原告は、「2代目社長」の横暴を告発し……。

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【写真を見る】顔と風体は創業者そっくり 横暴を告発された2代目社長・靖二氏

「車やゴルフの会員権はどうでもいい。ただ、会社は返してほしい。それだけです」

 そう語るのは、ダイソーを展開する「大創産業」の関係会社「大創出版」の前社長(79)である。大創出版はダイソーの知名度向上に貢献した「100円辞書」を取り扱った出版社である。

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 会社設立は2001年。大創産業が51%、前社長サイドが49%を出資し、代表取締役にはダイソーの創業者・矢野博丈氏と前社長の両者が就任。大創産業の幹部や、前社長の子息も取締役に入った。

 ダイソー相手の取引は、買い切りで返本がなく、取次会社も通さなくて済み、倉庫も必要ない。年商は10億円を超えた。

激高した2代目

 ところが、18年、事態が一変する。

 脳梗塞を患った矢野氏はこの年、大創産業の社長の座を次男の靖二氏(53)に譲っていた。

「10月のこと。はんこを持参するようにと言われて会社に行くと、2代目の社長と大創産業の社員が来たんです。対面して座ると、社長はいきなり“おたくは大変なことをしたな”と怒り始めました。声を荒らげ、周囲はおろおろしてばかりでした」

 と前社長が言う。2代目は何を問題視していたのか。

 実は大創出版は、出版物の企画・編集の実務を「創美出版」なる会社に下請けに出していたという。

「これは私が大創出版を作る少し前に作った出版社で、私が株を持ち、家族が取締役に入っています。そもそも大創出版は取締役以下数名の会社なので、ダイソーと取引をするに当たっては創美に業務を発注することとし、それを博丈さんにも伝えていた。しかし、2代目がダイソーの社長になり、大創出版の取引先を調べる中で、この会社が出てきた。“お前の会社じゃないか”“利益相反行為で会社に損害を与えた”と激怒したわけなのです」

 激高した2代目は、机をバーンとたたくと、前社長に向けて紙を投げつけてきた。

「それは大創が作った『合意書』で、向こうの社員が中身を読み上げました。そこには、私が持っている大創出版の株を同社に無償で譲渡せよ、などとある。いきなりのことですし、弁護士や税理士に相談しないと“はい”とは言えないので“弁護士に相談したい”と言ったのですが、社長は“何言ってるんだ! 速くしろ”と取り付く島もない。横にいた息子がビックリしてしまって“社長が怒ってるよ、速く速く”と言いながら勝手にはんこを押してしまった。到底、納得できませんでしたが、その場を収めるには仕方ないと思い、署名し、とにかく頭を下げました」

「約10億円の資産が向こうに…」

 合意書には、前述の内容の他に、創美出版の株を大創出版に譲渡せよ、とも記されていた。

「また、私が設立した創成舎という不動産管理のための法人についても、基金返還請求権を大創出版に譲渡せよ、と。つまり、創成舎を大創出版に渡せということです。そして、この2点の譲渡価格については、私が長年、利益相反取引によって大創出版に損害を与えたのでそれと相殺するとありました」

 すなわち、

「大創出版、創美出版、創成舎について、私が持っているすべてをダイソー側にただで渡せということです」

 なかなか強硬な要求であるが、はんこは押されてしまい、三法人ともダイソー側に持っていかれてしまったというわけだ。

 それぞれの法人には、多額の財産があったという。

「創美は毎月50万円の収入があるコインパーキングに加え、ゴルフ会員権と車のレクサスを、創成舎は5億5000万円で購入したビルを持っていました。加入していた保険も含めれば10億円の資産があったと思いますが、それも向こう側に渡ってしまいました」

「あまりに乱暴」

 こうして実質、すべてを失った前社長に対し、昨年11月、ダイソー側から、合意書にあった創成舎の基金返還請求権の譲渡を履行せよとの要求が来た。

 到底承服できないと、前社長はこの4月、大創産業と大創出版を相手取り、合意書の無効を争うべく訴訟を起こしたというわけなのだ。原告の代理人弁護士はこう語る。

「原告に損害賠償請求するのであれば、ダイソー側はまず、利益相反による損害が存在し、それがいくらなのかということを立証しなければいけない。しかし、合意書にはそれが一切ない」

「訴訟の前段階でのやり取りの中で、大創産業側は初めて損害額を約20億円以上と主張したのですが、それも根拠が示されていないのです」

「これだけの巨額の財産に関わる案件なのに、弁護士などに相談させる間も与えず合意書にはんこを押させるというのはあまりに乱暴です。全体的に2代目社長の怒りにまかせた言動という印象を受ける。いまだワンマン企業のままなのかなと思います」

 一方の大創産業側の言い分も聞くべく、質問状を送ると以下の回答が。

「コメントは差し控えさせていただきます」

 6月27日発売の「週刊新潮」では、「会社乗っ取りトラブル」の全容について詳報する。

週刊新潮」2024年7月4日号 掲載