デンマークでは2024年6月、韓国の激辛インスタントラーメン「ブルダック炒め麺」が「辛すぎて急性中毒のおそれがある」としてリコールされましたが、依然として日本では普通に購入して食べることができます。食品安全当局が「健康に悪影響」と判断するほどの激辛料理がなぜ人を引きつけるのかについて、イギリスのハル大学で科学コミュニケーション学教授を務めるマーク・ローチ氏が解説しています。

Denmark bans noodles for being too hot - what you need to know about chilli heat

https://theconversation.com/denmark-bans-noodles-for-being-too-hot-what-you-need-to-know-about-chilli-heat-232420



◆なぜ唐辛子を「辛い」と感じるのか?

唐辛子を食べた時に辛いと感じるのは、唐辛子などに含まれるカプサイシンと呼ばれる化学物質のせいです。口を主とする消化器系や鼻、皮膚などの感覚器官の表面にあるTRPV1というタンパク質にカプサイシンが結合すると、辛みが引き起こされるとのこと。

通常、TRPV1は痛みを伴うほどの高温を検知する能力に関与していますが、カプサイシンが結合するとTRPV1はより低い温度で誘発され、部位の腫れや発汗、不快感などのまるでやけどしたかのような炎症反応を引き起こします。なお、カプサイシンによって引き起こされるこの反応は温度受容体の研究に役立ち、2021年のノーベル生理学・医学賞につながりました。

唐辛子がカプサイシンを生産するように進化したのは、野生のほ乳類に食べられるのを防ぐためだと考えられています。唐辛子を食べるほ乳類は人間を除くと、TRPV1遺伝子に突然変異を持つ一部の登木目(ツパイ目)に限られています。

一方、鳥類は熱センサーの仕組みが異なるためカプサイシンの影響を受けず、問題なく唐辛子を食べることができます。実際、鳥類は唐辛子を食べて種子を広範囲に拡散することで、唐辛子の生息範囲拡大に重要な役割を果たしているとのこと。なお、この仕組みを応用して野鳥のエサにチリパウダーを混ぜることで、エサがネズミに食べられないようにすることが可能だとローチ氏はアドバイスしました。



◆唐辛子はどれくらい辛いのか?

唐辛子の辛さを計る単位「スコヴィル値」は、最初に辛みのテストを考案した化学者のウィルバー・スコヴィルにちなんで名付けられました。スコヴィルが1912年に考案したテストは、「唐辛子から抽出したカプサイシンを希釈し、ボランティアが辛みを感じなくなった希釈度でスコヴィル値を表す」という主観的なものでしたが、1980年代には抽出したカプサイシン濃度を直接測定する客観的な方法に置き換えられました。

完璧に辛みのないピーマンはスコヴィル値が「0」、タバスコソースに使われることで有名なタバスコペッパーはスコヴィル値が「最大5万」、世界で最も辛い唐辛子のペッパーXはスコヴィル値「270万」を記録しています。一方、複数のオンラインのソースによると、デンマークでリコールされたブルダック炒め麺のスコヴィル値は「約9000」とのことです。



◆辛い食べ物の快楽と危険性

極端に辛いものを食べることは強烈な経験であり、一部の人々は辛みの感覚を楽しんでいます。中にはあまりの辛さに神経伝達物質のエンドルフィンが放出されることで「ハイ」になる感覚を楽しんでいる人もいるそうです。

しかし、当然ながら辛みはやけどと同じような反応を引き起こすため、唐辛子などを食べてむせたり、泣きそうになったり、苦しんだりすることもあります。以下の動画では、以前世界一辛い唐辛子として名をはせていたキャロライナ・リーパーをかじった人のリアクションを見ることができます。

Eating a Carolina Reaper (HOT PEPPER) on live TV!!! - YouTube

また、唐辛子を食べ過ぎると過剰な発汗や吐き気、胃腸障害などにつながる可能性もありますが、辛い食べ物に関する長期的な悪影響を示す証拠はあまりないとのこと。しかし、2023年には世界一辛い唐辛子を使ったスナック菓子「Paqui One Chip Challenge」を食べた少年が、数時間後に死亡してしまう事例も報告されています。

世界一辛い唐辛子使用の激辛スナック菓子を食べた少年が数時間後に死亡、メーカーは「成人向け」と注意喚起 - GIGAZINE



◆辛すぎるものを食べてしまった場合の対処法

唐辛子を食べて「辛すぎる」と思った場合、慌てて水を飲むとカプサイシンが口の周りまで広がって事態が悪化する可能性があります。その代わりカプサイシンは脂肪に溶けるので、全脂肪の牛乳やヨーグルト、チーズなどを食べることをローチ氏はオススメしています。また、レモンやライムジュースなどの酸性食品は辛みを中和するのに役立つほか、パンや米といったでんぷん質の食品はカプサイシンを吸収して口内を休ませてくれるとのことです。