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経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は株式会社スカパーJSATホールディングスの業績について紹介したいと思います。
CS放送「スカパー!」で知られる同社は、1990年代から2000年代にかけて加入者数の増加とともに成長。特に日韓ワールドカップ放映権獲得した際には一気に認知度が高まりました。しかし、2010年代からサブスク動画サービスが台頭、あらにはYouTubeが市民権を得たこともあり、スカパー!の加入者数は年々減少しています。一方で衛星通信の需要は伸びており、従来のメディア事業から衛星を活用した宇宙事業へと転換を図っているのです。スカパー!の歴史と近年の動きについて見ていきましょう。

◆CS放送のプラットフォーム事業者として成長

日本で衛星放送が本格化したのは1990年代です。91年には国内初の有料BS放送として「WOWOW」の放送が始まり、92年にはCSのアナログ放送が開始されました。ちなみにBSは衛星衛星、CSは通信衛星という意味ですが、コンテンツの棲み分けでいえばCS放送はジャンルを絞った専門チャンネルを放映しています。

スカパー!の前身は96年に日本デジタル放送サービスが提供を開始した「パーフェクTV!」です。その後、98年に同業のCS放送プラットフォームである「JスカイB」と合併し、「スカイパーフェクTV!」に名称変更しました。2000年に「ディレクTV」を吸収したことで、これ以降、国内唯一のCSデジタル放送基盤となります。同年に加入件数は200万件を突破、2002年には日韓ワールドカップ放映権獲得で知名度を上げ、加入件数は300万件を突破しました。

07年には通信衛星事業を手掛けるJSAT株式会社と統合してスカパーJSATとなり、08年にJSATの競合であった宇宙通信を子会社化して現在の社名に変更しました。12年にはCS放送のサービス名を「スカパー!」に一元化しています。

◆加入件数は年々減少…

スカパー!は、現在約70のチャンネルを提供し、プレミアムサービスでは約140のチャンネルを提供しています。基本プランでは月額3,960円で11ジャンル、50チャンネルを視聴でき、プレミアムサービスの「プレミアムパック」では月額4,169円で59チャンネルを視聴可能です。1チャンネルごとに追加することもでき、各放送局はスカパー!を通じて収入を得る形です。

しかしながら、加入者数は年々右肩下がりなのです。2012年度の383万件をピークに減少し続け、22年度には300万件を下回り、24年3月期末時点で274万件になりました。2010年代以降の凋落はやはりサブスク動画市場の成長が影響しているでしょう。もともと地上波以外の娯楽として求められた衛星放送ですが、リアルタイムで好きな映画や歌番組を視聴できるサブスク配信サービスの魅力は大きく、NetflixやU-NEXT等に顧客を奪われました。

YouTubeの台頭もスカパー!凋落の一因です。CS放送は鉄道番組や旅番組など、チャンネルの専門性も魅力でしたが、コンテンツ数やジャンルは圧倒されており、そのメリットは失われました。YouTubeのサービス開始は05年で、07年には国内利用者数が1,000万人を突破し、現在では7,000万人以上が継続的に利用しています。月額料金の割高感やアンテナ設置の面倒さもスカパー!加入者数の減少に拍車をかけていると考えられます。

◆「伸び続ける宇宙事業」に活路が?

スカパーJSATホールディングスの2020年3月期から24年3月期における業績は下記の通りです。同社はメディア事業と宇宙事業を展開しており、スカパー!はメディア事業に含まれます。コロナ禍でもスカパー!の加入件数は伸びなかったようで、メディア事業の収入は年々減少しました。ちなみに22年2月期の減収は会計基準の変更が主な要因で、加入者数減少による減収幅は34億円です。