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 恋人や夫婦といつもどおり性行為をしただけで「こちらは嫌だった」などと言われ、訴えられたり逮捕されて5年以上の刑が科せられたりするかもしれない…。驚くなかれ、これは現実の話である。
 決して他人事ではない「不同意性交等罪」、一体どのような法律で、どのような行為が当てはまるのか。渋谷青山刑事法律事務所に所属し、実際に「不同意性交等罪」の相談を数多く受けている弁護士、有原大介先生に話を聞いた。

◆「不同意性交等罪」とは

 昨年2023年の法改正以前は、性行為をするために脅迫や暴行をした場合は「強制性交等罪」が、正常な判断ができない心神喪失の状態や抵抗が難しい状況を作り出して性行為をおこなった場合は「準強制性交等罪」が適用されていた。

「2023年6月16日に、さまざまな刑法案が成立しました。そのときに、“強制性交等罪”と“準強制性交等罪”という2つの犯罪が統合され、“不同意性交等罪”が新設。同年7月13日に施行されました。この法律は異性間だけでなく、同性同士にも適用されます」

 有原先生は、「この不同意性交等罪という法律は、本当は嫌だったのに『嫌だ!』と伝えられる状況になく不本意な性行為等を強要された人が声を上げやすいように新設されたということが根幹にあります」と続ける。

「改正前でも、カップルであれ夫婦であれ、相手が嫌だと拒否しているのに無理やり行為に及んだ場合などは強制性交等罪で罰せられています。ただ、強制性交等罪が成立するためには、暴行や脅迫を用い、反抗の抑圧が認められなければならないなど厳しい条件がありました。不同意性交等罪では、そういった要件が緩和され、暴行脅迫したり相手を心神喪失状態にしたりして行為に及ばなくても成立する可能性があります」

 この法律ができたことにより、日常的なDVやモラハラなどにより半ば性行為を強要されている状況など、救済の幅が拡大。ただ、処罰範囲が広がったことの負の側面として、恋人や夫婦と普段どおり性行為をしただけでも「本当は嫌だった」などと言われ、訴えられたり逮捕されたりする可能性も出てきたのだ。

◆どういうこと?いつもの性行為で逮捕も

「本当は嫌だったと後から訴えられることを防ぐために、一番わかりやすい方法は直接相手から行為の都度承諾を得ることです。はじめての相手ならともかく、恋人や夫婦との性行為で相手に承諾を得ながら進める人は少ないかもしれない。けれど相手から都度承諾を得ていたという事実は、いざ訴えられた時に当然ですが効果が絶大な反論になります。また、その都度“承諾を取る”という部分も注意すべきポイントです。キスをするときに相手から合意を得ても、キス以降は嫌かもしれない。相手からOKが出ない場合は、当然そこで止めなければいけません。つまり、動作のたびに相手の承諾を得る必要があるということです。ただ、こうなると雰囲気も何もない。興ざめしてしまいますし、現実的には恋人や夫婦間で都度承諾を得るということは難しいでしょう。

 本当に重要なことは承諾を得たか得ていないかという形式的なことではなく、相手の真意を読み誤らないことです。本当は相手は嫌がっているかもしれないと常に思いやり、相手の言動を見ながら慎重に行為に及ぶことが重要であり、それさえ守っていれば、大きなトラブルになることはないはずです。

 特に、恋人や夫婦であっても、稼ぎの違いなどから一方が経済的に大きく依存していたり、上司と部下など立場に大きな差がある場合は、相手がその影響力から性行為を半ば強要されているような状況になりやすいので、より慎重になる必要があるでしょう」

 法律が改正されて以降の相談率について尋ねたところ、「集計したわけではないのでハッキリとはわかりませんが、2倍ぐらいには増えた感覚です」とのこと。しかも、相手を陥れる目的で訴えるようなケースもあるというから恐ろしい。何か、対策はないのだろうか。