◆陥れられそうになるケースと対策

 性行為中には嫌がる素振りなどまったくなく、本人も同意していた可能性が高いにもかかわらず、警察へ駈け込まれたり訴えられたりすることも、法改正以降増えているようだ。このようなケースでは“フラれた逆恨み”、“浮気や不倫を知ってしまった怒り”などがトリガーになることが多い。

「中には、結婚相談所や出会い系アプリで相手の年収が嘘だった場合に不同意性交等罪で訴えてきたケースもあります。訴えられた側は、合意の上での行為であったと反論していくことになりますが、これが結構大変です。

 行為中は基本密室の中で2人きりのため、行為そのものに関しての客観的な証拠はなく証言してくれる人もいません。そのため、互いの供述の信用性を、2人が行為の事前事後にどのようなやり取りをしていたのかなどの証拠を集めるなどして判断し、不同意性交等罪が成立するかどうかを見極めていくことになります」

 一時的にでも逮捕や裁判となれば、真実はどうあれ社会的評価が下がることも考えられる。また、不同意性交等罪は相手が「嫌だった」と訴えれば基本的には捜査の対象になってしまうし、時効も15年と長い。性的な関係を持つたびにビクビクしながら暮らすしかないのだろうか。

「証拠は無いよりもあったほうがいいので、反論の手段として、LINEやメールのやり取りを残しておくという方法があります。別れたら相手の連絡先やメッセージの内容を完全に消去してしまう方もいますが、交通事故のときもドライブレコーダーの映像で有利になることがあるように、証拠が救ってくれることもあります。そのため、すぐに削除せず、何かあったときのために残しておいたほうがいいでしょう」

 LINEだと、簡単にブロック削除(ブロックしてから削除して、LINE上での関係を完全に絶つこと)できるが、グッと我慢して残しておきたい。心配な人は、アーカイブや2人で撮った写真などを残しておくという方法もあるだろう。

「とくに、“相手が素っ気ない”など変化があったとき“や“お互いの関係性が崩れてきたかも?”と感じたときは、要注意。行為のときには動作ごとに相手からの承諾を得て、やり取りなども残しておいたほうがいいでしょう。 また、相手から『訴える』と言われたり代理人弁護士や警察から連絡が来たりしても、『そんなはずはない』と放っておくと大事になる可能性もあります。逮捕等されて身動きがとれなくなる前に、早めに弁護士に相談するのがおすすめです」

 有原先生はそう説明しつつ、「すれ違いや性格の不一致などで普通に別れ、『相手を貶めてやろう』と考える人は少ないはず。しっかりとコミュニケーションを取り、相手を思いやって過ごしていれば、それほどビクビクする必要はないようにも思います」とも続ける。

 逆にいえば、遊びや相手が嫌がるような行為、浮気や不倫といった不誠実な対応をしていれば訴えられる可能性が高くなるのは必然ともいえるだろう。これを機に、相手と誠実に向き合うことや相手を思いやることの大切さを再認識する必要があるかもしれない。

◆盗撮動画で冤罪を立証しようとした男の話

 性的な関係を持つ相手と良好な関係を築き、継続していくことはもちろん、ときには訴えられたときに備えておくことも必要だろう。もっと確実な証拠を残しておきたいと考え、性行為の前に書面を作成してサインをもらおうとする人もいるかもしれない。

「こういったこともすべて同意しますというような書面をお互いに作成したものがあったとしても、ないよりもあった方がよいですが、結局『脅迫されて書いた』という主張が出てくれば無効になる可能性もあります。絶対に訴えられないよう対策を講じる方法は、ないといえるでしょう」

 ではさらに、性行為の様子をそのまま録画しておけばいいと考える人もいるかもしれない。ただ、相手に内緒で行為中の動画を隠し撮りすることは盗撮であり、犯罪です。あとから何か言われたら困るので録画しておいたという言い訳は通用しません。このような盗撮として立件されるケースも法改正以降増えてきています。確実な証拠を残すのは難しく、場合によっては自分が不利になる可能性があることも頭に入れておきたい。また、施行されたばかりで戸惑う内容も多い不同意性交等罪だが、訴えられる云々の前に、望まない性暴力への牽制や救済が根底にあることを忘れてはいけない。

<取材・文/山内良子>

【山内良子】
フリーライター。ライフ系や節約、歴史や日本文化を中心に、取材や経営者向けの記事も執筆。おいしいものや楽しいこと、旅行が大好き! 金融会社での勤務経験や接客改善業務での経験を活かした記事も得意