プログラマティック広告事業を拡大中のAmazonが、ポッドキャスト広告にも力を入れはじめている。

Amazonは今年初めに、自社運営のDSP(デマンドサイドプラットフォーム)の新機能としてポッドキャストのエピソード内にスポット広告をセルフで購入できるサービスを追加した。このサービスは昨年に英国で初導入され、このたび米国でも導入開始された。これにより同社は、広告主に対する新たな訴求ポイントとして、コンバージョン率の向上につながるプロダクトプレイスメントを提供するだけの「単なるリテールメディア・ネットワーク」にとどまらない存在感を示そうとしている。

米モダンリテールが目にしたAmazonの広告主向け販促資料によると、新サービスによってブランドは「さまざまなプラットフォームの広告枠にコンテンツを動的に挿入する」方式で広告配信が可能になる。資料には、Amazonミュージック、ワンダリー(Wondery)、アート19(Art19)など、同社が運営するオーディオサービスやポッドキャスト・ネットワークが紹介されており、情報筋によれば、これらのプログラムを通じて放映される番組内ではすでに音声広告配信がはじまっているという。

参入障壁の低いAmazonの動画や音声広告



インクレメンタム・デジタル(Incrementum Digital)の創業者兼CEOであるリラン・ハーシュコーン氏は「ポッドキャストのプログラマティック広告を活用する絶好のチャンスだ」と語る。「ある特定のポッドキャスト配信の代わりに、大規模な広告展開が可能になるからだ」。

Amazonはここ数年、ブランド各社を対象にミドルおよびトップオブファネルにおけるキャンペーンに利用してもらうことを意図して、広告インベントリを増やしてきた。その中核となるのが動画や音声広告で、同社はAmazonプライムビデオやTwitchといったプラットフォーム上で配信される商品スポット広告枠の販売を進めている。

特にAmazonはこれらの広告媒体について、従来型テレビに比べ参入障壁が低いというメリットをアピールしている。たとえばAmazonプライムビデオのテレビCM出稿料は1万5000ドル(約225万円)と低額で、さらに同社傘下のクリエイティブスタジオ(Creative Studio)を通じてCM制作のサービスまで提供されている。

しかし同社の狙いはテレビだけではない。アレクサ(Alexa)など自社運営の音声サービスにも狙いを定めており、いまや自社製品だけでなく、Apple PodcastsやSpotifyなど他社運営のオーディオプラットフォーム上の配信番組へも広告枠を拡げている。またCM制作サービスについてはテレビ向け広告同様、同社クリエイティブスタジオやそのチームを用意している。

より焦点を絞ったターゲティングが可能



Amazonが主張する同社の競争優位性は、ブランド広告主にとってよりターゲットを絞ったキャンペーン実施が可能という点にある。販促資料では、同社は広告主に対して、ポッドキャストのジャンルやカテゴリー、またはリスナーの居住地によって特定のオーディエンスにリーチできると説明している。

それこそポッドキャスト広告のメリットだと、ハーシュコーン氏は強調する。「ラジオCMは、音声広告として100年も前から放映されてきた。しかしラジオCMは、ターゲティング精度の面でも運用の自動化の面でも、ポッドキャストなどのほかの媒体による広告に及ばない」。

Amazonが制作、または所有するサイトのポッドキャストのなかには根強い人気を誇るものもあり、ハーシュコーン氏は例として、ワンダリーとのライセンス契約により配信中の「How I Built This」や、「Business Wars」のようなビジネス番組を挙げた。どちらもリスナー数が多く、B2Bのオーディエンスに訴求したい広告主にとっては魅力的な番組だろう。

Amazonのポッドキャスト広告では同社が提供するほかの全DSPのサービスと同様、ブランドのサーチリフトやブランドインプレッション等の測定指標により、キャンペーンのパフォーマンス効果を把握できる手段を広告主に提供している。

新サービスに慎重なブランド各社



導入間もない新サービスだけに、米モダンリテールが取材した多くのブランドやエージェンシーは、このサービスをまだ試していないと答えている。また、現時点では一部の機能に疑問が残る。ニュアンスド・メディア(Nuanced Media)のCEOを務めるライアン・フラナガン氏は「一定のブランド認知度向上の機会は期待できると思うが、トラッキング機能やターゲティングの制限については懸念がある」と話した。

具体的には、SpotifyなどAmazon以外のサイトでポッドキャスト番組が配信された場合、そのエンゲージメントをAmazonがそのように測定できるのかは不明だ。「アレクサを通じて再生されたポッドキャスト内の広告に反応したユーザーが『アレクサ、この商品を買って』と指示したとする。しかし、その行動データをどうやって追跡するのか?」とフラナガン氏は指摘する。

その疑問に対する答えは、おそらくポッドキャストで以前から使われてきた従来型の手法で探っていくことになりそうだ。ハーシュコーン氏によれば、AmazonからはDSPのコンソールを通じて測定結果の数値が提供されるが、それに加えてブランド側がキャンペーンの成果を追跡把握するためには、当該サイトに特注リンクやクーポンコードを挿入する必要があるという。

現在のところ多くの情報筋の話では、このポッドキャスト広告への支出に関して大半のブランドが様子見状態だという。多くの媒体で新たな広告枠が設定されるなか、多額の広告費をつぎ込む価値のある媒体を見きわめるのは難しいのだろう。

「誰もが最新、最良の商品やサービスに飛びつく傾向がある」とフラナガン氏は話す。「しかし我々は広告についてもう少し保守的な姿勢をとっている。まずは新たな広告商品に対応できる基盤づくりに注力し、その施策の効果が実証されてから、規模を拡大していきたい」。

[原文:Amazon Briefing: Amazon is selling brands on programmatic podcast ads]

Cale Guthrie Weissman(翻訳:SI Japan、編集:都築成果)