キムタク新ドラマ「Believe」 「岩盤支持率狙いで高視聴率は間違いない」と囁かれる根拠
キムタクこと木村拓哉(51)にとって1年ぶりの主演連続ドラマとなるテレビ朝日「Believe―君にかける橋―」(4月25日スタート、木曜午後9時)について、ドラマ制作者が「世帯視聴率なら10%は固い」と断じている。なぜ、そう言い切れるのか。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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キムタクの固い支持層は?
どうしてドラマ制作者は「Believe」の視聴率が10%を超えると断言できるのか? ポイントはその数字が世帯視聴率という点にある。
世帯視聴率は家族のうち誰かが1人でも観ればカウントされる。大人数が観ないと数字が上がらない個人視聴率、13歳から49歳までの個人視聴率であるコア視聴率とは特性が異なる。
家族のうち1人でも観れば数字が上がる世帯視聴率の場合、特定の世代に絶大な人気を誇る俳優やタレントが出る番組が有利。今のキムタクは若い世代からの人気は薄いが、青年期にフジテレビ「ロングバケーション」(1996年)などを観て過ごした50代以上の女性からは驚異的と言っていいくらいの支持を受けている。だから世帯視聴率が獲りやすいのだ。
キムタクのテレ朝での前作「未来への10カウント」(2022年)の同5月19日放送分を例にして具体的に説明させていただきたい。この日午後9時からの放送の視聴率は世帯が11.1%、個人が6.7%、コアが3.7%だった。世帯と個人は高いが、コアは平均よりやや上という程度だった。
ところが、50歳以上の女性に限った個人視聴率に目を移すと、目を疑いたくなるような数字が記録されていた。12.3%である。誰か1人でも観ればいいので、高い数字になりやすい世帯視聴率をも超えていた。50代以上の女性の10人に1人以上が観た。
年代によって支持が分かれたドラマ
同じ日にフジテレビが1時間遅れの午後10時から放送した「やんごとなき一族」の視聴率も参考までに記すと、世帯が6.0%、個人が3.3%、コアが2.6%だった。50代以上の女性の個人視聴率は5.7%を記録した。
一方で「未来への10カウント」は若い世代が驚くほど観ていなかった。女性の20歳から34歳(F1)の個人視聴率は2.0%、男性の20歳から34歳(M1)は同0.8%。女性の35歳から49歳(F2)も5.3%止まりで、男性の35歳から49歳(M2)も4.0%に過ぎなかった。
ここまで年代によって支持が分かれたドラマも極めて珍しい。若い世代にとって関心の的は主に20〜30代の俳優であり、木村はお父さんのような年代だから、仕方がないのだろう。キムタクとそのドラマの人気は50代以上の女性が支えていると言っても過言ではない。
「未来への10カウント」はストーリーも50代以上の女性を狙っているようだった。ケガで挫折した元花形ボクサー(木村)が、母校のボクシング部のコーチとなり、後進の育成と自らの再生を図る。満島ひかり(38)が扮した同じ高校の古文教師との恋バナもあり、古き良き学園ドラマの匂いを漂わせていた。
「Believe」はストーリーも50代以上の女性を意識
「Believe」のストーリーも50代以上の女性を意識しているに違いない。キムタクが演じる狩山陸は大手ゼネコンの土木設計部で部長を務める土木設計家。橋造りに情熱を燃やしている。まず“橋を造る男”という設定がシブい。
ところが狩山は濡れ衣を着せられ、投獄されてしまう。その後、脱走し、真犯人を追う。往年の米国人気ドラマ「逃亡者」(日本ではTBSが1964年から放送、テレ朝が2020年にリメイク)を彷彿させる。
もっとも、10%を超える世帯視聴率が獲れようが、実利はない。2020年4月に個人視聴率が導入され、これが基準値になって以降、局もスポンサーも使っていないからだ。
個人視聴率なら観た人の人数、性別、年齢、家庭内での立場などが分かるから、世帯視聴率を使う理由がないのである。世帯視聴率が良い場合のメリットは対外的に体裁が良いこと、一部メディアから叩かれなくなる程度のことに過ぎない。
半面、50代以上の女性の高い個人視聴率がほぼ確実に見込めるのは大きい。この放送枠のスポンサーは花王、ニトリ、山崎製パンなどで、視聴者が若い世代でなくても構わないのである。
岩盤支持層を追う作品、追わない作品
逆に50代以上の女性を狙わなかったキムタクのドラマはフジ「風間公親−教場0−」(2022年)。だから世帯視聴率はそう高くならず、全回平均は9.8%。しかし、フジも基準値は個人視聴率だ。中でもコア視聴率を重視しているから、世帯視聴率の2ケタ割れは全く問題ではなかった。
このドラマでキムタクが演じた刑事指導官は、無愛想でちょっと嫌味な初老の男。作風もハードボイルド・ミステリーだったから、岩盤支持層である50代以上の女性に歓迎されず、個人視聴率も上がらなかった。
このため、世帯視聴率も頭打ちになり、一部から「失敗作」との声も上がったが、フジ関係者たちはどこ吹く風。50代以上の女性が観なかった分、普段はキムタクのドラマを観ない若い世代を取り込めて、個人視聴率の全回平均が6.6%と高かったからだ。特にT層(13〜19歳)の個人視聴率は毎回全ドラマの中で1、2位を争った。
そもそも、このドラマの放送枠は「月9」(月曜午後9時)なのである。制作者は最初から若い視聴者を狙っていた。
そう考えると、2020年と翌21年のスペシャルドラマを連ドラ化し、キムタクに刑事指導官を演じさせたのは正解だった。この設定だったから、キムタクが指導する若手刑事役として、若い世代の支持が厚い赤楚衛二(30)、新垣結衣(35)、北村匠海(26)らを起用できた。
第一、今さら「月9」で50代のキムタクがラブストーリーをやったり、スーパーヒーローを演じたりしたって、若い世代は観ないだろう。
岩盤支持層を見誤りコケた映画も
キムタクの岩盤支持層の存在を見誤ってヒットに至らなかったと思われるのが2023年の映画「レジェンド&バタフライ」である。キムタクが織田信長に扮した。
製作費約20億円を投じたこの作品の興行収入は約25億円だった。観客が映画館で支払う入場料の総額である興収は、製作側と映画館側が折半するから、最低でも製作費が賄える40億円は欲しかったが、届かなかった。
この作品がヒットに至らなかったのは、50代以上の女性に敬遠されたからに違いない。キムタクの演じた信長は粗野で無骨。残忍な面もある。おまけに女性に対して横柄。しかも合戦シーンは生々しく、むごたらしかった。
「教場0」と同じく、50代以上の女性の代わりに若い世代が観てくれれば良かったのだろうが、生憎と若い世代は一般的に時代劇が苦手。作品の質は別とし、観客ターゲットがどこにあるのか分からなくなってしまった。この映画を封切りから間もなく観に行ったが、早くも空席がかなり目立ち、ガラガラと言って良い状態だった。
岩盤支持層と若い世代をダブルで狙う
一方、「Believe」は50代以上の女性はもちろん、それ以外の層の支持も取り付けたいだろう。若い世代にも観てもらわないと、コア視聴率が上がらず、スポットCM(番組と番組の合間などに流れる15秒のCM)の値段も高くならない。そうでなくてもテレ朝はコアの数字があまり良くない。
若い世代にも観てもらうため、まず共演者を工夫するのではないか。「未来への10カウント」では、キムタクが指導するボクシング部員役でKing & Princeの高橋海人(25)、村上虹郎(27)、櫻井海音(22)、山田杏奈(23)らを起用した。若い世代の視聴者を引き寄せるためでもあったはず。ただし、若い世代の個人視聴率は高まらず、功を奏したとは言いがたい。
「Believe」の共演者はまだ公式発表されていないが、キムタクの妻は天海祐希(56)、刑務所の所長は上川隆也(58)が演じるという。若い世代を意識したと思われる配役は、被害者と刑事の2役を務める竹内涼真(30)、キムタクのゼネコンでの部下役の一ノ瀬颯(27)、その恋人役の山本舞香(26)ら。
岩盤支持層以外も惹き付けることが出来るか。
高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。放送批評懇談会出版編集委員。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。
デイリー新潮編集部