出世街道を歩んできたブリット・オルセン氏は、4月1日付でスポーツウェア会社オン(On)のチーフコマーシャルオフィサーという新たな役職へと異動した。今まで、オルセン氏は同社の米州ゼネラルマネージャーを務めていた。オンの社員としては9年以上勤務している。

新しい役職では、現在の同社の勢いをさらに加速させるための大々的な取り組みをいくつか展開する予定だと、オルセン氏は米Glossyに語った。

「組織としては、まったく新しいマーチャンダイジングチームや、(同じく)少々新しい市場開拓リーダーを採用するつもりだ。これまでは全員が起業家精神旺盛で、あらゆることを実現してきたが、今後はビジネスの規模と複雑さに応じて新たなチームをいくつか結成することになるだろう」と同氏は言う。「小売やアパレルに関するより多くの専門知識も求められているため、それらのビジネスを構築する方法を理解している人材を採用する必要がある」。

オンは店舗やカテゴリー拡大を計画



オンの小売店舗をさらに展開させることも今年の大きな目標のひとつだ。現在、オンは全世界で33店舗を展開しているが、年内に15から20の店舗を新たに増やす計画だ。

「当社は頭から足先までを網羅するスポーツウェアブランドになりつつあり、自社独自の小売チャネルはそのことを伝えるのに貢献している。アパレルの売上は、ほかのどのチャネルよりも直営店での売上がはるかに高い」。

米州市場は同社ビジネスの3分の2を占めている。しかしオンは小売店舗を増やしていくにつれて、中国市場を中心としたグローバルな小売事業拡大へと徐々に焦点を移していくとオルセン氏は話す。「かなり前から当社は中国に店舗を構えてきた。それが中国市場で勝つための方法だからだ。中国は一般的にマルチブランドの卸売環境ではないため、そこで成功したければ自社店舗を持たなくてはならない」。

さらにオンは今年、カテゴリー拡大を優先する予定だ。今年2月、同社はトレーニングカテゴリーに正式に参入した。その戦略は、「ランニング用のパフォーマンス商品を、ジムでそのようなトレーニングを望む人々のためのユースケースに応用させる」ことだとオルセン氏は言う。

3月12日に発表されたオンの2023年度第4四半期および2023年度通期決算によると、同社の第4四半期の売上高は前年同期比21.9%増の4億4710万スイスフラン(約4億9800万ドル、約746億3000万円)だった。通期の売上高は前年比46.6%増の17億9000万スイスフラン(約19億9000万ドル、約2987億8000万円)となった。

オンというブランドが世界中の同社ウェブサイトや小売店へのトラフィックを過去最高に押し上げたことに加え、実証済みのマルチチャネル戦略が同社に成長をもたらしたとしている。

オルセン氏は3月中旬に開催されたショップトーク(Shoptalk)のパネルディスカッション登壇後、米Glossyのインタビューに応じ、オンがどのように新たな市場へと進出しているのか、パリオリンピックに向けて店舗では何を準備しているのか、そしてコマース事業をどのように進化させているのかなどについて語ってくれた。

D2C vs 卸売



設立当初、我々は(流通戦略を)明確に考えていた。当社はD2Cのみのブランドになりたいわけではなかったし、卸売だけのブランドになりたいわけでもなかった。当時、つまり14年前にオンが設立されたばかりの頃は、D2Cの人気ブランドがたくさん存在していて、メディアに取り上げられ、注目を集めていた。それは一部の業界においては成功していた。

だが井の中の蛙でありリソースも限られていた当社にとって、できるだけ早く消費者とつながることができる最善策のひとつは、ハイテクで高性能な商品の検証も可能な卸売だということはわかっていた。最高の卸売パートナーや専門業者と取引し、コミュニティとつながることが、常に当社の戦略だった。また同時にD2Cの存在感を高め、推進させていた。現在はブランドが変化したので、D2Cでさらに成長を促進させている。

我々は新しいカテゴリーに進出してきたが、卸売パートナー1社ではすべてのブランドストーリーを完全に伝えることは本当に難しい。それを実現できるのは、eコマース上のデジタル環境か、自社の小売店だけだ。

また、卸売パートナーを減らすつもりはないということも明確にしておきたい。そのような手段をとるブランドがあるのは知っているが、当社の戦略ではない。むしろ、当社は店舗拡大やアカウントの拡張にあまり興味がないのだ。(今は)D2Cの成長を加速させつつ、最高売上の達成と消費者と1番のつながりを持つ、もっとも成功している店舗を作ることに注力している。

オリンピックのチャンス



今年のオリンピックは当社にとって大きなブランド戦略なので、全員が注視している。我々は今年、いくつかエキサイティングなパートナーシップ提携を結んでいる。それについてはまだ話すことはできないが、まもなく公表する予定だ。当社は米国でもっとも人気のある陸上クラブのひとつを持っており、今ではオセアニア、ヨーロッパ、アジアへとそのクラブを拡大している。

これは素晴らしいことだ。正確な数はわからないが、オリンピックには30人近くの陸上競技の選手が出場すると思う。ここ数年で、当社は信じられないような才能を持つ選手をチームに迎え入れることができた。というのも、我々の商品をとても気に入ってくれているからだ。選手たちは、オンやそのチームと文化が大好きで、当社のパフォーマンスの背後にあるイノベーションを本当に推進してくれている。パリオリンピックはついに、我々が非常に大きな声明を発表する年となる。

メンバーシッププログラムとアプリの導入



現在、これまでになかったメンバーシッププログラムやロイヤルティプログラムに大きな投資をしている。ロイヤルティプログラムは今年ローンチしたばかりだ。またアプリも開発し、テスト的に一部の市場でのみ開始したが、とても成功している。我々はアプリの体験やショッピングジャーニーのあるべき姿に対して多くの投資をしている。このアプリはメンバーシップと連動しており、将来的に目標を達成する上で非常に重要なものだ。

ロイヤルティプログラムに関しては、マップ、ランニングクラブ、イベント、限定商品などを考えている。その価値は何か、なぜ会員になりたくなるのか、納得できるようなものを数多く提供する予定だ。

[原文:On’s Britt Olsen on the company’s category and market expansion plans]

TATIANA PILE(翻訳:Maya Kishida、編集:都築成果)