自分の興味がある何かとAIを掛け合わせることで、ビジネスの可能性が広がるという(写真:kapinon/PIXTA)

AIをはじめとするデジタル技術の発展に伴い、ビジネスモデルやサービスのあり方が変化してきた現在。サイエンス作家でもある理学博士の竹内薫氏は、この大きな環境の変化に対応するためには「思考センス」を磨く必要があると言います。とくにAIの新たな可能性に期待する同氏が、AIを駆使した新しいリスキリングの形について解説します。

※本稿は竹内薫氏の新著『東大卒エリートの広く深い学び方』から一部抜粋・再構成したものです。

もはや「後追い」のリスキリングでは生き残れない

「新たにこれを学べば次の仕事に生かせる」

「これを学んでおけば失業しないだろう」

リスキリングと聞けば、そのような考え方をしている人たちが多いと感じます。

たとえば、プログラミングはリスキリングでイメージされる代表的なものでしょう。

プログラミングを学んでおかないと時代に取り残されると考えて、プログラミングの基礎から学ぼうとする人がいます。

こうしたいわば「後追い」のリスキリングでは、これからの時代に生き残るのは難しいということに気づいてほしいのです。

いまや、プログラミングができる人は星の数ほど存在しています。さらに、いまはAIがプログラミングを生成してくれるような時代です。そこにいまから後追いで参入しても成功を手にするのは難しいといえます。

私は、このことを10年も前から述べてきました。むしろ、新たな考え方でリスキリングしていくことが大切なのです。これからの時代に必要となるリスキリングは、「自分の得意分野の知識とスキルを磨いていくこと」だと私は考えています。

「この専門分野だったらAIにも負けない」という、いわばオタク的な知識やスキルに磨きをかけていくこと、それこそがこれからの時代を生き抜くリスキリングになると思うのです。

プログラミングについても同じことがいえます。

「コンピュータが好きで好きでたまらない」

そんな人であれば、ハイスペックなコンピュータとAIを駆使しながらプログラミングを追求していくことが、リスキリングになるでしょう。

そうではなく、「プログラミングがいまの時代に必要なスキル」と世間でいわれているから仕方がなく学ぼうとしているのなら、やめたほうがいいというのが私の意見です。

まずは「自分の好きなこと」を自問してみよう

では、どのような視点でリスキリングに取り組めばいいのか?

まずは自分自身を振り返りつつ、次のように自問してみてはいかがでしょうか。

「自分の好きなことはそもそも何だったのか?」

「子どもの頃に好きだったことは何だったんだろう?」

これらがまさに、皆さんにとってのリスキリングを考えるうえで参考にすべきことではないでしょうか。

自分の好きなこと、あるいは子どもの頃に好きだったことを振り返って深掘りしていく。すると、いろいろなことにAIを利用するという選択肢が見えてくるものです。

「○○×AI」

これが、これからの時代におけるリスキリングのキーワードです。

このときに大事になるのが、「〇〇」の部分です。「〇〇」の部分に自分の好きなことや得意分野を当てはめていけばいいのです。

たとえば、「アート×AI」か、「音楽×AI」か、「文章×AI」か、「数学×AI」か、「英語×AI」か、「スポーツ×AI」なのか。それがたとえニッチなものでもいいし、ジャンルを問わなくてもいいのです。

このように、自分の好きなことや得意なことと、AIをどう掛け合わせてリスキリングするかという観点で考えてみてください。ヒントが見つかるはずです。

なかには「自分は昨今のデジタル化の波に乗り損ねて、AIなんてとてもじゃないけど使いこなせない」という人もいるでしょう。

そういう人ほど「〇〇×AI」のリスキリングのチャンスです。

なぜなら、あなたが苦手にしていることや弱点を補ってくれて、救世主となってくれるのがAIだからです。

もっとも望ましいリスキリングは「好奇心×AI」

まずは手始めに、「わからないことをChatGPTに質問してみる」くらいの気軽さでAIを使ってみてください。AIの力を借りることで、自分のスキルが底上げされていくことに気づけるはずです。

「〇〇×AI」のリスキリングについて、もう1つ重要なポイントをあげておきたいと思います。

一般的にビジネスパーソンが想定しがちなリスキリングは、「自分の仕事×AI」というものです。

ただ、目の前にある仕事とAIを掛け合わせようと考えているのであれば、その仕事が本当に好きかどうかを見極める必要があります。先にも述べたように、大切なのは「自分が好奇心を持って取り組める何か」とAIを掛け合わせることだからです。

「カメラが好き」

「旅行するのが好き」

何でもいいのです。まずは試しに取り組んでみて、「やっぱり楽しいな」と自身の好奇心が刺激されるかどうかを確認してください。

「どうやって好きなこととAIを掛け合わせていけばいいのか?」

これがもっとも望ましいリスキリングの考え方なのです。

ここで、もう1つのキーワードが出てきます。それは、「好奇心」です。

私の好奇心を刺激することの1つに、「コンピュータをいじる」というものがあります。

昔からコンピュータをいじっているのが大好きで、時間を忘れて没頭してしまうくらいでした。

私のコンピュータに対する好奇心を、AIと掛け合わせてリスキリングできないかと考えたときに思いついて、実行したことがあります。

私のフリースクールに通う小学6年生を対象に「生成AIとプログラミング授業」という形で、私の好きなコンピュータいじりを1つの授業として成立させたのです。

これが、自分の好き(好奇心)をAIと掛け合わせて仕事にするという、1つの発想パターンです。

一流企業から「小原流師範」に転身した友人も

もう1つ、ある事例をご紹介しましょう。私がカナダに留学していたときに知り合った日本人の友人にまつわる話です。

彼はとても頭がよく成績も優秀で、ブリヂストンという誰もが知る一流企業に勤めていました。

ところが、久しぶりに会って話をしていると、「いや〜、実は会社を辞めてね。いまは"お花"をやっているんだよ」と言うのです。

「ん……!? お花……??」

彼の話をすぐに理解できなかった私は、「お花って……、退職して花屋でアルバイトでも始めたの?」と訊くと、彼は「いやいや、いまね、やっと自分の生きがいを見つけてね。小原流という華道の師範をしているんだよ」と清々しい顔で言うのです。

そんな彼が、続けてこのようなことを言っていました。

「自分はこれまで必死に働いてきたけど、自分の会社人生を振り返ってみたら何も残っていなかった。それなりに一生懸命やってきたつもりだったけど、いざ定年を迎える時期に差し掛かったとき、結局、私にとっての仕事は自分の生きがいではなかったことに気づいたんだよ」

そんな彼が、いまやっと生きがいを見つけた。それが華道です。

「華道×AI」でさらなるスキル向上につながるはず

彼は時々、私のフリースクールにも教えに来てくれているのですが、彼の表情を見ているといつも「イキイキしているな」と感じます。


なぜ、彼は一流企業を辞めてまで華道に全力投球しているのか?

彼のお母さんがもともと小原流の師範で、幼少の頃から華道に親しんでいたからだそうです。社会人になってからも、お花が好きで華道を好きで続けていたといい、定年退職を待たず華道を自分の生きがいにしているというわけです。

そんな彼に、私が提案しようと思っているのは、「華道×AI」というもの。

これこそがリスキリングの本質であり、AIというテクノロジーをフル活用しつつ、彼の好奇心を刺激しながらさらなる知識の獲得とスキルの向上へとつながっていくに違いありません。

(竹内 薫 : 理学博士/サイエンス作家)