日本代表がアジアカップで優勝するための「ふたつの修正点」スペインの名指導者が指摘
「試合のメモを見直すと、『久保建英』の名前がとにかく目立って出てくる。何度もボールを奪い返し、ドリブルから果敢に仕掛け、セットプレーから得点を狙い、パスを呼び込み、シュートを狙い、実際に貴重な2得点目を奪った。攻守に欠かせない選手であることは間違いないが......」
スペイン人指導者、ミケル・エチャリはそう言って、アジアカップ、決勝トーナメントで日本がバーレーンを3−1で下した試合を振り返っている。
エチャリはかつてレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)でスポーツダイレクターを務めた経験から、今もクラブからアドバイスを求められるというが、久保への評価は当初から高かった。ラ・レアルの戦い方に適応する、と見込んでいたからだ。
「久保の活躍で勝ち上がったのは何よりだが、いくつか修正すべき点はあるだろう」
エチャリが語ったアジア制覇への条件とは?
攻守にわたる活躍でバーレーン戦の勝利に貢献した久保建英 photo by Sano Miki
「日本は4−1−4−1のシステムで戦っている。力の差がある相手だけに、自然と日本が押し込む形になった。自陣でボールを奪い合う形になっても、見事に回収。前半7分、中山雄太がつけたボールを久保、上田綺世が見事なコンビネーションでつなげ、攻撃を展開している。一連の流れで、CKから久保のキックを上田が狙ったシーンなどは白眉だった。
前半31分、バーレーンを押し込んだところ、日本は左から右へボールを運び、空いたスペースにサイドバックの毎熊晟矢が入って受け、すばらしいミドルシュートを放つ。その跳ね返りを、しっかりと詰めていた堂安律が押し込んでいる。先制点のシーンは、まさに両者の形勢を象徴するものだった。
そして後半4分には、久保が敵陣でボールを奪い取って上田にパスしたところ、相手ディフェンスがそのボールを触ってリターンになり、久保が左足でゴールに流し込んでいる。力の違いを見せた。
ただし、スカウティングの観点からすると、ふたつの不安があった」
エチャリはそう言って、貴重な提言をしている。
【強い相手と戦う時をイメージすると...】
「ひとつは、インドネシア戦でも述べたことだが、遠藤航のプレー判断にある。しつこいようだが、遠藤はセンターバックのポジションを守ることを意識するべきだ。
前半、遠藤はサイドのサポートまで積極的にしている。それは彼の『味方を助けたい』というキャラクターからきているのだろうが、とても危険である。アンカー、もしくはそれに相当するポジションの選手は、自分の場所を簡単に留守にするべきではない。センターバックの前のポジションは、もし逆襲を受けた場合、有事のスペースになるからだ。
もうひとつは、チームとして前線とバックラインが間延びする様子が見られる点だろう。
積極的なプレッシングによって相手ボールにふたをし、あわよくば奪い取るというのは決して悪い試みではない。しかしながら、プレッシングがチームとして連動しきれていないことで、ライン間に比較的、大きなスペースを生み出してしまっている。力のある相手だったら、それは策源地(後方の基地)になっていたはずだ」
エチャリの指摘は、極めて端的だった。確かに現状では最悪の事態は起こっていない。しかし、強い相手と戦った時のイメージと重ねると、修正が迫られる。
「すでに書いたように、GK鈴木彩艶はグループリーグを通じ、不安定なプレーを見せていた。この日もそれは変わっていない。失点場面だけでなく、その直前にも、弾き出すのか、弾き返すのか、キャッチするのか、とても不明瞭なプレーを繰り返している。
過去、日本のGKの印象は総じて悪くなく、失敗してもリカバリーする逞しさを見せており、それが『いい守りがいい攻めを作る』にもつながっていたのだが......。
後半途中から、バーレーンが無理に攻撃の比重を高めたことで、日本はカウンターを連発できるようになった。守りのカバーの意識がなくなったところ、上田がそれを見逃さなかった。素早いターンから裏を駆け抜けると、GKと1対1になって、豪快に右足で蹴り込んだ。
終盤、日本はディフェンスの数を増やし、カウンタースタイルに切り替えて決定機を何度も作ったが、ことごとく外している。交代出場の三笘薫、浅野拓磨は3、4度のチャンスがあっただけに、どれかを決めていれば、戦術的な狙いも達成したことになっていただろう。ただ、三笘の復帰は朗報と言える。彼が左サイドに入るだけで、攻撃の可能性が広がっていた」
エチャリはそう言って、最後に準々決勝のイラン戦に向けた教訓を記している。
「バーレーンの攻守の不具合を突く形で、日本は数多くのセットプレーを手にしていた。それ自体はすばらしく、キッカーの質も悪くないし、実際にチャンスも作っていた。ただ、チームとしてバリエーションが少ないし、これだけの回数があったら、やはり決めることで勝負を有利に持ち込めるはずだ。今は相手のセットプレーのほうが脅威になってしまっているだけに、改善が必要だろう」