アジアカップ決勝トーナメント1回戦の相手にバーレーンを引き当てた日本は、ラウンド16のなかで最もラッキーなチームのひとつだった。バーレーンはそこまでは強いとは言えず、むしろサプライズでここまで勝ち上がってきたが、先がないことはわかっていた。だから3−1で勝つのは、ごく当たり前のことだ。

 そして日本はこの試合に、アクセルをマックスに踏まなくても勝てることを知っていたのだろう。準々決勝のイラン戦に向けて力を温存することができた。次の試合ではベストの布陣で臨むことができるだろう。スタジアムにいた記者たちはみな、やはり優勝候補の一角に日本を挙げていた。


バーレーン戦の後半23分、アジアカップ初登場となった三笘薫 photo by Sano Miki

「日本が勝って当然」と思っていたのは、バーレーンサポーターも同様で、試合後の彼らはむしろ満足げな表情でさえあった。試合を見るために12台のバスに乗ってスタジアム入りしたバーレーンのサポーター、そのうちのふたりに話を聞いた。

 ハサン・ハサンは「東アジアのチームとアラブのチームの間には大きな違いがある。今日、我々はそれを目の当たりにした。バーレーンのサッカーは残念ながら、日本にはまだ遠く及ばないね」と言う。またハサン・モラディは「バーレーンが負けたのは悲しいけど、日本に負けたことに満足している。日本はクリーンで冷静なサッカーをするし、相手をリスペクトしてくれるし、なによりフェアなチームだ」と、日本を称えた。

 この試合を取材していたバーレーンのモハメッド・アスヨ記者は、「アジア大会ではミスは許されない。日本はバーレーンのミスを見すごさなかった。もし今日の相手が日本でなかったら......たとえばシリアやパレスチナだったら、バーレーンにも準々決勝に進む可能性はあったろう。でも日本のような第一級で、偉大なサッカーをし、優秀な監督に率いられたチームに勝てるチャンスは皆無だ。実力が上のチームが勝っただけのことだ」と、あきらめ顔だった。

 一方、敗戦の直後ということもあり、バーレーンの選手の口数は少なかった。そのなかでふたりの選手が、この試合について語ってくれた。

【「三笘を見るだけのために来た」】

 欧州でのプレー経験もあるFWのアブドゥラ・ユスフは、「この試合を楽しみにしていた。日本は自分たちがプレーするだけでなく、相手にプレーをさせてくれるチームだからだ。この大会に出ているいくつかのチームは、ファウルが多かったり、汚い手を使ったりする。でも日本のサッカーはクリーンだ。だからこそバーレーンはベストのプレーを見せなければいけなかった。だが、残念ながらそうはならなかった。試合は日本にほぼ支配されていた。日本はベストではなかったかもしれないけれど、拍手に値するプレーを見せた。偉大なチームであることを証明してみせた」と語った。

 またMFハッザ・アリは「この試合はアジアカップのなかで一番難しいものだった。日本の強さは知っていたけれど、もしかしたらまた、イラク戦のようなことが起きないかと期待していた。我々はあの試合の映像を、2回、3回と見直し、日本の弱点を探した。しかしヨーロッパの強豪で経験を積んでいる日本の選手はやっぱり上だった。日本はやはり強かった。バーレーンはこの大会のチャンピオンに負けたのかもしれない」と言う。

 そして、ファン・アントニオ・ピッツィ監督は次のように振り返った。

「非常に難しい試合だった。我々が対峙した相手は、戦術的にも、フィジカルでも、バーレーンより優秀なチームだった。この日本は強い。スピードがあり、テクニカルでクレバーだ。選手ひとりひとりの能力もとても高い。交代選手もスタメンの選手たちとおなじクオリティーを持っている。また、日本は同じ監督のもとで5年、プレーしている。これは大きな強みだろう。今回、日本と対戦したことはいい経験となり、バーレーンにとっては将来のための勉強となった」

 アジアカップの記者席にヨーロッパ人は少ないが、この試合にはふたりのイギリス人記者(ジョナサン・レジャーとマイケル・シュリー。ともにフリーランス)が来ていた。彼らに話を聞くと、ふたりは三笘薫を見るためだけにカタールに来たのだと言う。

【大きな発見だった毎熊晟矢】

 三笘はブライトンの大黒柱で、「ブライトンは両手を広げて彼の帰還を待っている」と言っていた。彼らの意見では、この試合のMVPは、たとえ出番が少なくても三笘。彼らはあらためて、ブライトンが三笘を獲得したことに大いに満足していた。「三笘は日本の心臓であり魂だ」と。

 実際、後半になってゴールを奪われ2−1とされると、日本のパフォーマンスは低下しかけていた。しかし森保一監督はその時すかさず三笘を投入し、日本は蘇った。助けが必要なまさにその最高のタイミングでフレッシュな三笘を入れた、抜群の采配だった。

 バーレーン戦を見て筆者は確証した。森保監督の最大の特長は、特別な戦術でもフォーメーションの妙でもなく、自分が有する選手たちから最高のものを引き出すインテリジェンスなのだろう。バーレーン戦では特に遠藤航と堂安律、そして久保建英から特別なものを引き出した。その意味で彼は本当に偉大な監督だ。

 一方でこれまでと同様、この試合でも日本の課題は守備とGKだった。この大会の日本は、弱いチームが相手でも、1度も無失点で終わっていない。守備の選手には恐怖心が見える。そのため中盤の選手はいつも戻らなくてはいけない。失点をカバーするためにゴールするのはチャンピオンチームのすることではない。

 日本の選手は非常に成熟し、プロフェッショナルであり、ヨーロッパのサッカーに馴染んでいる。それは上田綺世や遠藤、堂安のポジショニングや動きに垣間見えた。これは何を意味するのか。日本はもうかつてのような、よく言えば純粋無垢な、悪く言えば馬鹿正直なチームではないということだ。久保や上田はどうしたらゴールできるのかを知っている。そして森保監督はそれを最大限に利用している。

 そしてこの試合で、筆者の興味を最もひいた選手は毎熊晟矢だった。日本の武器は「監督」「ハイレベルな選手たち、上田、堂安、久保、遠藤......」、そして3つ目が「毎熊」の存在だ。

 毎熊のいつでもゴールに向かおうとする姿勢は、相手にとっては嫌なものだろう。彼は守ることもできるし、サイドアタッカーにもなれるし、驚くほど強力なシュートを放つこともできる。私にとって毎熊は大きな驚きであり、日本の秘密兵器だと思った。今後、彼にはより輝かしいキャリアが待っていると思う。私にとっては彼を知ったことは大きな収穫だった。

 ここまでの日本は、まだ手放しで偉大だと賞賛される試合をしていない。森保監督も会見で「まだ100%ではない」と言っていたが、私もそう思う。ただし、改善されつつある。これは確かだろう。