アジアカップで久保建英(22歳)が森保ジャパンを牽引している。決勝トーナメント1回戦のバーレーン戦後半、久保自らがチーム2点目を決めたシーンは象徴的だ。

 敵陣での激しい応酬のなか、味方が相手にボールを奪われた後、久保はうまく囲い込んで奪い返す。間髪入れず、上田綺世との"あうんの呼吸"でスルーパス。久保自身は相手のラインを動揺させるため、あるいはパスのリターンもあり得るとして、裏に走る。

 一方、上田は久保の意図を感じ、ボールを触らずに反転から右足のシュートモーションに入ったが、それを感じ取れなかった堂安律とお見合いの恰好に。流れたボールを相手がカットしたが、これが久保の足元へ転がり、難しい体勢から左足で確実にファーサイドへ流し込んだ。

 久保が守備のスイッチを入れたショートカウンターであり、失敗の「保険」もかけており、実際に自ら決めた。これほどの独壇場はない。そのタレントは格別と言える。

 一方でインドネシア戦の久保は、ボールを失う回数が多かったことをやたらと批判されていた。どこかに不具合はあるのだろう。なぜレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)での輝きを放っていないのか?


バーレーン戦に先発、2点目となるゴールを決めた久保建英 photo by Sano Miki

 グループリーグのイラク戦とインドネシア戦、そしてバーレーン戦で先発した久保は、トップ下、もしくはインサイドハーフと言われるポジションに立っている。他のふたりのMFと違う高さでプレーすることが戦術的な縛りだろうか。久保はトップに近い位置が基本で、守備ではほぼ2トップの一角となるだけに、やはりトップ下と呼ぶべきだろう。

 バーレーン戦、トップ下の久保はボールロストの回数が少なくなって、得点も記録できている。その理由は、単純に職分を明確化した結果だろう。下がってボールを受けても、相手を引き連れてしまい、そこで囲まれてサポートも受けられない。本来はチームとしてサポート態勢を張り巡らせるべきだが、それがないことで上田、堂安、中村敬斗の近くでプレーし、攻撃の活性化に割り切ったのだ。

【コンビネーションが乏しく攻撃は単発】

 したがって、バーレーン戦で久保のプレーが劇的によくなったというよりも、「久保自身がそうせざるを得ない状況で仕事を効率化させた」と言うべきだろう。チームのプレー内容も、劇的に改善されたわけではない。久保が中盤に落ちる回数が減ったことで、前線とバックラインの間延びも目立ち、FIFAランキング86位(日本は17位)の相手を攻撃で圧倒できなかったのが現実だ。

 率直に言って、森保ジャパンで久保の才能は半分も引き出されていない。

 たとえば久保は、何度もいいタイミングで足元にボールを要求しながら下がったが、パスが付けられる機会は少なかった。リスクとの天秤だろうが、チームとしての共通理解ができていない。55分、板倉滉が果敢に久保の足元につけた時、久保は周りを敵に囲まれながら鮮やかにターンし、左足で堂安にパス。この一瞬で防衛ラインを破っていた。堂安のパスはやや中途半端で、上田が抜け出したもののオフサイドの判定だったが......。

 久保は相手の寄せを怖がっていない。むしろ自分に引き寄せてパスを受け、味方にアドバンテージを与えている。前半、中山雄太のパスを自陣で受けた時、上田にフリック。リターンを受け、敵が削ってきたところをダイレクトで上田へ送るシーンがあった。これが、その後の波状攻撃につながって、久保のCKから上田が豪快なヘディングシュートも見せた。

 久保は上田との連係は悪くなかった。しかし、3人目、4人目のコンビネーションが乏しく、単発。彼が作り出す渦が、大きなうねりになっていない。それがラ・レアルとの違いだ。

「タケ(久保)はどのような状況でもプレーをキャンセルし、ベストのプレーを選択できる。彼は左利きだが、右からでも左からでもボールを持ち出せる。だからプレーを読みきれない。選択肢を絞りにくいから、守る側にとっては相当に骨が折れる」

 ラ・レアルでクラブ史上最多出場を誇る伝説のセンターバック、アルベルト・ゴリスが現地取材でそう答えていた。

「タケはスピードと同時にテクニックが高く、いろいろなプレーの選択肢があるんだよ。ドリブル、パス、シュート、なんでもござれだ。ひとつひとつのフェイントをとってもクオリティは高い。おそらく、そのタレントが連係を重んじるラ・レアルのプレースタイルとマッチして、(力が)増幅している。だから、チームに広がりを与えられるし、これからも期待できるのだ」

 ひとつの仮説にすぎないが、久保は森保ジャパンでプレーレベルを下げてピッチに立っているのではないか。彼のプレーはもっと迅速でアイデアに溢れ、ディフェンスを粉砕する破壊力がある。日本代表でもそれぞれの選手の力量は申し分ないだけに、その関係性を作れていないのはチームの問題だろう。

「連係力」

 それが久保の異能である以上、どんなチーム戦術であっても、ピッチに立つ選手と関係性を結ぶことはできる。それは日本の武器になるだろう。鎌田大地が不在で、三笘薫が万全ではない状況で、久保がチームを引っ張るしかないのだ。

 イラン戦でも久保はマークされるだろう。だが、独力で久保を止めることができるディフェンダーはアジアカップに見当たらない。