結果を残すチームは、ふたつの要素を満たすものだ。

 主軸となる選手が計算どおりに稼働しつつ、スポットライトの外側から内側へ入り込む選手が出現するのである。

 "マイク"が、やってのけた。

 1月31日に行なわれたアジアカップのラウンド16で、日本はバーレーンを3-1で退けた。この試合でふたつのゴールに絡んだのが、マイクこと毎熊晟矢である。


バーレーン戦で大活躍した右サイドバックの毎熊晟矢 photo by Sano Miki

 0-0で迎えた31分、敵陣左サイド寄りでボールを動かしていたところで、遠藤航がサポートに入る。いくつかの選択肢を持てているなかで、キャプテンは中央へ横パスを送った。

「左サイドに流れて数的優位を作れていたので、そこをシンプルに使ってもいいのかなというのはあったんですけど、あの場面は相手がかなり左に寄っていたというのもあったので、中央にスペースがあった。いいタイミングで入ってくれたし、あそこに出せはミドルを打ってくれるかなと」(遠藤)

 ペナルティエリア正面でパスを受けたのは、右サイドバックの毎熊だ。

「人との距離感は常に意識していますし、自分があの場面で外にいると人と人がつながらないと思ったので、そこをつなげるために、あそこにポジションを取りました。遠藤選手にもあそこに立つことでパスの選択肢が増えるので、そういったところはここに来る前から意識しています」(毎熊)

 この場面では久保建英が右サイドのタッチライン際へ開き、堂安律がゴール前へ詰めていた。久保も堂安もいないスペースを埋めることで、毎熊はチームのパスワークをつないだ。それだけなく、先制点のきっかけを作り出した。

「(29分に)相手に1本シュートを打たれたあとに、モニターに0-1って出てたので、シュートを打ててないんだなと。けっこう押し込んでたのにシュートを打ててないなと感じたので、あそこは相手もうしろに重かったですし、自分があの中のスペースで受けたら打てるなと思って」

 スムーズなボールコントロールから右足を振り抜くと、ライナーの一撃がゴールへ向かっていく。「軌道的に入った」と思ったが惜しくも左ポストを叩き、跳ね返りを堂安が蹴り込んだのだった。

【久保・堂安の"わがまま"に合わせられる選手】

 アジアカップ開幕を前にした「右サイドバックの序列」は、菅原由勢がファーストチョイスで毎熊は2番手だった。グループステージ初戦のベトナム戦、続くイラク戦は菅原が先発した。毎熊はベトナム戦に途中出場し、イラク戦は出番がなかった。森保一監督がスタメンを大きく入れ替えたインドネシア戦で、スタメン出場のチャンスがまわってきた。

 背番号16を着ける26歳は、ここで持ち味を発揮する。同サイドの堂安、久保を後方からサポートしつつ、攻撃に効果的に関わっていったのだ。タッチライン際も内側のレーンも使えるのは菅原との共通点だが、堂安と久保のコンビネーションをグッと際立たせることができるのは、毎熊の強みと言っていいだろう。

 彼らふたりの立ち位置を確認しながら、タッチライン際と内側のレーンを使い分けているのだ。自身を含めた3人がうまくつながる角度や距離感も考えられている。

「ふたりとも技術力がありますし、個で何でもできる選手です。まずは簡単にあずけて、そこからもう一度ポジションを取り直すのは、常に意識しています」(毎熊)

 さりげなくも確かな毎熊の存在感が、久保には頼もしい。後半開始直後に2点目を決めたレフティーは、「今日の試合は彼がMVPなのかなと思います」と話した。

「僕もけっこうわがままですし、堂安選手も見てわかるようにわがままですし、それに毎熊選手がうまく合わせてくれている。彼はすごくいい選手なんで。サッカーを知っているほど、わかると思う」(久保)

 2-1で推移する72分には、勝利を決定づける3点目に絡んだ。右センターバックの板倉滉からタッチライン際でパスを受けると、縦へ持ち出しながら相手を交わしたタイミングで内側へ運び、狭いスペースで上田綺世へパスをつなぐ。巧みなターンで抜け出した上田が、GKの股間を破るシュートを決めたのだった。

 もっとも、3点目の流れを振り返る本人に笑顔はない。

「上田選手がうまく顔を出してくれて、個人技で決めてくれた。僕のパスはいいパスではなかったです」

【積極的なプレーで最多のボールタッチを記録】

 3-1としたあとの日本は、FWの枚数を増やした相手に合わせてCBを投入した。守備時は5バックとなることで毎熊のポジションもやや後方になるが、後半アディショナルタイムにも敵陣へ飛び出していった。サイドバックとしての活動量も、彼の長所にあげられる。

 ボールへの関わりも多い。後半のアディショナルタイムが終わろうとするところで、電光掲示板にボールタッチ数が表示された。両チームの選手から上位5人を抜き出したもので、最多は毎熊だった。サイドバックのポジションで、いかにゲームに絡んでいるのかがわかるだろう。

 準々決勝のイラン戦は、バーレーン戦から中2日で行なわれる。森保監督のここまでの起用法から判断すると、いくつかのポジションで選手の入れ替えがあるかもしれない。

 毎熊について言えば、ここまではディフェンス面での負荷がそこまで大きくない。押し込まれたなかでどこまで攻撃に関われるか、それも負けたら終わりのハイプレッシャーのなかでこれまでどおりの回数を確保できるかといったことについては、インドネシア戦とバーレーン戦では確認しきれていない。

 そのうえで、イラン戦でも毎熊を見たいとの声は高まっている。優勝候補同士の激突で価値ある働きを見せれば、彼だけでなくチーム全体へ勢いが波及するだろう。

 開幕前はスポットライトの外側に立っていたマイクに、光が当たりつつある。