日本代表のストロングポイントはバーレーン戦でも明白 終盤のシステム変更が上昇ムードに水を差した
後半27分。内へ切れ込んだ右サイドバック(SB)毎熊晟矢が右足のアウトで縦パスを送ると、1トップの上田綺世は次の瞬間、GKと1対1になっていた。放ったシュートがGKの股間を抜けると、スコアは再び2点差に広がった。3−1。これがこの試合のファイナルスコアとなった。
日本はその8分前に1点差とされていた。相手のヘディングシュートにGK鈴木彩艶とカバーに入った上田が交錯。オウンゴールを生んでいた。事故と言えば事故、不運と言えば不運だ。しかし、日本は今大会この手の失点が多すぎることも事実。いいサッカーができていないことが、「こんなはずじゃなかった」と精神的なノリを悪くし、思わぬ焦りを生んでいるところがある。ヘンな力が入ることでバランスを崩し、落とし穴に嵌まりやすい状態にある。
だが、それでもここまで勝ち上がってきた理由は、ひとえに相手の弱さにある。バーレーンとは2レベルほどの差があった。バーレーンのパスワークは、受け手と出し手の二者間の関係しかなかった。三角形が見えないサッカー。パスの受け手は、トラップするや日本選手の餌食になった。
3−1でバーレーンを破った日本代表の先発イレブン photo by Sano Miki
ベトナム、インドネシアも同様だった。2度ぐらい大きな事件に巻き込まれても、日本は勝てる関係にあった。そうした意味での2レベル差になる。イラクは1レベル差。次の対戦相手であるイラン(準々決勝)は0.5レベル差だろう。
日本の苦戦を受け、「アジアのレベルは上がった」と、原因を外に求めようとする人がいる。森保一監督もそのひとりだが、少なくとも日本との基本的な差は詰まっていない。
バーレーンとの差はかつてよりむしろ広がっていた。第2期岡田ジャパン時代は、W杯予選とアジア杯予選で2回も敗戦を喫している。その頃に比べたら何倍も安心して見ていられた。それでも事件は起きた。日本は1点差に詰め寄られた。
日本のサッカーが全開になったのは、毎熊―上田のコンビで奪った3点目の後だった。その4分前に三笘薫が投入されたことも輪をかけた。このムードを大切にしたい。このサッカーを熟成させたい。この流れで4点目を狙いたい。アジアカップ優勝へ向け、視界良好となったかに見えた瞬間だった。
【勢いを削いだ終盤のシステム変更】
その矢先の後半35分、日本ベンチは堂安律と上田を下げる一方で町田浩樹と浅野拓磨を投入。4−2−3−1を5バック(5−2−3)に変更した。「守備固め」。頭をよぎるのは野球でよく使われる、サッカー的とは言えない用語だ。サッカーのスコア3−1は、野球で言えば6−1ぐらいの差に相当する。相手の力を考えれば、それ以上だろう。野球はそれでも抑え投手を送り込むなどして、慎重に守備固めを図る場合がある。あり得る交代かもしれない。
しかしサッカーのコンセプトに照らしたとき、この交代は適当だったか。筆者には、芽吹いたつぼみを自らの手でいたずらに摘み取るような交代に見えた。
ようやく、いい調子になったのに。待ちに待った瞬間が訪れたのに、後ろで守ってどうする。アルスママを埋めた3万人余りの観衆もこれを機に、スタンドを続々と後にした。
もっとも5−2−3とはいえ、選手は実際、布陣どおりには並んでいなかった。顕著なのは3の右に座ったはずの南野拓実で、真ん中やや右寄りといった程度だった。左ウイング然と構えた三笘とは左右非対称の関係にあった。
前にも述べたことだが、南野にサイドアタッカーとしての適性がないことは、この5−2−3を見ただけでも一目瞭然になる。相手が弱いのと、戦意を喪失した状態にあったので、穴にはならなかったが、プレッシングサッカー的な視点で言えば問題あり、だ。なぜこのタイミングで、文字どおり後ろを固めようとする作戦に出るのか。繰り返すが、筆者にはサッカーの本質に相応しい作戦とは思えない。
さらに言えばこの時、1トップは浅野だった。今回、選ばれている日本の1トップのなかで、最もボールが収まらないタイプのCFである。5−2−3はそれまで使用してきた4−2−3−1に比べ、1トップが孤立しがちな布陣だ。ポストプレーヤータイプをトップに据えないと、サッカーは落ち着かない。
これは意図的なのか否か。いずれにしても問題だ。野球的にはいい終わり方だとしても、サッカー的には違う。いつか痛い目に遭う日が来る。筆者にはそう思えて仕方がない。
【イラン戦をどう戦うか】
南野のポジションが不明確になったことで、毎熊は身動きが取れなくなった。日本の先制点は、0−0で迎えた前半31分、毎熊のミドルシュートがポストに当たり跳ね返るところを堂安が詰めたことで生まれた。先述のとおり、上田の3点目にも毎熊は絡んでいる。最後まで彼には活躍の機会を残しておきたかったとは率直な感想だ。
毎熊は急速に進歩を遂げた印象がある。ボールを身体の正面に置きながら運ぶようにドリブルするフォームがなにより今日的で、進行方向を相手に読まれにくい強みがある。
SBが活躍したチームが勝つ、とは筆者が欧州取材を通して得たサッカーの考え方だが、それに照らせば、この日の毎熊はマンオブザマッチにさえ挙げたくなる活躍だった。
もう一枚の右SB、菅原由勢も悪くないし、中山雄太、伊藤洋輝が構える左SBも、長友佑都が不動だった時代から長足の進歩を遂げている。日本のSB陣は、前日、サウジアラビアに延長、PK戦勝ちした韓国との比較でも大きく勝っている。SBとウイングのコンビネーションこそが、日本のストロングポイント、生命線だと見るが、なぜそこを森保監督はもっと追求しようとしないのか。毎熊と南野の関係にはそうした意味でも納得できなかった。
3バックを否定しているわけではない。問題はなぜ自ら引いて5バックとするのか、だ。3−4−3を維持できるはずなのに、5−2−3を決め込む理由がわからない。上昇ムードに水を差す5バックへの変更だった。
続くイラン戦。伊東純也が欠場するならば、右ウイングには久保建英を使いたい。堂安に足りない縦方向への推進力が久保にはある。堂安を使うなら反対に1トップ下のほうがいいのではないか。
ウイングとSBの関係が冴え渡れば、日本の優勝は見えてくる。