古川琴音、“世界三大映画祭“受賞監督の現場が転機に。監督から言われた「セリフは覚えないで来てください」

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2018年に女優デビューして以降、高い演技力と圧倒的な存在感で快進撃を続けている古川琴音さん。

2020年には、連続テレビ小説『エール』(NHK)に出演。昭和という激動の時代に、人々の心に寄り添う曲の数々を生み出した作曲家・古山裕一(窪田正孝)とその妻・音(二階堂ふみ)の愛娘・華役を演じて話題に。同年、映画『蒲田前奏曲』の一篇『蒲田哀歌』(中川龍太郎監督)、『この恋あたためますか』(TBS系)に出演。

2021年には、転機となった映画『偶然と想像』に出演。古川さんは、三つの短編からなるこの映画の一篇『魔法(よりもっと不確か)』に主演した。

 

◆中国語のセリフに苦労

映画『蒲田前奏曲』は、中川龍太郎監督、穐山茉由監督、安川有果監督、渡辺紘文監督による連作スタイルの長編映画。売れない女優・蒲田マチ子(松林うらら)の目線を通して、女として、女優として理不尽なことを求められる社会への皮肉を、ユーモアを交えながら映し出していく。古川さんは、その中の一篇『蒲田哀歌』に主演。マチ子が彼氏と間違われるほど仲の良い弟の恋人役を演じた。

――あの作品もちょっとユニークな設定でしたね。

「はい。看護師さんの役で難しかったですね。監督がドキュメンタリーチックに撮る方だったので、サプライズというか、事前に知らされていない質問を急にされて、その質問に役を通して答えなきゃいけなくて少し戸惑った記憶があります」

――撮影で印象に残っていることは?

「結構古い商店街もあったので、昔の日本を感じる場所で印象に残っています。早朝に誰もいないアーケードを走るシーンもあって楽しかったです」

――出来上がった作品をご覧になっていかがでした?

「何か夢の中のようなきれいな映像になっているなと思いました」

同年、古川さんは、『この恋あたためますか』(TBS系)に出演。このドラマは、アイドルグループをクビになった主人公・井上樹木(森七菜)がやっていたSNSでのスイーツ批評がコンビニチェーンの社長(中村倫也)の目に留まり、それがきっかけでコンビニオリジナルの「一番売れる」スイーツ開発を手がけることに…という展開。古川さんは、樹木とルームシェアをしている北京生まれの中国人・スー(リ・スーハン)ちゃん役を演じた。

「すごく楽しい現場でテンションが上がりました(笑)。苦労したといえば、やっぱり中国語ですね。中国語は本当に難しかったです。でも、プロデューサーが中国の方だったので、その方にセリフを読んでもらったのを録音して、聞いて練習しました。その方にチェックしてもらって、ネイティブな発音ができるように何度も何度も練習しました」

――その後には『コントが始まる』(日本テレビ系)というドラマもありました。ずっと作品が続いていますが、デビューされてからお仕事が空いたことはありますか?

「本当にありがたいことに、ずっとスケジュールが詰まっていて。忙しいというわけではないですけれど、休みを入れつつもお仕事をいただいています」

――気持ちの切り替えはスムーズにできていますか?

「はい。ドラマでも映画でもそんなに大きな違いはなくて、1回やったら気持ちを切り替えて、すぐ次の作品のことを考えて…というのを繰り返しているという感じです。同じ日にふたつの作品を撮影するというのはないので、切り替えに苦労したことはないですね」

 

◆ステイホームで規則正しい生活に

2021年、古川さんは、映画『街の上で』(今泉力哉監督)に出演。この映画の主人公は、下北沢の古着屋で働く荒川青(若葉竜也)。生活圏は異常に狭く行動範囲も下北沢という彼に、突然自主映画への出演依頼が舞い込む。そんな非日常的な出来事が始まった数日間を描いたもの。古川さんは、青を取り巻く4人の女性のひとり・田辺冬子を演じた。

――不倫相手が突然亡くなって…という設定でしたね。

「はい。古本屋の店員役で。あの映画はコロナ前に撮って、コロナが落ち着いたあとで公開されたんです。コロナ後と言っても、ステイホームの期間が終わった直後に『街の上で』が公開されて。

コロナの前とは、下北沢の街の風景が本当にガラッと変わっていたんですよね。だから、自分が撮った映画で、わりと最近のことなのに、それがノスタルジックに映るというのが、何か貴重な体験だったというか、びっくりしました。『街の上で』はその印象が強いです」

――ステイホームの間は、撮影も全部ストップしていたと思いますが、どのように過ごされていたのですか。

「家でいろいろな映画を見たりしていたのですが、その直後に『エール』の華ちゃんの役のお話をいただいたんです。あのときは、『エール』も再放送というか、追っかけ放送みたいに最初から放送していたので、それを見ながら、いただいた台本を読んだり、準備をいろいろしていたかなと思います。私はわりとお休みが好きなタイプの人間なので、何かすごく健康的になりました」

――ステイホームの間は、どんな毎日だったのですか。

「本当に規則正しい生活でした。朝早く起きて散歩して、ご飯を作って食べて。それで映画を見て。お店もそんなにやってなかったので、散歩と自炊と運動のルーティーンでしたね。楽しかったです。

それまでは音楽をちゃんとゆっくり聴く時間もなかったのですが、サブスクとか、いろんなところが、ステイホーム期間限定で公開してくださったりしていたじゃないですか。だから、いろいろ家で聴いて楽しんでいました」

 

◆濱口監督に教わったこと

2021年、古川さんは転機となる映画『偶然と想像』に出演。2021年のカンヌ映画祭で『ドライブ・マイ・カー』が4冠に輝き、2020年のベネチア国際映画祭では、共同脚本を手がけた『スパイの妻』(黒沢清監督)が銀獅子賞(監督賞)を受賞した濱口竜介監督作。

この映画は濱口監督初の短編オムニバスで、三つの物語が展開。古川さんは、第一話『魔法(よりもっと不確か)』に主演。『偶然と想像』は、第71回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞して話題に。

「『偶然と想像』で濱口監督に教わったこと、今もずっとそれを土台にお芝居をしています。『偶然と想像』は、撮影に入るまで1カ月間、リハーサル期間があって、そこでやったことは、『偶然と想像』以後も、どの作品に入るとしてもやってから入るようにしています」

――どんな感じだったのですか。

「監督には、『セリフは覚えないで来てください』って言われていて。皆さんと読み合わせをしていくうちに、自然に入れていくんです。

セリフを覚える時点で、それまでは、『こういう心境だろうな』とか、その役の気持ちを考えながら入れていたんですけど、濱口さんはそうではなくて、『1回このパンフレットの文字を読むようにセリフを読んでみてください』という感じで、セリフを入れていくという感じで。

それをボイスレコーダーに録って、そのボイスレコーダーを毎日聞いているうちに、自然とセリフが体に染み込んでいくような、そういうことをリハーサルではしていました。結構独特のスタイルだと思いました。

そっちのほうが、カメラの前で自由になれるというか。自然とセリフは口に馴染(なじ)んでいるものなので、あとはそれを気持ちに乗せるだけ。そこに気持ちを乗せるというよりも、こうやってインタビューを受けているときみたいに、自分の気持ちが乗ったところにセリフがスッと入ってくるような感じですね。これはそれまでの現場ではやってこなかったことなので、新しく学んだことでした。

それで、セリフを覚えるときは、相手のセリフも自分で読んでボイスレコーダーに入れて、それを聞きながらお散歩したりしています。そうすると効果的に耳にもからだにも入るし、気持ちも馴染んでくるという感じで。いろいろな意味で濱口さんの現場を経験したことで大きく変わりました」

――古川さんは個性的でありながら、演じる役柄によって何色にでも染まるというか変幻自在で、あどけない少女のようにも見えるし、役によっては妖艶にも見えます。

「ありがとうございます。どちらかと言うと個性的な役をいただくことが多いですね」

2022年に出演した映画『メタモルフォーゼの縁側』(狩山俊輔監督)では人気漫画家役に挑戦。この映画は、BL(ボーイズラブ)漫画を通して、書店でアルバイトをしている17歳の女子高生・うらら(芦田愛菜)と、夫に先立たれ孤独に暮らす老婦人・雪(宮本信子)が年齢を超えて友情を育んでいく様を描いたもの。古川さんは、うららと雪が愛してやまないBL漫画を執筆する漫画家・コメダ優を演じた。

――劇中、漫画を描くシーンも結構ありましたね。

「あれは練習しました。サイン会のシーンがあって手元が映るので、実際映画で使われている漫画家さんの絵と、描いている様子の動画をいただいて、その動画を見ながら練習しました」

――お上手でしたね。普段から絵を描いている方なのかなと思っていました。

「あのときが初めてでしたけど、最近絵を描くのが好きで、たまに描いています。全然うまくいかなくて下手なんですけどね(笑)」

役と真摯に向き合い、役柄によって変幻自在にまったく別の姿を見せる古川さん。ドラマ、映画に立て続けに作品に出演。現在、『幽☆遊☆白書』(Netflix)が配信中。主演映画『みなに幸あれ』(下津優太監督)が公開中。2024年2月10日(土)からポレポレ東中野で主演映画『雨降って、ジ・エンド。』(郄橋泉監督)が公開される。

次回は撮影エピソード、撮影裏話も紹介。(津島令子)

スタイリスト:藤井牧子
ヘアメイク:伏屋陽子(ESPER)