エビス350mlを飲みながら日本―ベトナム戦を見守る久保竜彦【写真:荒川祐史】

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アジアカップをTHE ANSWER編集部で観戦、カタールW杯の好評企画がここに復活

 サッカー・アジアカップカタール大会は14日、グループリーグ初戦で世界ランク17位・日本が同94位・ベトナムに4-2で白星発進した。一時逆転を許しながら再逆転で勝利を飾ったアジアNo.1への船出。2022年のワールドカップ(W杯)カタール大会で独自の解説がひそかに話題となった元日本代表FW久保竜彦が1年ぶりに東京・中目黒にあるTHE ANSWER編集部を訪問し、試合を観戦した。高校からJリーグ広島に入団した当初の先輩で、結婚する際、入籍届の保証人になってくれた“心の師”森保一監督が率いる日本の初戦を熱烈に見守ったドラゴン。独自の視点で振り返った解説インタビューに先駆け、その様子をレポートする。(文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 前日に雪もちらついた冬の中目黒に、ドラゴンがいつもの姿で帰ってきた。

「やっぱ、素足やと血の巡りが良くなるけんね。ちっちゃい頃からそうやったもん。はだしで外も遊んで。先生に廊下に立たされても、親にケツたたかれても」

 一張羅の黒のジャージに、季節の概念を崩壊させるビーチサンダル。

 駅前にそびえるナカメの象徴、アトラスタワーが見下ろす山手通りを歩いて、久保竜彦が編集部に凱旋した。

 時を遡ること1年と少し、日本に「ブラボー!」と「ななふぅん!」がこだましたカタールW杯。

 引退後、自由を求めた山口の港町・室積でコーヒー焙煎に、塩作りに野菜作り……異色のキャリアを歩む伝説のストライカーの感性を4年に一度の舞台で輝かせたい。そんな想いから、編集部に呼び寄せ、缶ビールを飲みながら日本戦を観戦、解説する。異色の企画は当時、一部サッカーマニアの間で好評を呼んだ。

 ポケットからガラケーが落っこちるほど熱狂した興奮をもう一度――。

 二つ返事で快諾してくれた。仕事を終えて大阪から東海道新幹線に乗り、久々に戻ってきた中目黒。「昔もたまに飲みに来よったよね。人が多いのは好かんけど、街は綺麗やし」。腹ごしらえに入った宮崎料理の居酒屋、アサヒ瓶ビール5本とハイボール1杯で喉を軽く潤す。

 そして、午後8時30分の試合開始に向けて移動すると、今夜もキックオフの笛より早く、エビス350mlの「プシュッ」という音が編集部に響く。

 刹那、その時は訪れた。画面に映し出された人物に目を剥き、絶叫した。

「ええー!! トルシエやん! ええー!! 今、ベトナムの監督なん。すんごいね……」

 相手のベトナム代表を率いるのはフィリップ・トルシエ。「全然、好きじゃない。大嫌い。ダバディは好きやった」。現役時代に初めて選ばれた日本代表で監督を務め、「赤鬼」の異名を取った指揮官とは犬猿の仲が囁かれた、浅からぬ因縁がある。

「いつから監督、やっとん。なんだか(風貌は)変わらんな」

 画面越しの“再会”とともに、ドラゴンの波乱のアジアカップは幕を明けた。

編集部に響いた「んあー!」

「こういう(格下の)相手には、1点決めるまでよな。決めたら相手も『こうやりたい』『こうやりたい』って選手が(意図が)ぶつかり始めるから」

 その貴重な先制点を、前半11分に南野がもたらす。左CKの流れからこぼれ球に反応。「んあー!」。パン、パンと手を2度叩いて喜んだ。

 しかし、ここからまさかの2失点で逆転を許す。

 よもやの打ち合いに、最近ガラケーからまた新しく替えたガラケーに着信音が鳴っても画面から目を離さない。早々に2缶目に手をつけ、ナッツをせわしなく口に運びながら、つぶやく。「今のベトナムサポーター、めっちゃ可愛いやん」

 45分に2度目の「んあー!」が響く。南野が同点弾。「股か! 股の股か! 上手かったな」。遠藤からのアシスト、南野のシュートが続けて相手の股を抜き、思わず唸った。直後に中村が強烈ミドルで逆転弾。「んあー! よう、この角度から決めるな」

 ハーフタイムにDAZNで映った小野伸二に「シンジ、めっちゃメガネやん」とツッコミ、始まった後半は停滞ムード。時々鳴るガラケーにも目が向く。「ちょっと前にぶっ壊れたんよ。携帯なくてもええかなと思ったけどね。どーにかなるやろ、手紙とかでも」

 3-2のまま残り10分。業を煮やして、3缶目のエビス350mlを開けると、流れが変わった。

 直後の82分。途中出場の堂安、久保らがつないで、最後はまた途中出場の上田が右足一閃。「(リズムが)『タン! タン! パーン!』やったね。(シュートの)振り、速かったもんな」。ダメ押し弾で日本は、とにもかくにも勝ち点3を手にした。

 画面には、森保監督とトルシエ監督が熱く健闘を称え合う様子が映し出される。

「うわ。めっちゃ(手を)握っとる。でもトルシエがやってベトナム、強くなっとんな」

 そして、試合後に実施したインタビュー。

 一人だけ違いを感じたという日本の選手、トルシエが進化させたベトナムサッカー、今大会で覚醒を期待したいストライカーまで。まもなく長女に第1子が生まれ、47歳のおじいちゃんになるドラゴンは深夜になっても、饒舌に、情熱的に分析した。

 時計の針はてっぺん近く。ほんのり赤くなった顔はすっかり上機嫌。

「勝ったけえ、良かったよね。(今後の戦いが)楽になって。また次も、ここで観ようや」

 そう言い残し、夜の中目黒に消えていった。

 なお、インタビュー記事は近く配信する。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)