今中慎二が分析する中日打線が「怖くない」理由 中田翔ら積極補強のプラス効果を解説
今中慎二が語る中日の現状 野手編
(投手編:中日投手陣の課題をズバリ指摘 無駄なフォアボールを減らす解決策とは?>>)
中日のエースとして活躍した今中慎二氏に聞く中日の現状。野手編では、ここ数年のシーズンで大きな課題になっている得点力不足、中田翔をはじめとした今オフの積極的な補強について語った。
中日への入団会見で握手を交わす中田翔(左)と立浪和義監督 photo by Sankei Visual
――ピッチャー目線で見る、中日の打線の課題は?
今中慎二(以下:今中) 投手編でも少し触れましたが、フォアボールが取れません(リーグワーストの306個)。積極的に打っていくこともいいのですが、それに適した場面がありますし、凡打がポンポンと続けば相手は勢いづきます。
打っても単打が多く、そこまで長打が出るわけでもない。だからこそフォアボールや進塁打など小技を絡めていきたいのですが、それもできない。相手の投手に「ヒットぐらいは仕方がない」と思われて、どんどん投げてこられるとバッターは苦しいと思います。
――昨年日本一になった、阪神のフォアボール数はリーグトップの494個と、中日とは真逆の結果でした。
今中 それも1位と最下位の差ですね。中日は打者がフォアボールを取れず、逆に投手はフォアボールを出してしまう、という傾向が4月ぐらいから出ていました。
――今オフの積極的な補強についてはいかがですか?
今中 シーズン終了後に慌ててやっているわけではなく、立浪和義監督が夏場ぐらいからずっと考えていたプランなんじゃないかと。ずっと他チームの選手を調査し、狙っていた状況ではあったと思います。
チームの得点圏打率(.229)がリーグワーストで、チャンスに弱いバッターが多いわけですから、一番の課題はそこ。打率がいい・悪いではなく、チャンスに1本が出ないのは厳しいです。そこは中田翔や中島宏之(ともに元巨人)ら、獲得したベテランに期待しているんじゃないでしょうか。
――中田選手には、シーズンを通して主軸としての活躍が期待されています。
今中 中田がフルイニング出られるかとなると、そこはちょっと疑問です。中島、(ダヤン・)ビシエドも状態がよければ3人の併用も考えられる。ビシエドはよくも悪くも日本の野球に慣れちゃったところがありますね。「それでも使ってもらえるだろう」と思っていたかもしれませんが、昨年は二軍落ちも経験して、メンタル面もやられたのかもしれません。
【細川、石川も「怖さは感じない」】――現役ドラフトで入団してブレイクした細川成也選手や、プロ4年目で初めて規定打席に到達した石川昂弥選手はどう見ていますか?
今中 細川が活躍したのは昨年だけですし、「どれだけ相手に研究されても、これくらいの成績は残してくれる」と計算できる選手ではないですね。昨年も「やれた」というより、「やらせてもらった」という感じですから、今年も気を抜かずに頑張ってほしいですね。
石川に関しては、他のチームだったら使ってもらえないくらいの成績です。なんとなく、漠然としているというか......。バッティングで何かを掴むとそれが感じられるものなんですが、試合に出ているのに掴みきれていない感じがします。
――今中さんが現役だったとして、今の細川選手や石川選手と対戦するとなったらいかがですか?
今中 怖さは感じませんね。選球眼がいいわけでもなく、ファアボールの心配もない。少々のボール球ならどんどん振ってくれますから。たまに長打も出ますけど、ここ一番のチャンスの時などは「打ちたい」という気持ちが強くなって、コースが悪くても振ってしまう。その問題は、このふたりに限ったことではないですけどね。
打つゾーンをもう少し高めにする、コースを決める、球種を決めた上で積極的に打ちにいく、といった意識があればいいですが、単に来たボールを打っているという印象があります。それで凡打になるケースも多いですし、ピッチャー側からすると、彼らの場合はランナーがいる時のほうが攻めやすいです。
――同じ右のスラッガー、中田選手はいい影響を与えそうですか?
今中 いい影響があるでしょうね。中田も以前はボール球を振ってしまう傾向がありましたが、近年は違います。日本ハムにいた頃よりも、打席で「なんとかしよう」という姿勢が出ている。状況によってバットを短く持つなど、ピッチャーや状況に合わせていろいろ工夫しているのがわかります。中日の打者たちに欠けていることなので、いい部分は取り入れてほしいですね。
【ピッチャーが嫌がるバッターの条件は?】――ソフトバンクからは上林誠知選手も獲得しました。
今中 獲得の理由のひとつは、38歳の大島洋平に衰えが見え始めたことにあると思います。守備では捕殺ができないので、ランナーをぐるぐる回されてしまう。上林は2022年に断裂したアキレス腱が懸念点ですが、万全の状態であればシーズン開幕から起用することもあるんじゃないかと。もちろん、大島は必要な選手ですから、外野の起用法は注目です。
外野は固定せず、岡林や細川、鵜飼航丞やブライト健太も含めて全員を競争させるほうがいいと思います。春季キャンプもその方向で進むんじゃないかと。シーズンに向けてある程度は青写真を描いていると思いますが、キャンプで変わる可能性は十分にあります。
――成長著しい岡林勇希選手はどう見ていますか?
今中 確かにヒットは打てていますが、個性はあまりないですね。大島しかり、当て逃げするようなバッターが今の中日には多い。岡林は長打がないわりにフォアボールも多くないですが、龍空などもそうですし、そういうバッターがスタメンに3人もいたら投げるほうはラクですよ。塁に出ても、足を使うわけでもないですし。
――確かに、昨年のチーム盗塁数36はリーグワーストでしたね。
今中 岡林は足が速いはずなのに、あまり走らない(12盗塁)ので全然怖さがない。また、打率(.279)は残せていますが、得点圏打率(.284)はもっと上げてほしいです。もっと「ピッチャーが嫌がるバッター」になっていかないといけませんね。
――ピッチャーが嫌がるバッターとは?
今中 引っ張るバッティングをされるとピッチャーは嫌ですね。特にバンテリンドームでは、逆方向にホームランを打つのが難しい。でも、引っ張ると長打になる可能性が高くなります。それができるようになると、投手が「長打もあるぞ。打たれちゃいけない」と思うようになり、フォアボールも取れるようになっていくんです。
その点、岡林はセンターから逆方向ばかりに打っている。追い込まれたカウントならいいですが、初球からそうですから。逆方向に打つ美学でもあるのかな、というぐらい逆方向へ打っている印象ですね。例えば阪神の近本光司などは引っ張ることも多く、パンチ力がありますよね。阪神では中野拓夢も引っ張る打球が強いですし、やはりそうじゃないとピッチャーにプレッシャーをかけられないんです。
――引っ張れないバッターは怖くない?
今中 反対方向に打つと「うまい」と言われることがありますが、そういう打者は怖くない。左バッターであればショートゴロ、サードゴロに打ち取れますし、たまたま三遊間を抜かれたら「仕方ない」と割り切れます。立浪監督も現役時代はガンガン引っ張っていましたし、ホームランもある程度は打っていましたよね(二桁本塁打をマークしたシーズンは9回)。
赤星憲広(元阪神)も、最初は当て逃げタイプでしたけど、引っ張るようになってからはフォアボールも取れるようになって3割を打てるようになった。いいバッターは、小柄かどうかは関係なく引っ張るんですよ。
――それでも、打線において岡林選手にかかる期待は大きいんじゃないでしょうか。
今中 そうですね。チームの勝利に貢献できる選手になっていってほしいです。速いボールを仕留められるようになるのも課題ですが、相手が嫌がることを考えて打席に入れば、ワンランク上のバッターへと成長できるはずです。
【プロフィール】
◆今中慎二(いまなか・しんじ)
1971年3月6日大阪府生まれ。左投左打。1989年、大阪桐蔭高校からドラフト1位で中日ドラゴンズに入団。2年目から二桁勝利を挙げ、1993年には沢村賞、最多賞(17勝)、最多奪三振賞(247個)、ゴールデングラブ賞、ベストナインと、投手タイトルを独占した。また、同年からは4年連続で開幕投手を務める。2001年シーズン終了後、現役引退を決意。現在はプロ野球解説者などで活躍中。