今中慎二が語る中日の現状 投手編

 2023年シーズン、56勝82敗5分で球団史上初となる2年連続の最下位に沈んだ中日。数字を見ると、チーム得点(390)、打率(.234)、本塁打(71本)、得点圏打率(.229)、盗塁(36個)はリーグ最下位と、打線の強化が最重要課題と考えられるが、かつての中日のエース・今中慎二氏は「投手陣にも問題がある」と言う。昨年のピッチャー陣の投球を振り返るとともに、新シーズンに向けた課題を聞いた。


昨年はチームの勝ち頭である小笠原慎之介も7勝12敗と大きく負け越した photo by Sankei Visual

【無駄なフォアボールが多い】

――まず、2023年シーズンの中日の戦いぶりについて、全体的な印象を聞かせください。

今中慎二(以下:今中) とにかく点が取れませんでした。ほかにも要因があるから最下位なんでしょうが、真っ先に目立つのはそこですよね。どのチームも長いシーズンの中で点が取れない時期はあるのですが、中日の場合はずっと低調なままで、好調な時期はほとんどありませんでした。

―― 一方でチーム防御率(3.08)はリーグ2位。ピッチャー陣は奮闘していた?

今中 「防御率がいい」とも言われますけど、与えたフォアボールの数は一番多いんです(リーグワーストの445個)。明らかに無駄なフォアボールが多く、エラーなども絡んでそれが失点に結びついて負けるパターンも多いですね。

 防御率がよくても、無駄なランナーを出したり、試合のリズムを崩すような立ち上がりが多い。ピッチャーのリズムの悪さは守備、バッティングにも影響します。なので、一概に「打線が全部悪い」というわけではないんです。ピッチャーも責任を感じなければいけないし、チーム全体で責任を分かち合わないと。

――先発陣とリリーフ陣、どちらが課題ですか?

今中 一緒ですね。フォアボールは全体的に多いですから。リリーフ陣であれば、僅差の勝負どころでフォアボールを出して決勝点につなげられるなど、踏ん張りがききませんでした。

 打たれる怖さがあるから余計なフォアボールを出してしまうんでしょうけど、今の中日にはストライクゾーンでどんどん勝負していけるピッチャーも多いと思うんです。それなのに、コースを狙いすぎるピッチャーが多い気がします。

【広い本拠地のメリットを生かせていない】

――大胆に攻めていくことも必要?

今中 そうですね。例えば阪神のピッチャー陣は、細かいコントロールで攻める感じではありません。パワーで押すか、落として振らせるか。攻め方はいい意味で大雑把というか、ベース板の上で勝負している。

 それに対して中日のピッチャーは、コースを狙って見逃し三振を取ろうとしすぎているような印象があります。際どいところを突いて、それがボールになってフォアボールになる。そこが勝敗や順位に出ているんじゃないですかね。みんな、ランナーがいる時・いない時もピッチングが一緒なんですよ。ランナーがいない時から、コースにビシビシ投げる必要はありません。

――どんな状況でも、ギアを入れっぱなしで投げている感じでしょうか。

今中 そうですね。1〜8番バッターまでずっと同じように投げていて、メリハリがない。もう少し、ストライクゾーンに大胆に投げていけば、フォアボールや球数を減らせると思います。球威がないなら際どいコースをつく必要もありますが、そこそこ力のあるピッチャーが多いですから。

――なかなか味方打線が点を取れないことで、投手陣が「点を取られてはいけない」と硬くなっている部分もありそうですか?

今中 「早い回から点を取られてはいけない」と考えて投げているピッチャーは多いですね。立ち上がりからそんなことを意識していたらしんどいですよ。だから逆に、初回に失点することも多くなる。立ち上がりは「今日の自分の調子がどうだろう?」と手探りで入るものだと思いますし、打線が点を取る・取らないは二の次です。

 それと、以前まではバンテリンドームを苦手にしていたビジターのチームが多かったのですが、最近はそれがなくなってきましたね。各チームのピッチャーも、「広い球場でどういうピッチングをすればいいのか」を理解できている。中日が強かった時期は長打があるバッターが多かったので、相手ピッチャーが警戒してフォアボールも多く取れていましたが、今はそれもないですね。

 DeNAの投手陣などもどんどん大胆に攻めていますよね。フォアボールを取れないと、連打や本塁打が難しい広い球場で点を取っていくことは難しいです。

――広い球場を本拠地にしているメリットを生かせていない?

今中 そうですね。ある程度は大胆に投げていってほしいです。今までは中日の投手陣はそれができていたのですが、最近は得点力が落ちているので「点を与えてはいけない」という意識が強くなりすぎているんでしょう。

【先発ローテは「競争させるべき」】

――新シーズンの先発ローテーションは、柳裕也投手、郄橋宏斗投手、小笠原慎之介投手に加え、昨年4月に左肘を手術した大野雄大投手も戻ると思いますが、どう見ていますか?

今中 僕は「大野を先発ローテーションに入れるの?」と疑問に思っています。手術明けで昨年はほぼ投げていないですし。少しでも投げて、多少なりとも手応えを掴んでシーズンを終えているのであれば「いけるかな」と思いますが、投げずに終わっていますから。春のキャンプには慎重に入るでしょうし、開幕からローテーションに入るのは無理じゃないでしょうか。

 ここまで話してきたように、力のあるピッチャーは他にもいます。梅津晃大らも復調してきている。過去の実績があるからといって、簡単にポンと枠をもらえるような薄い先発陣ではない気がします。

――梅津投手は、2022年3月に右肘の靱帯再建手術(トミー・ジョン手術)を受けましたが、昨年8月に復帰して以降のピッチングをどう見ていましたか?

今中 8月31日のヤクルト戦が復帰登板で、合計3試合に先発しましたが、まずまずのピッチングだったと思います。来季は先発ローテーション候補だと思いますが、ローテーションに入れても、中6日以上は空けて球数を見ながら回していくと思います。

 手術後のピッチャーはデリケートなので、それくらい気を使わないといけません。なので、春先から無理はさせられない。ドーム球場はいいですが、甲子園球場や神宮球場での春先のナイターは寒いですし、あまり無理はさせたくないですね。

 助っ人の(ウンベルト・)メヒアもいますし、柳、郄橋、小笠原あたりがローテーションをしっかり回ってくれればいいのかなと。あとは、大卒のドラフト1位ルーキー・草加勝がうまくいけばローテーション入りの可能性があるでしょうか。ただ、あまり無理はさせられませんし、春季キャンプでいいものを見せてくれるかどうかですね。

――先発陣の競争は激しくなる?

今中 そうですね。ベテランでも、あぐらをかいていると足をすくわれると思います。春先は多くのピッチャーをどんどん投げさせて、競争させていけばいいんじゃないかと。涌井秀章に対しても「ベテランだから枠をひとつあげる」ということはせず、全員を競争させるべきです。みんなで切磋琢磨できれば、先発陣は昨年以上に頑張ると思いますよ。

(野手編:中日打線が「怖くない」理由 中田翔ら積極補強のプラス効果を解説>>)

【プロフィール】

◆今中慎二(いまなか・しんじ)

1971年3月6日大阪府生まれ。左投左打。1989年、大阪桐蔭高校からドラフト1位で中日ドラゴンズに入団。2年目から二桁勝利を挙げ、1993年には沢村賞、最多賞(17勝)、最多奪三振賞(247個)、ゴールデングラブ賞、ベストナインと、投手タイトルを独占した。また、同年からは4年連続で開幕投手を務める。2001年シーズン終了後、現役引退を決意。現在はプロ野球解説者などで活躍中。